何も語らない探偵
僕は、探偵だ。
行くところ、行くところ、必ず何か事件が起きる。
僕が今いるのは、洋館である。しかもその洋館、ありがちなことに、人里離れた場所にある。途中の道が、崖崩れか、橋の崩落かが起きれば、陸の孤島である。
これは、何か起きますよ、と言わんばかりの場所である。
「あぁ、また起きるのだろうな……」
と思っていると、早速、事件がやってきた。
聞こえたのは、この館の家政婦の悲鳴だろうか。その声に、家の人たちが、何事かと集まってくる。
その部屋には、バラバラの死体が落ちていた。
「う〜ん、これはひどい」
僕は顔をしかめた。
この部屋は、ドア以外鍵がかかっていた。そして、廊下の防犯カメラが、この部屋に誰も出入りしていないことを物語っている。つまり、この部屋は、密室だった。
しかし、防犯カメラの映像に仕掛けがしてあったのは、一目瞭然だったので、トリックのほうは、なんとかなりそうだった。
あとは、誰が、やったかということ。
部屋は、争った形跡がない。被害者は抵抗するまもなく、殺されたのだ。犯人は、殺しただけでは飽き足らず、ばらばらにしている。よっぽど、この人物が憎かったのか、それとも、別に意味があったのか。
いつまでも、現場にいても仕方がない。
容疑者について、調べよう。
愛人のA。
黒髪ロングヘアーの女性で、赤いドレスが印象的だ。
家政婦の話によると、最近は仲がよろしくなかったようだ。。
別れ話が縺れて……?
友人のB。
黒く焼けた肌の好青年。
家政婦によると、被害者に借金していた。
まさか、借金が返せなくて……?
恋人のC。
青い目、金髪の女性。「アイ アム ガイジン」と言っている。被害者の恋人だ。
家政婦によると、愛人がいることは知っていたらしい。
変人のD。
天然パーマの毛が6本頭から生えている。ペロペロキャンディを振り回して、ホゲホゲいっている。
家政婦の話では、被害者のペットのようなものらしい。
まさか、このキャンディで……?
人参のE。
真っ赤な肌に、緑色の髪の人参。
家政婦の話によると、被害者は大の人参嫌いらしい。
嫌われたことに、怒って……?
最後は、犯人のF。
笑顔が不敵な全身タイツの黒い男である。
家政婦がいつも目撃していたのは、被害者と喧嘩している姿だった。
つい、カッとなって……?
「一体、誰が、犯人だろう」
僕の頭はクエスチョンマーク。気分転換に庭へ出た。
草が風に揺らされて、かさかさ音を立てる。
「今回の事件も難しそうだ」
僕は、手帳のメモを見直す。鉛筆で、雑な字で、文字が書かれている。
「バラバラ殺人事件」
赤い字で目立つように書いてある。
僕はじっくり読んでみた。
愛人A・美しい女性。
友人B・筋肉男。
恋人C・アイムガイコクジン
変人D・天然系。
人参E・華麗に入浴中。
犯人F・こいつが犯人である。
「……犯人はFさん?!!」
僕は、叫んでしまった。
容疑者6人は僕の声を聞きつけ、庭にやってきた。
「俺が犯人だって?馬鹿な?」
Fは、はははと笑う。
僕は、意を決した。
「Fさん、とぼけても無駄ですよ。あの密室の謎は解けました。全てね……今からやって見せましょう」
僕は、犯行を再現した。
「これを、こうやって、ああやると……」
密室の謎を解いてみせた!
「そして、これができたのは、Fさん、あなたしかいない!」
僕は、格好良くポーズを決めた!
「くっ」
Fは、床に手をついた。
「そして、おそらく、動機は被害者との……」
「そうだ!その通りだ」僕の言葉をさえぎる。「俺がやった、お前の言うとおりだ」
Fは、力なく笑った。
パトカーに乗って、遠ざかっていくFを見送る。
「いやな事件だった」
いつものことながら、意外とあっさり、事件は解決してしまった。
「どうして、分かったの?」
今は容疑者ではなくなった人々は、僕を質問攻めにする。
「た、探偵の感かな……」
トリックも、犯人当ても、推理も、面倒なことは、この一言で、片付けるに限る、詳しく説明する必要などないのだ。
どうせ、人々が気になるのは、最終的にトリックではなく、犯人の心の闇のほう。トリックの方も、手品とか、推理小説とか、そう言う書籍で、見たことあるような、そんなだいだい想像のつくモノなのだから。
「みなさん、ご飯にしましょう」
家政婦が皆を呼ぶ。
今晩はカレーライスだ。やったね。
人参、うまい。
人参と、黒タイツ犯人を出したかっただけかもしれない、この話。
引き続き起こる殺人参事件。
家政婦は見た。
包丁によって、緑の髪を切られ、皮を剥かれ、無残に切り刻まれる人参の姿を。