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第6話

……疲れてたのか、無駄にだらだら書いてしまった感じ。すみません。

そして『WMO ~魔闘技大会編~』は予定より早く終わらせることを検討中です。

では6話目どうぞ。

 私は殺し屋。無敵の名を持つ私に敗北はありえない。そして、許されない。それはこのKYS魔闘技大会でもだ。無敵の名を持つから、というだけではない。WMOに依頼された任務にも関わるからだ。

 私の実力の一端を見た観客の豚たちや野蛮な大会参加者たちは、既に大会の結果は見えていることだろう。そう、私の任務はこの大会で私の実力を見せて優勝すること。そして、私がWMOと繋がりがあることを優勝インタビューの時に宣言することだ。

 私は《氷の世界(ニヴルヘイム)》で凍りついた試合場を後にする。今だに会場は静まり返っている。司会者も解説者も、そして観客の豚どもも私の作りだしたこの光景に、開いた口が塞がらないようだった。もしくはこの幻想的な光景に魅了されている雌豚もいるかもしれないが。

 会場を後にした私は、そのまま寝泊まりする自室へと向かう。部屋までの途中では気配をあえて晒していたため、先ほどの試合の結果と相まって、かなりの注目を浴び続けた。私が通路を歩くと自然に人だかりは割れ、私の歩く道ができる。通路に溜まる野蛮人たちは、まるで悪の神を見ているかのように私を避けていく。

 私はようやく部屋の前へと辿り着く。周囲に人の影はなく、ざわついた声も聞こえない。シンッと静まり返った空間の中、私は部屋のドアを開けてするりと中へと入り込んだ。

「…………」

 部屋の中は外と同じように静まり返っている。ただし、一つだけ規則正しい呼吸だけが聞こえる。それはベッドの上から聞こえる。

 レイチェルだ。

 彼女はベッドの上でぐっすりと眠っている。眠りは深いようで、彼女は気持ちよさそうに寝ていた。

「少し強くかけすぎたか」

 レイチェルが寝ている原因は、私がかけた睡眠魔法によるものだ。その睡眠魔法は、私がこの部屋につく頃、ちょうど解けるよう調節していたのだが、……どうやら私も試合の熱に当てられ、興奮していたようだ。思わず睡眠魔法を予定より強くかけてしまっていた。それが身体に悪く影響することはない。ただ、しばらくはこの部屋にいる必要性があるだけだ。

 私は木属性魔法で私の体型にあった椅子を作り出す。ベッドの側で椅子に腰掛け、彼女が起きるまで読書に勤しんだ。



 ◇◇◇



 重いまぶたが持ち上がり、オレンジ色の光が瞳に突き刺さる。

「ここは……」

 私は試合中、突然の眠気に襲われ意識を失った。そう、意識を失ったと言っていいほどの深い眠りについた。

 私は目の前に腕を持ってきて、窓から差し込む夕日を遮る。

「起きたか、レイチェル……」

 不意に右側から声が聞こえる。それは試合中に聞いた覚えのある声。私は身体を起こしながら声のした方を見る。そこに居たのはコートを着込んだ試合の時の彼だった。部屋の中にいてもコートを脱がないとは、一体彼は何者なのだろう。私はそんな疑問で頭がいっぱいになっていた。

「……ここは私の部屋だ。試合中、君を睡眠魔法にかけた後、ここへと転移させた」

 私はそれを聞いて、改めて自分が彼に敗北したことを理解した。自らの手で復讐を果たすこと叶わずに終わってしまったが、彼は私と同じ目的でここに来たと言っていた。なら彼がこの大会を潰してくれるというのだろうか。

「あなたは……この大会を潰すの?」

「あぁ、そうだ。おそらくこの大会は二度と開催しなくなるだろう」

 彼ははっきりと断言した。その手段は分からないが、彼の実力を見た私には、それが実現することだろうと確信を持てていた。

「……ふふっ、私の手でできないのは残念だけど、これでパパとママも報われるかな……」

 彼は椅子に座ったまま腕を組んでいた。顔はフードに隠れているため表情は分からないが、私の心情を感じて同情してくれているような気がする。単なる私の勘違いかと思うけど、今はそう思っていると私の心が落ち着く。

「私はこれから……どうすればいいの……?」

「……今はただ、ゆっくりと休めばいい。私は試合以外ここにいる。いつでも頼りなさい。君の力にいつでもなろう」

 何故ここまで私のことを見てくれるのかは分からない。でも私はそれに甘えさせてもらった。今の私には自分で何かする気力が持てない。

「辛かったな……」

 声からしてそこまで年齢に差があるようには思えないが、彼の声は私を落ち着かせてくれた。まるで親から慰められているかのように。

「あれ?」

 私の目からは涙が流れていた。

 過酷な環境下で生きてきた私には泣く暇もなかった。そもそもここまで優しくしてもらえたのは十年以上昔のことだ。両親以外で私に優しくしてくれる人など居なかった。貧民街という薄汚い世界で生きてきた私は、城壁の中で暮らす人から見て動物以下の存在だった。実際城壁内に侵入しては盗みを繰り返してきたが、素顔を隠すためのコートを着ているだけで石を投げつけられた。人として見られない存在として私は生きてきた。そんな私に、彼は優しい声をかけてくれる。それがどんなに幸せなことか。私を人として見てくれた彼は私をどれだけ救ってくれているか。

 彼から貰った暖かい言葉は私の心奥深くに浸透し、涙の栓を完全に解放してしまった。

 彼の前で泣くのに恥ずかしくて堪えようとしたけど、それ以上に今までの辛さがこみ上げ、涙は止まらず次から次へと溢れ出てきた。

私は声を上げて泣き続けた。



◇◇◇



 私の目の前には泣き続ける一人の少女。無敵の名を(ほしいまま)にしてきた私にも苦手なものはある。だが、苦手だからといってそれを避けて通れるわけもない。今彼女を救えるのは私しかいないのだから。

 目の前の彼女は今まで一人苦しんで生きてきた。誰に対しても助けを求めず、いや、そもそも誰の助けも得られずにいたのだ。

 彼女は私と重なる。私も昔は一人薄汚いところで生きてきた。ところが、家畜同然の存在と見られていたある日、私はある女に拾われた。

 それからの日々は地獄のように辛かったが、充実した毎日がおくれた。食事もあり、風呂も入れる。一般人が出来るような生活を手に入れたのだ。

殺しの技術を磨き実力を伸ばしていた頃、私を拾ってくれた女から最終試験として、殺し合いを申し込まれた。私は勿論それを断りたかったが、女は一方的に殺し合いを始めた。

 迫り来る鈍色の筋。急襲だったのにもかかわらず、私はそれを難なく躱す。そこから私は、女は本気で向かってきていないことを悟った。だがそれは間違いだった。私の実力は女よりもはるかに上になっていたのだ。幾合もの打ち合いの末、勝敗は明らかとなった。私の剣は見事女の首を捉えていた。女はそれを笑顔で見つめると、「合格だ」と呟くと、私の剣に向かって首を進めて自害した。いや、私が殺したようなものだ。私は師である女を殺した後、暫くの間、抜け殻のように呆然と佇んでいた。何故師弟で殺し合わなければいけなかったのか、その理由は未だ分からない。

 それから私は旅に出た。目的もなくただブラブラと。

 どこかの街に入る度、私は無法者たちに絡まれていた。どうやら私の外見はいいカモと思われやすいらしかった。襲われ続けた私だったが、私はそれを全て返り討ちにした。

 繰り返してきた私の殺しは裏の世界でどんどん有名となっていった。暗殺の依頼も来るようになり、全てを完璧にこなしていった。そんな中で今回WMOから依頼があったのだ。そして見つけた。私と似たような境遇の者を。師を思い出した私は、彼女を仲間に引きこもうとすることにした。

 その彼女が今目の前で泣いている。私は師とのやり取りを思い出し、彼女に未来を与える言葉を掛ける。

「レイチェル。……私の仲間にならないか?」

 私はベッドの上で泣く彼女の肩に手を置き尋ねる。

「私は君と似たような過去を持っている。今の君が放って置けない。……一緒に、来ないか?」

 彼女は私の声が聞こえているようではあるが反応を示さなかった。両手を目元に当て、ひたすら泣き続けていた。

「返事はよく考えてからでいい」

 私は彼女の身体を抱き寄せ、落ち着くまで背中を撫で続けた。いつの間にか泣き声は止み、静かな寝息が部屋に流れていた。


読んで下さりありがとうございました。

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