第3話
3話目も投稿しちゃいます。
私は殺し屋。狙った獲物は何人たりとも逃さない、無敵の殺し屋だ。
さて、私はこのKYS魔闘技大会をつまらないものだと思っていた。しかし、実際にはそこまでつまらない大会ではなさそうだった。何故なら、予選第一試合である若い選手が面白い魔法を使ったからだ。三種類もの魔法を同時に扱い、大きな爆発を起こさせる。実に柔軟な発想をしている。あの魔法を編み出すのに私はそこそこの時間を要した。そんな魔法をあのアレクサンダーという青年は使ったのだ。偶然の産物によるものか、はたまた口伝された魔法であるのかは知らないが、魔法に関して相当の実力があると見受けられる。
『試合終了ぉ~~! 予選第一試合は、アレクサンダー選手が勝ち残ったぁ――っ!予選第一試合から波瀾万丈だぁ――っ!』
映像機から司会の叫び声が聞こえる。どうやら予選第一試合が終わったようだ。あの若き青年がどういった理由でこの大会に参戦しているかは知らないが、決勝トーナメントで当たった時は容赦しない。
◇◇◇
時は進み、予選は七試合目までが終わった。
『いやぁ~~、実に面白い大会だなぁ、解説のアンジェリカさん』
『えぇ、今大会も実に面白いわ。火達磨になって悶え死ぬ戦士。自分の腕が飛んで泣き喚く戦士。ああ、シビれるわぁ~』
『軽く引くような発言が出たけど、スルーさせてもらうぞ。さて、解説のマッスルさん』
『なんだね?』
『予選第一試合ではダークホースのアレクサンダー選手が決勝トーナメント進出を果たしたけど、現段階で終わった七試合目までは概ね予想通りといったところかね』
『あぁそうだな。俺ほどの実力者は未だ出てこないが、どいつもこいつもなかなかの実力者ばかりだ。決勝トーナメントが今から実に楽しみだな』
『俺も楽しみだが決勝トーナメントはいつになることやら。この大会は一週間を予定してるけど、今日は十試合目までいけないな。既に日も陰ってきてるし、今日はこれで最後だな。どう思うよ、アンジェリカさん』
『そうねえ。ん~、時間も時間だし、今日はこの試合を最後にした方が良さそうね』
三人は大会の運営も担っているため、どのタイミングでその日の試合を終わりにするかを決めることが出来るのだ。時刻は午後四時過ぎ。影も伸び始めて辺りも暗くなってくる時間帯だ。ここら辺りで本日の試合は打ち止めだろう。
一旦解散となる選手や観客たちだが、選手は勿論、観客たちも遠いところから足を運んでいる人が多い。そのため、この闘技場は巨大な宿泊施設にもなっている。VIP用観戦室はそのまま高級宿泊施設にもなっているし、事前に予約を取っていなくとも、闘技場内には全ての参加者が寝泊まりできるほどの宿泊部屋が用意されているのだ。
『さあさあさあ! 今日の試合もこれで最後だ! 予選第八試合の注目選手はシュワール選手とフランベルク選手だ! 両選手とも有名な賞金稼ぎで、今大会でも大暴れしてくれそうだぁ――っ!』
◇◇◇
私、ヘレナ。八歳。
私のゲイちゃんがお腹すいたって言うから、仕方なく、ちょうど開催してたこのKYS魔闘技大会に参加することにしたの。あ、ゲイちゃんっていうのは私の召喚獣。本当の名前はディールゲーターっていう六本足のワニ型の魔物だよ。
ゲイちゃんと私はいつも一緒。寝るときもご飯食べるときも一緒。どっかお出かけに行くときも、私はゲイちゃんの背中に乗ってお出かけするの。
「ゲイちゃん、ほらご飯だよ」
私の指差す先にはご飯が。
「グロロォォォォ!」
「ぎゃぁああああ!!」
いつ見てもゲイちゃんの食べっぷりは気持ちいい。大きな肉の塊だって、ほら、一噛み、二噛みでゴックン。
「――っ――――っ!! …………」
「いい子だね、ゲイちゃん。ちゃんと残さず食べれました」
「グロォ」
ゲイちゃんの噛む力は魔物の中でも上位に入るほどの強さなの。大きな岩だって簡単に砕けちゃう。硬い硬いアダマンタイトにだって負けないよ。歯も丈夫だからアダマンタイトに噛み付いても折れないし、逆にアダマンタイトにしっかり歯型を残してくるんだ。だからご飯なんかは一噛みで真っ二つ。二口でお腹の中だよ。そうそう、ゲイちゃんはディールゲーターの中でも大きいの。尻尾の先から口の先までで二十メートルくらいあるんだって。体重は~……分かんないや~。
「こんなでかい体、隙が多すぎだゲバラバッ!!」
大きな体だけど、ゲイちゃんに隙はないよ。普通の剣では傷ひとつ付けられない盛り上がった硬い鱗の下には、想像もできないような強い筋肉がたくさんあるの。その筋肉を使って尻尾を振り回したり、瞬間的にだけど時にはすごい速度で飛びついたり。
「とにかくゲイちゃんは最強なんだよねぇ~」
「グロロォォ」
「ならその最強とやらを見させてもらおうか!」
「あれれ?」
「グロロ?」
私とゲイちゃんは気付いたらお空を飛んでた。
「えぇぇええええ!?」
「グロロロロォォオオオオ!?」
ゲイちゃんの詳しい体重は分からないけど、何トンもあるのに、私たちはお空高く飛ばされてた。私は必至にゲイちゃんにしがみついているけどぐるぐる回ってどっちが上かわからない状態だった。
「グロロォォォォ!」
「うわぁっ!」
突然視界に赤い液体が入り始めた。マグマだ。私たちは何者かによってマグマの方へと飛ばされたみたいだった。
「マグマに落ちて焼け死ねぇええええ!」
「きゃああああああ……何てね」
思わず舌が出るほどの小賢しい手段。私みたいなちっちゃい子に容赦がないよねぇ。普通ならこんなのそのままマグマにドボンだけど、ゲイちゃんだけじゃなく、私も普通じゃないからこんなの余裕に対処できるんだ。
「《暗黒壁》!」
私たちの落下地点に黒い足場ができた。ゲイちゃんはその足場にドシィィンッと上手に着地する。
「いい子だぞぉ、ゲイちゃん」
「グロロォォ」
「ほう、女もなかなかやるようだな」
私たちを飛ばした男は巨大な斧を持っていた。そして、さっきまで私たちが居た場所は、土魔法で地面が盛り上がっていた。
「ふぅ~ん。……おじちゃん……誰?」
「俺はシュワール。世界でも有名な賞金稼ぎのシュワールとは俺のことよ! ……そして俺はまだ三十五だ!」
「十分おじちゃんだよ」
「グロォ」
「……随分と余裕じゃねえか……」
シュワールおじちゃんは怒ってた。魔力を強く練り上げ、周りの地面がグラグラ揺れてた。でも私はこんなの怖くないんだ。ゲイちゃんと出会う前、何時も一人だったあの時の怖さと比べたら、何も怖くない!
「行くよ、ゲイちゃん!」
「グロロォォォォ!」
「来い!」
ゲイちゃんは黒い足場から飛び上がり、ものすごい速度でシュワールおじちゃんに迫る。
「何ィッ!?」
ゲイちゃんの速度に驚いたのか、シュワールおじちゃんは面白い顔をしていた。
「《土壁》!」
だけどシュワールおじちゃんは見事な反応を見せた。自分の足元から土壁を作り出してゲイちゃんの進行を止めると同時に、上空からの攻撃を仕掛けようとしてきた。なかなかの攻撃パターンだけど、足りないね。
「《闇の支配》」
今シュワールおじちゃんの周りは暗黒の世界になっている。外から見た感じはただの黒い塊の中にいるだけなんだけどね。でもシュワールおじちゃんからしたら、果てのない、上下もわからないような暗い空間に一人だけいるように感じているはずだよ。
「ごめんね、ゲイちゃん。大きなお肉をグチャグチャにしちゃうけど……」
「グロロォ」
ゲイちゃんは私を許してくれた。やっぱりゲイちゃんは私の最高の友達だね。心友だね!
「さぁ! この戦いも終わらせちゃうよ!」
「グロォ!」
「《重力星》!」
私の目の前の黒い塊が、見えなくなるほど小さくなった。
◇◇◇
『何だ何だぁ~~、あの黒い塊は。しかも直ぐ側にはかなりでかいディールゲーターもいるぞ! あれはかなりデカイよな、アンジェリカさん』
『えぇ、かなりデカイわね。あんなサイズのディールゲーターは見たことがないわ』
『マッスルさんは?』
『俺も見たことねえなぁ。それにしてもディールゲーターの背中に乗ってる幼女は何者だ? 美味しく頂きたいんだが』
『危険発言が出ました。おまわりさんこっちです……。と、おふざけはこれくらいにして……、彼女はヘレナっていう八歳の女の子だそうだ』
『八歳。はぁはぁ』
『キモいわよ、マッスル』
『今大会には急遽参加したみたいだな。気まぐれで参加しておいて、かなりの実力者っぽいな。どう見る、マッスル』
『はぁはぁ……ん? あぁ、俺ほどの実力はないが、幼女にしてはかなりの実力者だな。色々と将来が楽しみだ。今も楽しみだが』
『マッスルキモッ』
『お? シュワール選手が閉じ込められていた黒い塊が見えなくなったぞ。決着がついたのだろうか』
日は落ち、会場を闇が支配し始める。
読んで下さり、ありがとうございました。