第2話
文章の途中に出てくる、◇◇◇、は、視点変更の合図になります。この物語は主人公の殺し屋視点と、大会に出場する主な選手の視点、そしてたま~に三人称視点で進められます。今、誰視点なのか分かりやすくしているつもりです。
では2話目もよろしくお願いします。
私は殺し屋。私の真の名は教えられないが、二つ名なら教えてやろう。インヴィクタだ。……自分で言うのは恥ずかしいものがあるな。
何故こんな二つ名が付けられたのか。それは私が数々の殺しの依頼を受け、全て成功させてきたからだ。どんな強敵も殺してみせ、無敵の名を手中に収めたからこそ、付けられた二つ名だ。そう、無敵、と。
私は今、大会の待合室にいる。何番待合室にいるかは教えられない。私が何試合目の予選に出場するかが分かってしまうからだ。出場する予選が分かると、必然的に私が誰かも分かってしまう。たとえ私がどんな格好をしていようともだ。……どうやってだって? それは私がその予選で勝ち残るからさ。
私は他の参加者に邪魔されないよう、隅でひっそりと座っている。予選が始まるまでは極力目立たないようしなくてはならない。
ほう、どうやら予選第一試合が始まるようだ。魔道具である映像機から会場の様子が分かるようになっている。待合室にいる多くの野蛮人が、映像機に注目した。
◇◇◇
『さぁ、解説のアンジェリカさん。ついに始まりましたね』
『始まりましたね、自称イケメンのマッスルさん』
『えっ、俺? え、えぇ。始まりましたね』
『……アンジェリカさんに振ったんですけど……。コホン。まぁいいでしょう。では解説のマッスルさん。今大会の予選の見どころはどこになるでしょうか』
『そうですねぇ……。十試合目のジャック選手とマール選手の戦いは見もの……ですね。二人共過去に決勝トーナメントへ進出したことのある実力者。ただし、私ほどではないでしょうが、はっ』
『余計な一言が入りましたが、マッスルさんの実力も確かなため、一概に嘘とも言えないでしょう。現在予選第一試合が行われております。この試合で注目すべき選手はマッシュ選手でしょうね。彼が得意なのは……やっぱ堅苦しいのは止めだ止め!』
『そうよ。あんたがきちんとした言葉を話してると気持ち悪いわ。寒気がする』
『そこまで!?』
『さぁ解説者であるマッスルが試合の状況を解説するぞ!』
『おい解説。司会に振られる前に勝手に話すな』
マッスルはそれを無視して話し始める。
『今のところマッシュ選手がどこにいるかは分からないが、どこでも激しい戦いが繰り広げられているな』
『それ司会の仕事っ――!? す、すごい轟音がしたなぁ。どうやら会場に変化があったようだ。巨大な爆発音がしたぞぉ!』
舞台は試合会場に移り、時間は少し遡る。
◇◇◇
俺の名はアレクサンダー。どこにでもいるような好青年だ。……自分で好青年と言うのはちょっと恥ずかしいが、周りからはよくそう言われてきた。別段イケメンというほどではないが、村の女の子たちにはモテていた。自慢話はやめよう。
俺がこの大会に参加している理由だが、俺の住んでいる村が今飢饉に見舞われているからだ。この大会は決勝トーナメントに進出するだけで巨額の賞金が手に入ると聞いている。その金で一時的にでも食料の足しにでもなればと、村で一番の実力を持つ俺がこの大会に出場したというわけだ。ただ、この大会は殺し合いが普通に行われる大会であることも有名だ。そのため、俺がこの大会に参加することを村の連中に表明したら、村の連中はこぞって俺を止めようとした。特に俺の両親と、将来俺の妻となる予定の婚約者が泣きながら俺を止めようとした。だが、俺は村一番の実力者として、この村を飢饉から救わなくてはいけない義務があるのだ。半ば無理やり彼女らを俺の身体から引き剥がし、俺はこの大会へと出場したのだ。
「はぁああああ!」
だから負ける訳にはいかない! 村の連中の気持ちを裏切って俺は飛び出したんだ。勝たなくてはいけない。親父やお袋は勿論、俺の愛すべき婚約者のためにも!
「俺は勝ち残らなくてはいけないんだぁ――っ!」
俺は容赦なく、目の前の敵を斬りつける。
「あと八十九!」
既に俺は十人もの命をこの世から奪い去った。倒すべき人数は俺を除いて後八十九人。実際には他の連中も殺し合っているため、残りはおそらく六十から七十といったところだろう。
半径五十メートルの試合会場はかなりでかい。生き残っている人数が減れば減るほど、対戦相手と出会うのも一苦労だ。だがそれも仕方がないだろう。なにせ大会参加者の中には、巨大な召喚獣を使役する者もいる可能性があるのだから。
俺は闇属性魔法を使うことが出来ない。だから召喚獣などという高度な魔法を扱うことは出来ない。だが俺にはこの細剣二刀流と、得意の水属性魔法がある。召喚獣など使えずとも戦えるのだ。
「次の獲物はお前だ」
「――っ!?」
不意に背後から声がする。俺は瞬時に身をかがめる。数瞬前まであった俺の首の高さを、大剣が薙がれる。
「あぶっ!」
「ほう……」
俺は素早く前転し、その場を退避する。
「よく避けたな。なかなかの実力者と見受ける。我が名はマッシュ。大剣使いだ。お前の名は!」
「……俺の名はアレクサンダー。決勝トーナメントに残って、愛すべき村の皆に賞金を持ち帰るんだ!」
「アレクサンダーか。かっこいい名前じゃないか。だが、アレクサンダーよ。……その願いは残念ながら叶わぬ」
「何だと?」
「何故なら……貴様は、今ここで死ぬからだァ――ッ!」
大剣を背負うマッシュが俺に迫る。はっきり言って剣士としての間合いだと俺が不利だ。剣を二本持っている俺だが、どちらも細剣だ。マッシュの振り回す大剣を受け止めることなど出来やしない。細剣で受け止めれば腕ごと持っていかれることだろう。となると、俺が奴に勝つには間合いを取り、得意の水魔法で一気にかたをつけることだ!
「そらそらそらぁ――っ!」
マッシュは重いはずの大剣をものともせず振り回す。この騒がしい試合会場内でも聞こえるほどの空気を裂く音。ものすごい速度で振り回されているのが分かる。さて、奴との間合いを作るには――
「《水牢》!」
俺は大きな水球で奴を閉じ込めた。一瞬のすきが出来ればいいのだ。これで十分。
「くっ、こざかしィ――ッ!」
マッシュは大剣を大きく振り回し、水牢をいとも容易く破壊する。マッシュの足止めは数瞬だけだったが、その数瞬が勝敗を決定づける。
「終わりだマッシュ!」
俺とマッシュの距離は十メートル前後。
「《雷水球の魔境》!」
マッシュの周囲に無数の水球が漂う。ただし、その水球の中は稲妻が走っていた。
「こんなもので俺がどうなると思っているのか!」
「本番はこれからさ。じゃあな、マッシュ。《火球》!」
俺は身を素早く伏せ、耳を塞ぐ。会場を揺るがすほどの轟音が鳴り響き、爆風が吹き荒れる。
◇◇◇
『あぁ~っとぉっ! 決勝トーナメント進出予想選手筆頭であったマッシュ選手が倒れている! 一体何があったんだ! ん? 直ぐ側で起き上がる選手がいるぞ。あの選手はアレクサンダーだ! どうやらこの第一予選からとんでもないダークホースがいたようだァ――ッ! これは序盤から大番狂わせだぞ! 今の爆発に巻き込まれてマグマへと落ちていった選手が何人もいるようだ。残った選手はアレクサンダー選手を入れてあと十二人! 最後まで地に足を付けているのは誰になるのか!』
予選第一試合も終盤。長い長いKYS魔闘技大会も、一歩ずつ終わりに近づいていく。
読んで下さりありがとうございました。