占い師テレーゼは真実を語らない
一
王の血を引く少女がすべて王女と呼ばれるわけではない。
テレーゼの故郷、ノルムの市井で囁かれるささやかな噂話だ。
王都グライリヒから馬で三日もかかる縁辺の町でそんな噂が出るのには理由がある。現王エーベルハルトが若き日を過ごしたのがグライリヒなのだ。継承権の低さと素行の悪さから辺境に追いやられ、将来も郡主止まりと思われていたこの男も運だけは強かったらしい。片手では数え切れないほどいた上位継承者が、流行病や不慮の事故などでひとり残らず天に召されたのだから。もっとも、その流行病によく似た症状を引き起こす毒薬は存在しているし、事故とていくらでも仕組むことはできるものではあるが。と、いうのも噂のひとつではある。
ともあれ。民草がそんな皮肉を口にしてしまうような野心家の王のことだ。若い時分の様々な欲も並大抵ではなく、それを慰めるために夜な夜な町で女を漁ったとしても不思議はないだろう、というただの想像が落胤王女の噂の根拠らしい。
だから、王女と呼ばれない少女の風説をただの噂話と一笑に付すものもいる。けれど、それは違う。王の血を引く平民の少女が存在することは間違いないことなのだ。
なにしろ、この自分がそうなのだから。
テレーゼは王と同じ色の瞳を、当の王本人に向けた。
豪奢な寝台に身を横たえた王が、爛々と輝く目で立ったままのこちらを見返してくる。十歩ほどの距離があるにもかかわらず、光の強さに目を背けてしまいたくなるような瞳だった。野心は衰えていないのだろう。代わりに身体が衰えていた。十六の時にテレーゼの母を身籠もらせたというから、王の年はまだ三十代前半ということになるが、それより二十は老けて見えた。
ここはグライリヒ郊外にある重臣の別邸だった。体調を崩した王が、隠れるように療養をしているのである。そうでなければテレーゼは王にまみえることなどできなかっただろう。なにしろ、娘としてここにいるわけではない。本業である占い師として招かれただけなのだ。王の娘などと名乗ったことはないし、今さら名乗るつもりもない。そんなことをすれば、命にかかわる可能性がある。庶出の姫の存在など歓迎されるはずがあるまい。
命にかかわると言えば、今もそうかもしれない。王の依頼を、拒絶したのだから。
「娘、占えぬと申すか?」
上体を起こそうとする王を、傍に控えていた少女が支えた。年の頃はテレーゼと同じ十七、八といったところ。身なりから判断するに、侍女ではなさそうだが、王族という風体でもない。どこか自分と似た雰囲気を感じるが、何者だろうか。正体不明の少女のとなりでは王子マンフレートが特別な視線で少女をを見つめていた。この王の息子とは思えぬほど優しげな瞳をした少年だった。テレーゼにとっては腹違いの弟ということになる。
「占う理由がみつかりません」
「理由がいるのか? 余の身体を蝕んでいるものの正体を占えと言っておるだけだが」
「それは医師の領分にございます。占いなどよりもよほど正確に見抜くことでございましょう」
「その医師がわからぬと申しておるのだ。おまえの占いはよく当たるとの評判だ。医師でもわからぬ余の身体のことを当ててみせよ。病なのか、毒なのかをな」
さらりと重大なことを口にしてみせた王は、試すような視線をテレーゼにぶつけてくる。
「病でも毒でもないとお考えなのですね?」
「ほう?」
王の視線が緩んだ。
「医師が見抜けないから、呪いをお考えになったのでしょう?」
さも可笑しそうな笑い声が、部屋の中にこだました。やせ衰えた身体からは想像もできないような、力強く、そして心の底から可笑しそうな声だった。
世間では、一部の占い師は呪いも引き受けると信じられている。人の運命の糸を手繰ることのできるのなら、その糸を絡ませたり断ち切ったりすることもできると思われているのだろう。
「さすがだな、占い師。王都随一と謳われるだけのことはある」
テレーゼは答えなかった。口数の多さは言葉から重さを奪う。それに、こちらの実力を知って招いておきながら、力を試すような真似をされたことが、身分違いとはいえ無礼に思えた。
「しかも口が堅そうだ。呼んだ甲斐があった」
勘違いをしたものか、こちらの無音を咎めるつもりなのか、向けられたものの肝が冷えるような笑顔が、王の顔に浮かんでいた。
尊大で残忍な、王の笑いだった。
おまえは余の期待に応えられる人間だ。だから余の期待を裏切ってはならない。そう命じている。つまり、テレーゼの口は堅くなければならない。
「いえ。期待には添えません」
「なに?」
今度は、王の瞳に剣呑な光が宿った。命に背き、ここでの出来事を外で言い散らす意思表明ととったのだろう。が、それはこちらの誘導だった。会話のペースを引き寄せるのが占いのコツだと、幼くして母を亡くした自分を引き取り、占い師として仕込んでくれた師匠がよく言っていた。
「わたしには王の呪いは解けません」
「おまえの手にあまる呪いだと言うか」
「いえ、呪いなどかけられていないのに、解きようがないのです」
なぜか、王は傍らの少女を見やった。が、すぐにテレーゼに視線を戻す。
「ふむ……呪いはかけられておらぬと……」
「少なくとも、王がお考えになっているような呪いは」
「と、言うと?」
「呪いの正体など、大半は毒で、残りは思い込みに過ぎません」
束の間、味付けを忘れた料理を口にしたような顔をした王は、すぐさま呆れたように言葉を吐き捨てた。
「正体に、本物がないではないか」
「はい。私の師はそう申しておりました」
「なんとな。もしそれが真実であるなら、呪いを肯定する占い師はうそをついていることになるな」
王は再び傍らの少女に視線を送る。
少女は気づいていないかのごとく、ただ王を支えたままだ。視線ははじめからあわせていない。
しかし、テレーゼは少女の眉がわずかに跳ね上がったことを目撃していた。おそらく動揺したということだろう。そういうことか、と思った。
「かもしれませんね。必要以上に真実を語らないのが占い師というものですから」
「しかし、それでは、おまえの師も真実を語らなかった可能性があるな」
「もちろんです」
「そうなると、呪いがないということが、真実ではないということもあり得るぞ?」
「これは困りましたね」
「面白い娘だ。気に入ったぞ。どうだ、余の傍に仕えぬか?」
テレーゼはつばを吐きかけたい衝動に駆られた。年頃の娘に対して傍に仕えろというのは、要するに妾になれというのと同じ意味だ。初対面で口にする言葉ではない。加えて、およそ王たるものは平民の女に手を出したりしないものだ。なんと恥知らずな男なのだろう。こんな男を自分の父親などとは思いたくなかった。
「もったいないお言葉ですが、それは無理にございます」
「なぜだ?」
「わたしには、王とは結ばれぬ呪いがかけられていますから」
意味がわかるはずもなく、王は苦笑するしかなかった。
二
壁際にはクローゼットとドレッサーデスク。
どちらも華美ではないが腕のよい職人の手とわかる彫刻が施されている。部屋の中央にはビロードの椅子三脚と凝った意匠の猫足テーブル。床にはふかふかの絨毯が敷き詰められて、足が沈んでしまいそうだ。
続きの間には、シンプルなサイドテーブルをはさんで二つの寝台。おそらくシーツやカバーはシルクだろう。壁には少し大げさなほどの数の燭台が取り付けられていて、使われているのはその半分ほどだ。落ち着いた家具から見ると、少々うるさく思えた。
重臣の別邸は、他国の要人などを宿泊させる場所ともなっているのだろう。ここはその一室に違いない。
破格の待遇だった。テレーゼは貴族でも要人でもないにもかかわらず、この部屋に泊まることを許されたのである。
明日、占いをすることになった。
王が、望んだのだ。
どうやら占い師として気に入られたらしい。今日は試されただけのようだが、明日は本命の占いをさせられる。いったい王はなにを占わせるつもりなのだろうか。
部屋の中の調度を、興味本位で見ているようなふりをしながら注意深く観察してまわる。その結果を、この屋敷の外観と内部の間取りと照らしあわせる。外観は人の出入りなども含めて訪問する前に数日前から精察していたし、内部については訪問してからとおされた部屋や廊下などの配置だけではあるが、しっかり頭の中にとどめておいた。街角で辻占いをするならともかく、豪商や貴族などを相手にするなら必要なことであった。庭園の植生や建物の造り、調度品にはなにがしか意味を持たせている場合もあるし、持ち主の趣味が出る。相手を知ることが、占いの第一歩だ。
そしてほかにも意味はある。
年頃の乙女としては、自衛のために自分の置かれた立場や場所を正確に理解しておかなければならない。独り立ちして生きていく人間を守ってくれるのは、常に自分だけなのだから。
「ミス・テレーゼ」
声をかけられたのは、頭の中で考察が概ねまとまった頃だった。あまりのタイミングの良さに、血のつながりは侮れないな、と心の中で笑った。本気で思っているわけではない。人の心が読めるのは、自分たち占い師のようにそういう技術に長けた人間だ。しかも、読めるといっても、かなりおおざっぱなところでしかなく、読めるというより得られた情報から推測しているに過ぎない。親密な人間同士であれば、相手の気持ちが想像できることはあるのだろうが、兄弟だろうと親子だろうと、一緒に暮らしてきたのでなければ相手の心の内などわかりはしないものだ。
「テレーゼで構いません、マンフレート殿下。それより、おかけになったらいかがですか?」
テレーゼはビロードの椅子のとなりに立ったままの、律儀な王子に着座を勧める。
王子は失礼しますといいながら、ビロードの椅子に腰を下ろした。
たとえこの屋敷の持ち主が王子であろうと、正式に招かれた客である以上、この部屋の主人はテレーゼということになる。だから、テレーゼの許しを得るまで座るのを待った王子の行為は礼儀にかなったものと言えた。たいしたものだ。たとえ礼儀の上ではそうであったとしても、平民相手にはなかなかできることではない。生真面目と言えるほどの礼儀正しさだ。もっとも、夜分に女性の部屋を訪ねる行動を除けば、だが。
ともあれ、過剰に警戒する必要もあるまい。貴族の義務として多少の武技の心得はあるのだろうが、形式的に経験しただけだろうし、こちらは身を守る術をいくつも持っている。鼻の下を伸ばした男を昏倒させることができる程度の体術は当然身につけているのに加えて、スカートの中にはナイフを隠しているし、指輪には毒針を仕込んでいる。
「ご用件を受けたまりましょう」
テレーゼも椅子にかけようとしたところ、王子が立ち上がって背後にまわって椅子を引いた。今日あったばかりの男に背中を許すのは本意ではないが、これはやむを得ない。気づかれぬように、窓に映った王子の姿をたしかめながら、腰掛けた。王子がふたたび座るのを待って、続ける。
「おひとりでいらっしゃったからには、余人を交えずに話したいことがおありなのですね? たとえば、呪いという名の劇毒を欲しておられるとか……」
半分冗談のつもりではあったが、王子にとってはそうではなかったらしい。あからさまにうろたえた様子が、むしろ気の毒に思える。
まさかとは思ったが、王に毒を盛ったのはこの王子なのだろうか。
そう。王の体調不良は、間違いなく毒によるものだ。
「そ、そこまでは考えていません」
「では、どこまでをお考えですか?」
テレーゼは慎重に言葉を選ぶ。
王子がどんなことを、どんな理由で依頼するつもりなのかはわからないが、それを感づかれないためだ。ある程度見抜いているように振る舞うのは貴族相手に占いを続けてきたものの本能だった。
「明日の占いで、わたしの望む未来を選択して欲しいのです」
「王を騙せ、と仰るのですね」
「占い師は必ずしも真実を語るとは限らないのでしょう?」
そうきたか。なかなかやる。
「あなたの望む未来が、あなたを幸せにする未来とは限りませんよ?」
「けれど、好きな人と結ばれることは、人生で最も幸せなことだと思うのです」
なんだ。そんなことか、と半ば呆れた。だったら自分で父を説得すればいいだけのことだ。
しかし、王子も王子なら、王も王だ。王子の嫁を占いで決めるなど、馬鹿馬鹿しいことこの上ない。
いや。
テレーゼは少し浅はかだったと頭を冷やす。
たしかに好きにはなれそうもない王ではあったが、それなりの器はあった。もしや、王は王子を試そうとしているのではあるまいか。
「では、王にそう申し上げればよいではありませんか」
「そうもいかないのです」
「かもしれませんね」
「ええ。その……今度身籠もらせてしまった相手が……さすがに悪かったですしね」
吐き気がした。
やはりあの王の血を引いているだけはある。
そういえば、勘違いかもしれないが王子がこちらを見る視線は異性を見る熱を帯びているようにも思える。
もっとも、吐き気がしたのは、自分もその血を引いているという現実に対してだった。過去は、消せない。
「わたしが占いでどういう結果を出そうと、その相手をどうにかしなければ意味はないでしょう?」
「わかっています。そちらはこちらでどうにかします」
先ほど王の傍にいた少女の顔が頭に浮かんだ。彼女の『呪い』で何とかするつもりなのだろう。あれは間違いなく占い師だ。しかも、おそらく貴族で、この王子の意中の相手に違いない。
「なるほど。では、わたしは占いの結果にかかわらず先ほどの少女を推せばいいということですか。けれど……もしそれをするのなら、わたしはあなたから仕事の依頼を受けるということになりますが」
王子はこちらがあの少女を引き合いに出したことに驚いたようだったが、すぐににこやかに笑った。
「さすがは王都随一の占い師さんだ。頼もしいことです。もちろん報酬はお支払いします。望みのままに、とまでは言えませんが、多少はふっかけて構いませんよ。こちらの人生がかかっていますからね」
「ずいぶんと彼女を好いておられるのですね。王子にそこまで思われるとは羨ましいことです」
その言葉になにを勘違いしたものか王子はテレーゼに歩み寄ってきて手を握った。
「どうです? あなたの望みの報酬がどのくらいか、ふかくお聞かせ願いたいのですが」
「いけませんよ、王子。好きな方がこの館の中にいらっしゃるのに」
「彼女はそういうことに寛大なのです。彼女を妻にしたい理由のひとつですよ」
笑うしかない。そんなことが妻を選ぶ理由になるなど、思いもよらなかった。
王子の手がテレーゼの肩にかかり、どこか自分に似ている顔が近づいてくる。
テレーゼはスルリとその手を逃れた。
色欲に溺れている男をあしらうなど、造作もないことだ。
「すみませんね。生憎占い師の仕事に殿方を喜ばせることは含まれていないのです。ご依頼の件は、明日まで考えさせていただきましょう」
「な、なんだと……」
王子はテレーゼの行為を侮辱ととったか、鼻息荒く突進してくる。
しかし、当然それも相手にならない。手慣れた体術かわし、胸に掌底をたたき込む。
手応えは充分だった。
息をつまらせてうずくまっている王子を見下ろし、告げる。
「出て行きなさい。わたしはそんな趣味はないから」
王子は言葉の意味を理解できるはずもなく、憎々しげにこちらを睨めつけながら、部屋を出て行った。
テレーゼは今しがた、王子の胸から引きちぎったボタンを掌の上で転がす。手のよい七宝で、価値はそれなりにあるだろう。つまらない思いをさせられた分は、これでチャラにしておくとしよう。
ひと仕事終わった。が、さて、これからまたひと仕事だ。
テレーゼは一人きりになった部屋の中で、言葉を発する。視線は、壁に設えられている燭台の一つに向けられている。
「見てたんでしょ? 出ていらっしゃいな」
ほどなく、ノックもなくドアが開いた。
「わたしは王の血を引いているの」
王の傍にいた少女コーネリアが発した最初の言葉がそれだった。
テレーゼは先ほどと同じ椅子に座っていて、コーネリアは王子が座っていたのとは別の椅子に座っている。
「王が臣下の妻に手を出した結果生まれたのが、わたし。よくあることよ」
「なら、あなたと王子は兄妹ってことになるわね」
「そんなこと関係ないわ。大切なのは、わたしが王の子でありながら、王家の人間として扱われていないってこと。わたしは正統な立場を取り戻したいだけなの」
「そのために、実の兄と結ばれるのも厭わないってことか。その上で、ほかの女に手を出すのも容認しているのでしょう? わたしにはわからないな」
本気で、理解できなかった。
燭台の一つはのぞき穴になっていて、コーネリアはテレーゼと王子の様子を見ていたはずだ。おそらく、これまでも王子がほかの女に手を出すときにそうしていたのではないだろうか。
「あなたも王の血を引いていれば。わかるわ」
テレーゼは吹き出しそうになった。
その、王の血を引いている本人がわからないと言っているのに。
「王子を愛している?」
「もちろん。はじめは異性として愛せるかどうかわからなかったけど、今はとても感じるのよ、彼の愛を」
「でも、ほかの女と寝るのを黙って見逃すのね」
「寝るのまでは許すけど、見逃しはしないわ」
「『呪う』わけね」
コーネリアは背筋が凍るような笑みを顔に浮かべた。さすがはあの王の娘を自称するだけのことはある。
「あなた、どこで占いを覚えたの?」
「自分の家でに決まってるじゃない。金に任せていくらでも占い師を呼べたし」
「そう。じゃ、もうひとつ。あなたはなんのために占いを?」
「復讐よ」
「なるほどね。王に毒を盛ったのもあなたってわけか」
コーネリアは少しも動揺をみせなかった。見事な心意気だと思った。
「いいわ。あなたが望むなら、それを祝福しましょう」
「ありがとう。報酬を受けとってくれるかしら」
「ええ。報酬を受けとる以上、わたしはきちんと仕事をしなければならないものね。もちろん、秘密を守る義務も生じる」
コーネリアはホッとしたような表情を浮かべると、首にかけていたペンダントを外し、テレーゼに手渡した。
三
王子が座っていた椅子に、王子の胸からむしり取ったボタンをのせる。そしてその隣、コーネリアが座っていた椅子に彼女から受けとったペンダントをのせる。間のテーブルの上には、水を注がれたグラスがひとつ。
たしかめるのだ。
彼女の言っていたことが、真実なのか否か。
テレーゼは、窓を開けた。
外から皓々とした月明かりが入ってくる。
テーブルに戻り、グラスを月にかざす。
グラスの中の水をとおして、月を見る。そのまま、グラスの水がくるくると回るように、グラスを揺すった。すると、まるで月が水に溶けだしたかのように、月の姿が消え、水自体が光りはじめた。テレーゼはその状態のグラスを静かにテーブルの上に置く。
不思議なことに、月を覗いているわけでもないのに、グラスは光ったままだ。
そのグラスを、指先で一度、軽く叩いた。
光がグラスから落ちるように、すとんと下に移動し、テーブルの上に広がった。いや、ただ広がっただけではない。光の線が、テーブルの上に魔方陣を描きだしていた。
これがテレーゼの占い方だった。
「ふたりは、兄妹や否や?」
声とともに、魔方陣が部屋いっぱいに広がる。目もくらむばかりの光が、部屋を満たした。
次の瞬間、なにごともなかったかのように光は消え失せていた。ただ、テーブルの上にだけわずかに残っている。その光は文字をかたどっていた。
『YES』
占いは終わった。
四
「テレーゼ、占いの結果を聞こう」
翌日、王の前で占いを行っていたテレーゼは厳粛な顔をしてうなずく。
もちろん全部まねごとだ。本当の占いをする必要などどこにもない。コーネリアと契約は成立しているのだ。
復讐を遂行するコーネリアの気持ちは、よくわかる。テレーゼとて考えたことはあったからだ。
もっとも、今はもう考えていない。というか、考える必要はない。
復讐などしなくても、この王家には呪いがかかる。
王家の人間が、兄妹で結ばれるという禁忌を犯すという呪いだ。
ただ、テレーゼはなにもせずに嗤っていればいい。
ともあれ、受けた仕事だけは果たさなくては。
テレーゼは、昨晩から用意されていた占いの結果を、王に告げた。
<了>
いろいろ矛盾があるような気がしますが、コバルトに応募した作品そのままにしてあります。