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再会

 新作を書き始めました。

『うちの武器屋の赤字事情』http://ncode.syosetu.com/n7441dr/

まだ書き始めたばかりですが、よろしければ暇潰しにでも読んでみてくださいませ。

 農園を営むローラの家は、街道を逸れて小道に入った森にほど近い場所にある。

 森伝いに歩いて行けば、人目に触れずに家にまで行くことができた。

 家の周囲には柵が張り巡らされていて、作の中では牛がのんびりと草を食んでいる。


「リーナちゃん、元気かな?」


 レティシアが楽しそうにウィンに囁いた。

 ローラの養女イフェリーナは、ウィンとレティシアにとっても幼馴染み。

 重要な使命帯びての行動中だが、友達に会う事も楽しみなのだろう。

 家畜を囲う柵の間に伸びている小道を抜けた先に母屋と、農具の仕舞う小屋。そして鶏舎が隣接して建てられていて、家の周囲で鶏が自由に地面を突いていた。人馴れしているのか、近づいても避けようともしない。


「殿下やレティシア様、ウィン君の知人ということで、ノイマン皇子派の監視が付いていると思いましたが、そんな形跡はありませんね」


 ケルヴィンは地面に残された足跡を丹念に調べていた。

 見て取れる足跡は家畜の物と、女性と子どものもの、それから荷車の轍の跡くらいだ。

 武装した騎士や兵士が訪れたならば、その重量でくっきりと足跡が残されているものだ。

 少なくともここ数日で武装した何者かが訪れたような痕跡は見られなかった。


「遠くから見張っているような人影も無い」


 ウェッジがボソリと呟く。

 門の奥建物の陰に隠れた兵士も容易く見つけるウェッジの視力は、人一倍優れている。

 しかし、入り口近くへ来た所でレティシアが足を止めた。


「待って、お兄ちゃん。家の中の人の気配が二つじゃない!」

 その言葉で一同に緊張が走った。


(待ち伏せされたのか!?)


 ウィンの背中に戦慄が走った。

 ウィン達がここへ来るのを見越して家の中で待っていたのだとしたら、ローラとイフェリーナが人質とされているかもしれない。

 いや、人質ならばまだ良い。

 ウィンとレティシアの幼馴染みの少女イフェリーナは翼人。彼女の正体を知られたならば、連れ去られてしまう可能性が高い。

 翼人種は、時に神として崇められる程の尋常ならざる力を持つ。そして人知を超えた美貌も備えた翼人を手に入れようとする者は多い。

 各々の手が剣へと手が伸びる。

 その時、入り口の引き戸がガタガタと音を立てた。

 誰かが出てこようとしている。

 そして、固唾を呑んで戸口を見守る一同の前に出てきたのは――


「レティちゃん! ウィンお兄ちゃん!」


 ゆったりとした裾の長い服をバタバタとさせて飛び出してきたのは、イフェリーナだった。


「リーナちゃん!」

「わーい、久しぶりぃ!」


 レティシアがしゃがみ込み、飛びついてきたイフェリーナを抱き締める。


「リーナちゃんが無事だって事は、中にいる人は敵じゃ無さそうです」


 ホッとしたウィンがそう言って、緊張に包まれたままでいる仲間達に笑い掛けた。


「そうですか」

「はい。もし中にいる人物が何かしらの危害を加えるような人物なら、リーナちゃんがまず真っ先に攫われてしまうでしょうから……」


 ウィンの言葉の通り家の中からローラと、それから三人の人物が続いて現れる。

 その人物達を見てウィン達は驚きに目を見張った。


「セリさん! それにアベル! リーズベルトさんまで……」


 それはエルフの都エルナーサへと旅立ったはずのセリ達の姿。

 セリは微笑を浮かべるとペコリと頭を下げた。


「お久しぶり? お帰りなさい? どっちなのかな……やっぱりお帰りなさいかな? 皆さん、お帰りなさい」


 そして最後にもう一人、家の中から出てきた人物を見てイフェリーナを抱き締めていたレティシアが立ち上がった。


「ここで待っていれば必ず来ると思っていた。レティ、お久しぶり」

「ティアラ。まさかあなたがここへ来るなんて」

「セリさん達からリヨンでの出来事は聞いた。その事でレティに伝えたい事がある」


 微かに唇を緩めて再会の喜びを現すティアラだったが、すぐに表情を引き締めるとレティシアにそう訴える。

 ティアラはすぐにでも話を始めたい様子だったが、それを止めたのは家主であるローラだ。


「こんな所で立ち話もなんですから、どうぞ皆さん中へ入ってください。きっと人目に付かない方が皆さんもよろしいのでしょう?」

「これはお気遣い痛み入ります」


 ローラの言葉にケルヴィンが代表して頭を下げる。頭を下げたのは礼儀としての意味もあったが、素直に彼女の察する力に感心した事もある。

 ローラの農園は街道を外れた郊外にあるが、周囲は緩やかな丘の草原地帯。ウェッジの見た所では周囲に人影は無かったようだが、丘の上から丸見えの場所である。


「すみません、ローラさん。大勢で押しかけてしまって。事情はきちんと説明します。」

「いいのよ、ウィン君。お客様は大歓迎だわ。家も大きいし全然構わないわよ。それに事情についても後でいいわ。きっとウィン君とレティちゃんの事、何か大事な事情でもあるんでしょう? とにかく中に入ってくださいな」

「ありがとうございます」


 そう言って家の中へローラはウィン達を迎え入れてくれたのだった。




 部屋の壁際にそれぞれ荷物を下ろし、部屋の中央にある囲炉裏を中心に車座となって座った。すると誰彼問わずにほうっとため息がこぼれ、皆で顔を見合わせて苦笑いした。


「ちょっと苦いけれど、疲れが取れるわ。熱いから気をつけてね」


 その間にローラが人数分の陶杯を持ってきてくれた。

 香りの良いお茶だ。

 急な来訪にも関わらず手際の良い対応にウィン達が驚いていると、ローラが種明かしをしてくれた。


「実は皆さんが来る半刻くらい前に、リーナがウィンお兄ちゃんとレティちゃんが来るって言い出したの。それで支度をして待っていたのよ」

「あのね、風がね、教えてくれるの。ウィンお兄ちゃんとレティちゃんが来るよって」


 ニパッと笑って言うイフェリーナ。その背中に生えた純白の翼が、彼女の興奮を現しているのかパタパタと忙しなく動いている。


「お湯も用意していますから、お話の前にどうぞ旅の埃も落としてください。特に若い女の子がそんな格好のままでは辛いでしょう?」


 ローラの勧めにレティシア、コーネリア、リーノが目を輝かせて頭を下げる。

 そして下げた頭を上げた時に、レティシアとコーネリアはウィンと一緒にお湯を使った時の事を思い出したのか、赤面してしまった。

 ウィンもその時の事を思い出してしまい、思わずレティシアとコーネリアを見てしまう。すると、丁度二人もウィンの方を見ていて三人ともに顔を伏せる。

 ウィンは自分も耳が熱くなっている事を感じていた


「レティちゃん、どうしたの? お顔が真っ赤? あっ、コーネリアさんも!」


 レティシアの膝に抱かれたイフェリーナが、不思議そうな顔をしてレティシアを見上げた。


「な、なんでもないよ! コーネリアさん、先にお湯を使わせてもらうといいわ」

「そ、そうですね。では、遠慮なく私から使わせてもらいますね」

「リーナちゃんは後で一緒にお湯を使お?」

「うん、レティちゃんと一緒に使う!」


 ローラはウィン、レティシア、コーネリアの様子を見て何か察する所があったようだ。微笑ましげに三人を見た後で、竈のある台所へと戻って行く。

 ケルヴィンは我関せずといった風に澄ました顔でお茶をズズッっと啜っていた。

 そしてロック、リーノ、ウェッジの三人は――。


「おいおい! まじかよ、これ……」

「やばいやばいやばいよ、ウェッジぃ……お父さんがこれ見たら、泣いて喜ぶよ~」

「…………」


 三人はリーノがわなわなと震える手で、うやうやしくつまみ上げた一枚の羽を前に目を見開いていた。

 その羽は一寸の色混じりすら見られない純白で、白く柔らかな光で包まれているかのように見えた。


「ああ、それはリーナの羽です。ごめんなさいね。時々自然と抜けちゃうらしくて。掃除したんですけど、見落としがあったのかしら……」

「いやいやいや……大丈夫です! 大丈夫ですから!」


 竈の前で振り返って謝るローラに、ロックがぶんぶんと首を振った。


「それは間違いなく翼人の羽。強力な魔力の残滓が漂っている」


 無表情にお茶を啜りつつ、ティアラがたった一枚の羽に興奮する三人へそう告げる。


「ほわあ……やっぱり、これ翼人の羽なんだぁ~」


 しげしげと羽を見つめるリーノ。


「昔、お父さんが冒険者から買い取ったのを見たことがあるよ~。これ一枚で、何種類もの強力な魔法薬が作れるって言ってた……」

「それ一枚で金貨十数枚は固いぞ。うちの商会なら、それくらいで買い取ってるな」

「金貨十数枚もするのか!?」


 ロックの呟きを聞きつけたウィンが尋ねるとロックは頷いた。


「ああ。ティアラ様やリーノの言う通り、翼人の羽には強力な魔力の残滓が残されていて、様々な魔法薬の素材として扱われているんだ。でも、滅多に人前に姿を現さないからな。流通量がめちゃくちゃ少なくて、凄く高値が付くんだよ」

「へえ」


 ウィンはレティシアの膝の上でほえっとした顔をしているイフェリーナを見た。

 人どころかエルフすらも凌駕する魔力を持ち、その羽の一枚すら金貨数十枚にも及ぶ価値を持つ翼人。その子ども。


「だからその子の事は、絶対に信用の置ける者以外に知られないようにしないとダメだぞ」

「ああ、わかってる。皆の事は信用しているからここへ連れてきたんだ」


 ウィンはそう言って頷くと、ケルヴィンを見た。

 唯一懸念があるとするなら、信頼の置ける人物ではあるが友人ではなく上司という立場にあるケルヴィンの事だ。

 レムルシル帝国ではレティシアという、比類ない最高の武力を持つ『勇者』がいるが、その彼女に次ぐと思われる魔力を持つイフェリーナは、まだ子どもだがとてつもない魅力のはずだ。

 しかし、ケルヴィンはニコリと笑って陶杯を床に置いた。


「心配しなくても、騎士団へ報告はしませんよ。まあ、隊長とアルフレッド殿下にだけは報告する必要はあるでしょうが大丈夫です。お二人もレティシア様のお怒りを買いたくは無いでしょう」


 イフェリーナに手を出せば、まず間違いなくレティシアの怒りを買う。そんな絶望的な未来が見えているのに、わざわざ手を出す馬鹿はいない。

 それにケルヴィン個人としては、翼人の持つ膨大な魔力で敵軍を吹き飛ばすよりも、前線に出て己自身の力で敵を切り裂く方が好み。

 根本から戦い方を崩しかねないイフェリーナを、騎士団に贈呈するのには彼個人の好みから外れていて気が進まなかった。


(ただ、彼女の存在を他国や良からぬことを企む者から隠さねばなりません。この戦いが終わった後にでも、護衛を陰ながらにつけるなどの何かしらの手を考えておいたほうが良さそうですね)


 ケルヴィンは最後の一口を飲み込んで、ほうっとため息を吐きつつ心の中で呟く。苦味の強いお茶だが頭の中がスッキリする。

 それから、もう一杯ローラからお茶のお代わりを貰おうと立ち上がる。

 そして、「よろしければ、お茶の銘柄を教えてもらってもよろしいでしょうか?」と、ローラへにこやかに話しかけた。

 


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