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エルツ攻防戦③

 ノイマン皇子軍が総攻撃を仕掛けてきたのはそれから二日後の朝。日が昇ってからの事だった。

 市壁上のエルツ守備隊の兵士達に大量の矢を浴びせ、投石機を用いて石弾を次々と撃ち込んでくる。

 魔導師部隊も前線に投入され、破壊の魔法も爆炎を上げる。

 ノイマン皇子軍の兵士達は、圧倒的な兵数を頼りにエルツの市壁下にまで怒涛の勢いで押し寄せると、梯子や鉤縄を次々と掛けた。

 たいしてエルツの守備隊は、高所という有利な点を活かして矢を浴びせ続ける。といっても火箭は圧倒的に劣っているエルツ側は、狩人を中心とした弓の名手達が遮蔽物に身を隠し、一射一殺の気概を以って敵兵を射ち抜いていった。

 魔導師部隊が撃ち込む攻撃魔法には、ロイズ自らが防御魔法を使って対処する。

 梯子や鉤縄を用いて押し寄せてくる兵士達には、予め市壁の上に積み上げていた丸太を落とし、大きな鍋の中で煮えたぎっている油を頭上に振らせた。

 木材で補修された壁には火を点けられたが、ロイズはあえて燃えるに任せるよう命令した。


「点けられた火はそのままでいい! 勢い良く燃えている間は、敵兵とて中へと入ることはできないからな! 延焼にだけ気をつけろ!」


 ロイズはむしろ油を注いで炎の壁を大きくした。

 そして内側にはすでに町の職人達によって、鉄と丸太で作られた頑丈な柵が二重に作られていて、やすやすとは突破できないようにしていた。

 マジル山脈の麓に位置する鉄鍛冶と木材の町エルツの名は伊達ではない。

 エルツの町を援護するべく、猛攻を仕掛けるノイマン皇子軍の背後へ森の木々に紛れてケルヴィン率いる遊撃部隊が接近する。

 部隊結成当初は三百人程度の遊撃部隊だったが、今は五百人にまで膨れ上がっていた。

 遊撃部隊に属している冒険者達が、他所の町に所属している顔見知りの冒険者を連れてきたり、捕らえたノイマン皇子軍の前線指揮官の中から寝返った者もいたのだ。


「よし! 上手いこと背後はがら空きです! 思う存分斬ってしまいましょう!」


 凄絶な笑顔を浮かべてケルヴィンが号令を発すると、遊撃部隊は森の中から飛び出して猛然と敵の背後に襲いかかった。


「おのれ! 下衆な冒険者風情が……っ!」


 三人から六人単位のパーティーを組み行動する冒険者達は、格上の魔物を相手に五分以上に戦えるのだ。

 魔法を操り身体強化できる貴族騎士を相手にしても、後衛が矢と投石で巧みに注意を逸らし、その隙に前衛の戦士が騎士の頭蓋を斧でかち割ってみせた。


「敵に密着します! 敵に矢を射たせないように!」


 戦闘をしつつ、ケルヴィンは戦場全体の状況を把握し素早く命令を繰り出す。

 その命令に従って遊撃部隊は、同士討ちを嫌って矢を射ち込めないでいる敵方を他所に、敵陣深くへ斬り込み隊列を崩していった。


「ええいっ! 何をしているか! 奴らを包囲して攻撃しろ! 数で押し潰せ!」


 ケルヴィン率いる遊撃部隊の奇襲に気づいたノイマン皇子軍は、遊撃部隊へ正面からぶつかるのではなく、後方へと回り込むように移動する。

 遊撃部隊を押し包むように包囲して、殲滅するつもりなのだ。

 しかし――。


「邪魔ですねぇ」


 その動きに気づいたケルヴィンが、疾駆し敵騎士の前へと回り込んだ。


『我、風の理、剣の理、刃の理を識りて、千刃の刃纏いて、空を裂かん!』


 それからケルヴィンは矢継ぎ早に呪文を詠唱する。


『我、風の理を識りて、烈風を喚ぶ! 奔流となりて押し寄せ、塵芥と為せ!』


 狙いは先頭を走る敵騎士が乗る馬。

 風を纏わせた剣を持ったケルヴィンは、大きく剣を一閃。魔法によって生み出された暴力的な真空の渦が、一直線に先頭の騎士の乗る馬へと襲いかかった。

 風の刃が馬の首と足をいともあっさりと斬り裂き、命を断つ。当然、馬に跨っていた騎士も無事ではすまず、慣性の法則に従って悲鳴を上げる間もなく前方へと吹っ飛んだ。

 その様子に後続の騎士達が乗る馬も足を止めた。

 味方を包囲しようとする敵方の勢いが衰えたのを見て取った冒険者達は、ケルヴィンの命令を待つこと無く各々が勝手に脱出を図り森の中へと逃げ込んでいく。

 ケルヴィンはあえて冒険者達をパーティー毎に行動するように命令を出していた。こうしたほうが、本来自由に行動する冒険者達は動きやすい。そして後程決められた場所で合流を果たしたほうが、身軽な分逃げやすいのだ。

 こうして幾度も出撃を繰り返してはノイマン皇子軍に多大な出血を強いてきた遊撃部隊だったが、この日は勝手が違っていた。

 いつもであれば、翻弄されっぱなしのノイマン皇子軍は、遊撃部隊が森の中へ逃げ込んでしまうと追撃を諦めていた。しかし、今回は森に逃げ込んでも二千もの兵力が追跡してきた。それも、遊撃部隊の冒険者達に引けを取らない早さで森の中を移動している。


(マズイですねぇ……)


 森に慣れている冒険者達の誰よりも速く、森の中を疾走しつつケルヴィンは敵方が追跡している事に即座に気づいた。


(どうやら森の中での戦闘経験を持つ傭兵達を選抜して、私達を迎え討つ為の専門部隊を編成したようですね)


 森の中での行動力という優位が消えてしまえば、後は単純に数の勝負となってしまう。

 ケルヴィンとて、並の傭兵相手なら多人数を相手に立ち回れるが、四倍近い数の敵を相手にしては死を免れない。

 そして何より、いつまでも後退をし続けるわけにもいかなかった。

 ケルヴィン達遊撃部隊が、ノイマン皇子軍の後方を撹乱し続けているおかげで、敵軍はエルツへの攻撃に集中しきれていない面があるのだ。

 このまま、森の中で足止めされ続けてはエルツが陥落してしまう。

 追跡を振り切ろう走りながらケルヴィンは、応戦するか否か考え続ける。

 戦いで流れる熱い汗とは違う、つめたい汗が背筋に流れるのを感じていた。

 その時だった。 

 エルツの方角とは別の方向。大量の馬蹄の音が微かに聞こえてきた。


(まさか……敵の増援ですか?」


 その音は段々と近づいてきている様子だ。


(敵の増援なら確認する必要がありますね)


 ケルヴィンは近くを走る冒険者達に手で合図をすると進路を変更。そして森の木々が開ける街道へと飛び出した。 

 街道のエルツとは逆の方向から、もうもうと土煙が舞い上がっていた。

 やはりエルツへと向かっている様子だ。

 ケルヴィン達を追跡してくる敵部隊の気配も近づいている。

 追跡部隊だけでなく、背後から敵軍の増援による奇襲を受ければ全滅は必死。

 最悪の事態が頭に浮かんだケルヴィンだったが、不思議な事に街道へと姿を見せたノイマン皇子軍の追跡部隊は遠くに見える土煙を見るや否や、慌てた様子で撤退を開始した。

 その動揺はケルヴィン達が見せたものよりも遥かに大きい。


(これはもしかして……)


 ケルヴィンは遊撃部隊をまとめると、その場で近づいてくる者達を待つ。

 やがて馬に乗った人の姿も確認できるようになり、彼らが掲げている軍旗も見える距離にまで近づいてきた。

 先頭に立つ騎士が誇らしく掲げている軍旗は、ケルヴィンの予想通りの紋章が刻まれている。

 リヨン王国軍の軍旗。

 エルツに籠もる者達が待ち焦がれていた援軍の来援だった。


「貴様らはどの部隊の所属か!」


 先頭を走って来たリヨン王国軍の騎士が、剣を収めて居住まいを正したケルヴィン達に誰何の声を掛ける。


「私はレムルシル帝国第一皇女付従士隊ケルヴィンという者です」

「皇女殿下従士隊の方か! では、ウィン殿の同僚でございますな? 我らはリヨン王国軍ラウル殿下配下の先遣隊。我らはこれよりエルツに味方するべく急ぐためこれで失礼するが、貴君の主であるコーネリア皇女殿下は後方我が軍本隊と行動を共にされている。合流されるならここで待たれるが良ろしかろう!」

「来援ありがとうございます。皇女殿下との合流はエルツにてで構いません。できましたら我らも貴軍らと共に同行したい。お許し頂けますか?」

「無論! では共に、エルツの民を救いに参りましょう!」


 リヨン王国軍の先遣部隊はおよそ三千。

 数の上ではエルツを包囲するノイマン皇子軍の方が、まだまだ断然有利である。

 しかし、後方からリヨン王国軍の軍旗を風になびかせて颯爽と登場した三千の軍に、ノイマン皇子軍の士気はたちまち崩壊した。

 三千とはいえラウルが直々に選抜した騎士達は、ノイマン皇子軍の後方を蹴散らしていき、やむなくノイマン皇子軍は撤退を選択する。

 そしてその日の夕方には、リヨン王国軍の本隊がエルツへと入城を果たした。


「兄上……ご無事で何よりでした」

「苦労を掛けたね、コーネリア。ラウル殿にも来援感謝する」


 レムルシル帝国の皇族兄妹がひとしきり互いの無事を喜び合う。

 それからアルフレッドは援軍を率いてやって来た隣国の王太子ラウルに向き合うと、握手を求めた。


「いやいや、少々時間を掛けすぎてしまって申し訳ない。それにしてもエルツの民と兵士達には称賛の念しか覚えないな。十倍にも達する戦力差で、我らが到着するまで防衛を成し遂げてしまったのだからな」

「本当に。エルツの民――いや、エルステッド領の民達の協力無くては、私はとっくに命を落としていただろう。彼らの恩にはいずれ報いたいものだ」


 エルステッド伯爵邸の外からは、エルツの民達の勝利を喜ぶ声が途絶えること無く聞こえてくる。

 一月以上にも及んだエルツ攻防戦は、こうして終わりを告げたのだった。



 ◇◆◇◆◇



 リヨン王国軍がエルツに入って一夜が明けた。

 エルステッド伯爵邸の一室に、ウィンとレティシア、そしてアルフレッド、コーネリア、ラウル、ロイズ、ケルヴィンの七人が集まっている。

 卓上に広げられているのは、帝国南部の地図である。

 ロイズとは初対面になるラウルは、最初でっぷりと突き出た腹、禿げ上がった頭、そしてこれでもかと言うほど贅肉の付いた顎の彼に胡散臭そうな目を向けていた。だがコーネリアから自分の従士を纏めているだけでなく、この度の騒乱ではアルフレッドの陣営の勝利のために尽力し、信頼の置ける人物だと紹介を受けると、居住まいを正して頭を下げた。


「エルステッド伯。我が軍の補給を快く引き受けて頂き、感謝いたします」

「感謝を述べるなら我々の方こそでしょう。補給などは当然の事。糧食や飲み水はもちろん、武器、車の修繕など必要な事は何でもお言いつけ下さい」

「この機を逃さずクライフドルフ侯領へすぐにでも出発したい。戦い終えたばかりで疲弊したエルツの者には無理を願うかもしれないが、よろしく頼む」

「畏まりました、ラウル殿下。何、我がエルツ領の職人達はドワーフの匠にも匹敵する腕の持ち主です。必ずやご要望にお応えしてみせますよ」


 本当に自慢げな笑みを浮かべて言うロイズに、ラウルは小さく礼をした。

 ラウルとロイズの会話が終わったところを見計らい、アルフレッドはこの部屋にいる一同の顔を見回すと口を開いた。


「さて、ラウル君の話にもあったように、僕達はクライフドルフ侯領都ルドルフへ進軍する」

「帝都シムルグを先に解放するのではないのですか?」

「父上――皇帝陛下がノイマンの手中にあるからね。その状態で僕がリヨンの軍と共に帝都へ向かえば、ノイマンは僕達を皇位簒奪を企む逆賊として国内外に広く告発するだろうね」


 皇位簒奪を企む逆賊として、アレクセイがアルフレッドを討てとの勅命を発すれば、いまだアルフレッドとノイマンの両勢力に与せず中立を保っている他の貴族、それにレムルシル帝国への魔物の侵入を食い止め続け無敵の盾と称された東方方面騎士団、水軍を擁する北方方面騎士団も敵となる。


「まずは、ノイマン皇子の後援者であるクライフドルフ侯の地盤を叩こうと思っている」

「エルステッド領主である私としても、我が領へ侵攻し甚大な被害を民に与えた事、許す訳には参りませんからな。さらには殿下を偽物と断じた事など、クライフドルフ侯領へ軍を進める理由は幾らでも考えられます」


 アルフレッドの言を継いで、ロイズが言った。

 大きく突き出た腹の前で手を組み落ち着いた態度で座っているロイズだが、その静かな口調の中には確かな怒りが込められていた。

 アルフレッドを助けるために必要な事だったとはいえ、領民には多大な損害を与えてしまった。

 犠牲者も少なくない数が出ている。

 その原因を作り出したクライフドルフ侯ウェルズに対して、ロイズは強い怒りを覚えていた。


「それにクライフドルフ侯を援助しているのはペテルシアだ。西方方面騎士団のレドリック将軍と合流して、我が国に土足で侵入してきた無礼な彼の国の者たちを叩き出してしまいたい」

「リヨンにとっても、勢力を拡大しつつあるペテルシアに掣肘を加えるには良い機会だからな」


 ラウルもアルフレッドに言葉に頷いてみせた。

 ラウルがアルフレッドと同盟を結んだ理由には、魔物によって国が滅亡し支配者のいなくなった大陸北部の利権の獲得だけでなく、ペテルシア王国に対しての牽制の意味もあった。

 ペテルシア王国は魔王が滅ぼされた後に、急激に勢力を伸ばしつつある国だ。大陸の中央部に位置する国で魔物の侵攻を直接受けず、他の国と比べて十分国力を保ったまま終戦を迎えた。対魔大陸同盟軍へ積極的に軍を派遣し疲弊した大国の隙を突いて、周辺諸国を次々と攻め滅ぼし拡大し続けている。

 リヨン王国はマジル山脈が天然の要害となっているため当面ペテルシアと戦争になる事はないだろうが、好戦的な彼の国に対しては強い警戒を抱いている。

 大国だが魔物領と国境を接して疲弊したレムルシル帝国が、万が一にでもペテルシア王国に滅ぼされる。滅亡とまではいかなくても、ペテルシアと国境を接する東部が落とされることにでもなれば、リヨンにも侵攻されかねない。

 リヨン王国軍はアルフレッドに与して、レムルシル帝国内に触手を伸ばしつつあるペテルシア王国を、クライフドルフ侯共々一緒に叩いておく事は利が大きい。


「ですが帝都シムルグと父上がノイマン兄上の手の内にある限り、クライフドルフ侯の地盤を叩いた所で、彼らはすぐに再起できるのではないのですか?」

「うん。だから、僕達はクライフドルフ侯領都ルドルフを攻めつつ、同時に父上の身柄も確保しなければならない」


 コーネリアの質問にアルフレッドはそう答えると、卓上にある地図を指し示した。

 レムルシル帝国全土が描かれた地図だ。 

 アルフレッドは地図の上に置かれていた自軍を示す駒を一つ摘むと、クライフドルフ侯爵領都ルドルフの上に置いた。


「さっきも言ったように僕はルドルフを攻める。大規模に全軍でね。だけどこれは陽動だ。僕が主将となってルドルフを攻めれば、敵の耳目はこちらへ向く。その間に少数が帝都へと向かい、皇帝陛下の身柄の確保、並びに帝都の奪還を試みる。それで、コーネリア。君には帝都に向かって欲しい」

「私が帝都へ……」


 アルフレッドに言われてコーネリアは黙って話を聞いているウィンとレティシアへと視線を彷徨わせ、それから少し険しい目つきでアルフレッドを見た。


「それは、私が帝都へ向かえばウィン君が護衛として付くことになる。そうすることで、レティシア様の力を利用したいというお考えなのでしょうか?」

「コーネリア。どのみち、レティシア様を巻き込むのは避けられないよ。それにレティシア様にしたって、ただ傍観しているつもりもないでしょう?」


 アルフレッドが卓上に手を置いてそう言うと、レティシアはその言葉に同意するように頷いた。

 ウィンが戦いへ向かうから一緒に行くという理由もあるが、レティシアにとってもシムルグには『渡り鳥の宿り木亭』、ポウラット、ローラ、イフェリーナといった関わりの深い者たちがいる。


「レティシア様が戦争の最前線で戦えば、他国はその力を脅威とみなして警戒を強めるかもしれない。でも親しい人を救うというなら話は別だよ」

「実際、ペシュリカで兄上から父が自宅で蟄居していると伺っています。その話を聞いた私がシムルグに向かうのは当然のこととして言い訳も立つでしょう。ですから、コーネリアさん、私の事は大丈夫ですよ」

「レティシア様がそう仰られるのであれば……では、シムルグへは私と従士隊の皆さんだけで向かうのでしょうか?」

「ラウル君は僕と一緒だ。ルドルフの攻略に協力して欲しい」

「そうだな。俺としては軍を部下に任せてシムルグへ行ったほうが面白そうなんだが、俺がシムルグに行けば別の意図を勘ぐられそうだ。ここの守備と復興支援で二千程度を残していけばいいか?」


 ラウルの確認にアルフレッドは頷いた。


「コーネリア殿下。私にアルフレッド殿下との同行をお許し願えませんか?」


 続いてそう申し出たのはロイズ。

 ロイズはエルステッド伯爵領の領主だが、コーネリアの従士という立場もある。コーネリアの許可なくして、クライフドルフ侯領へ軍を向かわせる事はできない。


「エルステッド領主として、領民を害したクライフドルフ侯を見過ごすわけには参りませぬ」

「わかりました。領主としての責務、存分に果たしてください」

「コーネリア殿下のご配慮に感謝いたします」


 ロイズはコーネリアに礼を言うと、それから横の席に座った彼が最も信頼を置く副長へと頭を下げた。


「すまんな、ケルヴィン。クライフドルフ侯にはお前も色々と思う事があるだろうが、ここは私に任せてもらいたい。殿下の事をよろしく頼む」


 ロイズとケルヴィンは、クライフドルフ侯ウェルズとの因縁があった。

 もともとロイズとケルヴィンの二人は、対魔大陸同盟軍でザウナス将軍の幕僚として千騎長という地位にあった。

 だが、対魔大陸同盟軍で帝国の英雄と呼ばれたザウナス将軍は、その声望で自らの地位を脅かされるのを恐れたクライフドルフ侯によってシムルグ騎士学校の校長に左遷。

 その後、ザウナス将軍は皇帝アレクセイが政務に興味を示さないのをいい事に、権力の専横を企むクライフドルフ侯一派を排除しようとクーデターを起こしたのだが失敗。ザウナス派とみなされていたロイズとケルヴィンもその責任を追求され、十騎長に降格されたという経緯がある。


「クライフドルフ侯への報復は、隊長にお任せしますよ。しかし殿下、我々だけで皇帝陛下をお救い申し上げるのは少々難しいと思われますが?」


 少人数で行動するのは敵の目を掻い潜るには良いが、皇帝アレクセイに恐らくは監禁されているだろう要人を全て解放するには難しい。シムルグは厳戒態勢で町へ入るのも難しいだろう。ましてや皇帝アレクセイのいる皇宮奥深くは警備もなおさら厳しいはず。


「心配いらない。帝都には僕の手勢がいる」

「なるほど。彼らと連絡を取る方法は?」

「確か従士隊にマリーン商会と縁のある者がいたように記憶しているんだけど……」

「ロック従士の事でしょうか?」


 アルフレッドの問いかけにウィンが答えると、そうだったとアルフレッドが頷いた。


「彼の実家、マリーン商会は秘密裏に僕へ協力を申し出てくれた。彼らと接触をすれば僕の手勢と接触する段取りを付けてくれるだろう」

「了解しました。ただ……マリーン商会も監視されている可能性が高いですね」


 ケルヴィンが懸念の声を上げる。。

 マリーン商会がアルフレッドに協力を申し出たのは、三男坊のロックが帝国第一皇女付きの従士だという理由だけでなく、アルフレッド派が勝利した際にはより大きな利権を得られるに違いないという目論見からだろう。しかし、ノイマン皇子派も知っているはずで、当然ロックの事は調べが及んでいるだろう。アルフレッド皇太子派の者が接触を試みる可能性を考えて、マリーン商会の建物は監視されている可能性が高い。


「後程ロック従士を交え、何か手が無いか考えることにしましょう」

「はい」


 ケルヴィンはウィンと顔を見合わせて頷き、会議は終わりを告げた。

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