封鎖
信二はまだ、数分前の出来事を信じられなかった。クラスメートの上田が担任の川口を、食い殺そうとしたからだ。恐ろしい現実だ。黒木大輝が来た
「全員、落ち込んでいるのはわかってる。だが、教室で待機していろ。」
放心状態から戻ってきた、生徒達の1人が反論した。
「待機って?いつまで待機すればいいんですか!!」
大輝は、相変わらず冷静な口調で答えた。
「俺がいいと言うまでだ」
全員、不満は持ったが、これ以上反論しても無駄だと悟ったか、大輝が「いい」と言うまで、待つことにした。
「せ・・先生、川口先生は?」
ソフィーが質問した。
「かなりの重症だ。助かるかはわからん」
そう返答された。
信二は、しばらく寝ようと思った。しかし、ヘリコプターの飛んでいる音がするせいで、寝付けなかった。そういえば、いつもより近くに聞こえる。そんな事を気にするのは俺くらいか。ふと、大輝を見た。大輝が何かを待っているのか、妙にそわそわしている。廊下で誰か走っている。そう感じたとき、ドアが開いた。全員、ドアを開けた人物の顔を見て驚愕された。川口だった。瀕死の川口が、北校舎の保健室から、南校舎の二階のこの教室まで、歩いてきたのか!?川口は大輝に襲い掛かった。その瞬間、生徒達全員、パニックになり、我先に外へ逃げようと廊下へ出て行った。信二も出ようと思ったが、大輝を助けようと考え直した。
しかし、大輝は川口のあごと後頭部をつかんだ。
骨が折れる音がした。
大輝が川口の首を、一回転させて折った。骨が飛び出し、血が吹き出た。信二は、川口が二度、死を迎えたと思えた。ソフィーと野田が戻ってきた。
「信二、早く外へ・・・」
2人とも、川口の死体を見て絶句した。ソフィーは再び、吐き気に襲われた。大輝は川口の顔を確認した。信二は、何だと思い、覗いてみると、再び驚愕した。
川口の目が、真っ黒に染まっていた。歯は、鮫のように鋭かった。まるで、上田のようだった。信二は、もうこんな所にいられなかった。ソフィーと野田を連れて、生徒用の玄関に向かった。生徒の群集が玄関の前にいた。信二は、そんな群集の中をすり抜けて、外に出ようと思った。
しかし出れなかった。扉が閉まっていた。扉のガラスから外の様子を確認できた。外は警察が辺りを封鎖していた。扉の前には、ガスマスクをした、自衛隊のような格好をした人たちがいた。自衛隊と違って、迷彩服ではなく、黒い服からして、警察の特殊部隊か機動隊だろう。だが、何よりも信じられないのが、彼らの手に、短機関銃を持っていた。
「日本仕様のH&K MP5だよ」
いつの間にか、隣に鳥円がいた。あの短機関銃はMP5と言うのか。それなら、あのガスマスク兵士のことも知ってるかも。
「彼らは何だ?」
「特殊急襲部隊SATだよ」
鳥円の声は、苛立ちや恐怖よりも興奮に満ちていた。本物の特殊部隊を見れて、嬉しいのか。SATか。アメリカのSWATに当たる部隊かな。こいつの軍事オタクの知識は馬鹿にできないな。信二は、鳥円にある質問をする事にした。本当の答えを知るはずは無いが、意見は聞きたい。
「あいつらの目的は?」
「あの行動は、僕達を隔離しようとしてるんだ。」
隔離か・・・
「何のために?」
「きっと、未知のウイルスがこの学校に流行してるんだ」
未知のウイルスと来ましたか。声が興奮気味だな。やっぱりオタクだ。
信二は、ベランダから、外へ出れるかもしれないと思った。信二たちの校舎の全ての教室には、ベランダがある。信二は急いで階段を駆け上がり、自分達の教室に着いた。しかしすでに、ベランダにSATがいた。彼らはベランダの窓を溶接していた。溶接されたら開けられないな。けど、割って出ればいい。
しかし、SATは、ベランダの窓ガラスくらいの大きさの鉄板を、窓ガラスに、はめた。何をするかと思うと、鉄板を溶接し始めた。なるほど、窓を割らせないためか。信二は、廊下の窓を見た。廊下の窓でも、ロープにぶら下がったSATがベランダと同じように、窓を溶接し、鉄板を取り付けた。まさかと思い、玄関に向かうと、玄関の窓ガラスにも鉄板を取り付けようとしていた。
「扉から離れてください。これは警告です。扉から離れてください。発砲許可が下りている。すみやかに扉から離れてください。場合によっては発砲します。」
SATが呼びかけをしている。しかし、誰も本気にしていない。それどころか、全員怒鳴って反論している。ソフィーはフランス語で怒鳴っていた。信二はソフィー、鳥円、野田、山田、紘輝、竹田を見つけると、すぐに集めて扉から離れさせた。
「信二、まさかあいつらの言っていること信じたのか!?」
野田の怒鳴り声は迫力があった。
「嘘を言ってるようには見えない」
学校中の窓をふさいでるんだ。きっと発砲する。そう確信していた。信二が野田たちを説得している最中、どこかの生徒が椅子をもって、ガラスを割ろうとしていた。
その時だった。
他の生徒1人が、突然苦しみ出した。そして、床に倒れた。他の生徒は反論に夢中で気が付いてなかった。信二は、その生徒を見ていた。外ではSATの呼びかけが続いていた。この口論が長続きすると思われた。だが、この口論は1人の生徒の叫び声で中断した。
なんと、床に倒れて死んでいたと思われた生徒が、他の生徒の首を噛み付いていた。そして食いちぎった。信二はしっかり見ていた。殺人鬼と化した生徒の瞳が真っ赤に染まっていた。その生徒は、奇声を上げながら、周りの生徒に血を吹きかけた。生徒達が悲鳴を上げていると、5発の銃声が鳴り響いた。
外のSAT隊員の1人が、殺人鬼と化した生徒に、単発のMP5を発砲した。5発の弾丸が生徒の体を貫いた。他の生徒達は、パニックになり、ばらばらに逃げていった。その間にSATは、玄関の扉のガラスに鉄板を取り付けた。
信二は、射殺された生徒に駆け寄りもう1度、瞳の色を確認した。やはり真っ赤だ。上田や川口は、目全体が真っ黒に染まっていた。しかしこの生徒は瞳だけが真っ赤に染まっていた。歯も確認した。鋭くない。普通の歯だ。
SATによって学校の全ての窓がふさがれた。生徒達は、自分達の教室に戻り、落ち着きを取り戻そうとした。信二は頭が混乱していた。黒眼の上田達。赤眼の生徒。SAT。この学校に何が起きているんだ?
犠牲者
生徒:2名
職員:川口