悪霊(レギオン)の猛攻
そこで、イエスが、「名はなんと言うか」とお尋ねになると、「我が名はレギオン。我々は大勢であるが故に」と言った。
新約聖書マルコによる福音書5章9節
「あ、そうだ」
水谷は、信二に何かを投げた。信二は右手で受け取った。
「止血剤だ。その子に使っておけ」
信二はソフィーに止血剤を飲ませた。
「じゃあ、職員玄関へ行くぞ。準備しろ」
水谷は短機関銃を調節し始めた。信二は大輝の死体に駆け寄った。大輝が他に何か無いか調べた。
包帯があった。信二はソフィーへ駆け寄った。
「包帯を巻くぞ」
ソフィーはコクリとうなずいた。信二はソフィーの右肩を巻き始めた。
山田と立花は一緒に座っていた。
「立花さん。なんでそんなに落ち込んでいるの?」
立花には答えたくない質問だ。ずっと好意を抱いていた相手を殺したのだからだ。
「・・・大切な友人をこの手で殺した・・・」
「そうか・・・」
水谷は自分の銃に異状が無いことを確認した。
「よし。皆行くぞ」
水谷と信一が先頭に立った。一同は来た道を引き返し、エレベーターまで着いた。信二はソフィーに肩を貸しながら連れてきた。
全員、エレベーターに乗り、1階へ向かった。
「やっと、外へ出れる」
信二はそう呟いた。
エレベーターの扉が開き、一同はエレベーターから出た。
だが、再び絶望が一同を襲った。
職員玄関の前に大勢の感染者が立っていた。全員、目は赤かった。
「それは無いだろ」信二は小声で言った。
感染者達は赤い目で、信二達を睨んだ。うなり声を上げていた。まるで悪霊のようだった。
「悪霊」
信二は新約聖書に出てくる悪霊の名前を思い出し、呟いてしまった。
「いいえ・・・悪霊よ」
ソフィーは訂正した。
「でもレギオンのほうが今の状況に相応しい名前よ」
立花はそう言った。
「どうでもいいよ!」
山田は怒鳴った。
山田の怒鳴り声が合図のか、感染者達が奇声を上げながら一斉に走り出した。
「撃て!相沢!」
「分かってる!」
水谷と信一は短機関銃を一斉乱射した。弾丸は感染者達の体を次々と貫いた。だが、数は減るどころか逆に増えていた。
「エレベーターに乗って!」
立花は怒鳴った。全員エレベーターに乗ると同時に立花は扉を閉めるボタンを押した。
扉は閉まった。
『階を指定してください』
エレベーターのスピーカーから女性の声が出た。
「おい・・・誰か足りないか?」
水谷は言った。信二は入ってる人の名前を確認した。
「水谷、相沢、俺、ソフィー、立花・・・山田は!?」
エレベーターの扉の向こう側から声がした。
「開けて!お願い!開けて!」
山田の声だった。山田が外に取り残された。立花は開けようとした。
「よせ!今あけたら感染者が入ってくる!」
水谷は止めた。
「じゃあ、どうすればいいのですか?」
「山田君!聞こえるか!エレベーターを4階まで上げる!4階で待っている!」
「分かった!絶対4階まで来て!」
山田が走っていった・・・気がした。
立花は4階を押した。
「こちら水谷。職員玄関前で感染者が待ち伏せしていた。脱出は不可能だ」
『了解。こちらで何か考える。それまで耐えてくれ』
「耐えろって・・・こちらはもう弾丸が少ないんだぞ!」
『繰り返す。こちらで何か考える。それまで耐えてくれ』
水谷は舌打ちした。
エレベーターは4階に着き、扉が開いた。山田が立っていた。
「さあ!早く入れ!」
だが、山田は奇声を上げながら襲い掛かってきた。良く見れば、目が赤かった。
「畜生!山田が感染した!」信二は叫んだ。
信一は山田を蹴り、外へ突き飛ばした。立花はエレベーターの扉を閉めた。
山田が扉を叩いていた。
『こちら、陸上自衛隊前原一等陸佐だ』
「前原陸佐!職員玄関は駄目です!」
『なら南校舎の屋上へ向かえ』
「了解。交信終了。立花さん、3階を押せ」
立花は言われた通り3階を押した。
エレベーターの扉が開く。水谷と信一が外に出て、ルートを確保した。
「よし。行こう」
だが、階段から何かが上がって来た。黒目の感染者達だ。
「構うな!屋上まで行け!」
水谷は感染者を撃ちまくった。
「俺が時間を稼ぐ!相沢は連れて行け!」
信一は信二たちを連れて行った。渡り廊下を渡りきったが、2年生の教室から赤目の感染者達が出てきた。
「糞!」
信一は短機関銃で感染者の頭を次々と撃ち抜いた。だが、信二達にも襲い掛かってきた。
「くたばれ!」
信二は大輝のものだった散弾銃で感染者を撃った。反動が強く、腰だめでは撃てなかった。感染者の1人が立花に掴みかかった。
「立花!」
信二は慣れない銃で立花を助けようとしたが、信二にも感染者が掴みかかった。
立花はネックレスの十字架を握った。
「大輝君・・・ごめん!」
十字架を感染者の右目に突き刺した。感染者は苦しみながら、右目に刺さった十字架を抜いた。立花は感染者から十字架を奪い、今度は左目に刺した。感染者は完全に盲目になった。
信二は散弾銃を落とした。ソフィーは散弾銃を拾い、感染者の頭を狙った。
「撃て!」
ソフィーは散弾銃を撃った。反動で倒れたが、感染者の頭は吹き飛んだ。
「全員無事か!?」
水谷が走ってきた。後ろには大勢の感染者が。
「逃げろ!早く!」
信二は、ソフィーに肩を貸しながら、立花を連れて屋上へ向かった。
屋上へ向かう階段を駆け上がった。
「早く!こっちに来なさい!」
階段から瀬木が降りてきて、ソフィーを抱きかかえ、信二達を屋上へ誘導した。
「信一と水谷は!?」
「感染者と戦ってます」
屋上へ着いた。
屋上では、大勢のSATが待機していた。
「この子達を頼む」
瀬木はソフィーを近くの隊員に渡した。
「中にいる相沢たちを救助に向かうぞ!」
SAT達は次々と校内に入った。
信二は、外の世界を久しぶりに体験してる気分だった。
「今何時ですか?」
信二は近くの隊員に聞いた。
「夜中の2時過ぎだよ」