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感染者の牙  作者: 岡田健八郎
24/40

生存者

信二は、気づいたら美術室にいた。

無我夢中で走っていた信二は、他の人を確認していなかった。

美術室に居たのは、信二、信一、大輝、紘輝、立花、海咲、ソフィー、山田、野田、優、栗山だけだった。

「鳥円は?鳥円は知らないか?」

信二は全員に訊ねた。だが、全員首を横に振った。

信二は、鳥円を探そうと、扉を開こうとした。

「行っても無駄よ。無事なはずないわ。感染者にやられたのが、オチよ」

海咲はそう言った。

「だが、まだやられたとは、限らない。」

信二は出て行こうとした。

「まて。お前が行く必要ない。」

止めたのは、大輝だった。

「俺が探しに行く。」

大輝がそう言った。

「なら、俺も」と信一。

「あなたは、ここに残ってください。感染者が襲撃したら、1番戦力になるのはあなたです。」

大輝はそう言って、バールを持って美術室から出た。

信二の手が震えていた。初めて銃を使い、初めて殺人を犯した。常人だったらとっくに精神に異常があるだろう。

 立花は、罪悪感を感じていた。あの時は、無我夢中で戦っていたけど、2、3人の生徒を殺してしまった。それ以上かも。

もう立花に、包丁を握る覚悟が出なかった。

 大輝は、釘バットを見つめていた。

「向こうが襲ってきたんだ。正当防衛だ」

だが、感染者達のわめき声と殺す瞬間の記憶が、頭から離れなかった。

「神よ。私の罪をお許しください」

十字架を握って、そう言った。だが、祈りの言葉はもう意味はない。はっきりそう悟った。

死後の世界に行くとしたら、間違いなく自分は地獄行きだ。もっとも、この惨状も地獄と言えるがな。





 水谷達は、家庭科準備室の前に立っていた。

「開けるぞ。準備しろ」

木馬が、ドアの横からドアノブを握った。水谷、石神、火野がドアの前に立って銃をしっかり構えた。

水谷が、首で合図したと同時にドアが開く。

 中には、調理器具以外何もなかった。

「隠れて」

木馬が小声で囁くと同時に全員、準備室に入った。

「どうした?」

「12時の方向に感染者」

「数は?」

「1人」

水谷は、顔を出して、言われた方向を見た。

確かに、成人感染者が立っていた。だが、こちらを向いてない。好都合だ。距離はざっと3メートルほどだな

「俺が始末しに行く。援護してくれ」

水谷は、コンバットナイフを取り出して、右手で握ってしのび足で、感染者に接近した。

その後ろを、残りの3人で感染者に銃口を向けた。

水谷は、感染者の真後ろに居た。狙うべき場所は最重要ポイント・・・つまり首だ。

水谷は、左手で感染者の口を封じると同時に、右手のナイフを首に突き刺した。

「許してくれ・・・」

感染者は叫ぶこともできず、ただ死を待つだけだ。

 数十秒が経った。

感染者は、ぴくりとも動かなかった。

ナイフを抜くと同時に、首から鯨の潮吹きのように大量の血が出た。

感染者は床に倒れた。脈を量った。

「始末した」

4人が、水谷に駆け寄った。

「見事だったです」野村が言った。

「殺人行為を褒めないでくれ」

水谷は、ナイフをしまった。

「理科室へ行って見ましょう」

だが準備室の死角から、感染者が飛び出してきた。火野は、反射的に感染者の鼻を右拳で殴った。

鼻の折れる音がした。

感染者は怯んだ。この隙を見逃さず火野が感染者の首をへし折った。

「君達の神経は驚かされる。」

火野はなにか呟いた。

「理科室へ行きましょう」

水谷達は、階段を駆け上がった。最上階に着いた。階段の手前に理科室があった。

「ビンゴ」

木馬が、ドアの横に立ち、残りの3人がドアの前で銃を構えた。水谷が合図を送った。

だが、ドアが開かなかった。

「鍵が掛かってます。」

「石神、やれ」

石神は、ポケットからキーピックを取り出し鍵を開ける作業を開始した。

「警戒しろ」

数十秒経った。

カチッ

鍵が開いた。

再び、さっきの態勢に並び変えた。木馬が鍵を開ける。

何も飛び出して来なかった。ほっとしたもつかの間

「隊長!後ろ!」と木馬が言った。

後ろから、職員感染者が全力で走ってきた。

石神が、即座に頭を狙って撃った。

弾丸は、感染者の頭を正確に貫いた。

「早く中へ!」

野村の掛け声と同時に全員理科室に入り、ドアを閉め鍵を掛けた。


理科室を見渡しても感染者は居なかった。それどころか、怪しい物1つさえ無かった。

「理科室には無かったな。」

水谷が、言った。

「いえ、何かあるはずです」

野村が言った。そのうち2人の口論が始まった。

「隊長!奥に扉があります!」

木馬の言う通り、理科室の奥に扉があった。


全員、扉の前に立った。

「駄目です。鍵が掛かってます。

「石神。できるか?」

「鍵が複雑です。単純なものでないとできません」

水谷はため息をついた。

「火野」

「了解」

火野は深く息を吸いこんだ。

「ん!!」

右足で扉を蹴りこんだ。

扉は外れた。

中は煙っぽかった。全員咳き込んだ。中は広々としていた。

だが、怪しい実験家具がたくさん置いてあった。注射器、メス、拘束具など。まるで、マッドサイエンティストの部屋だ。

「ビンゴ!」野村は喜んだ。

木馬が興味本位で注射器を取ろうとした。

「触るな!!」

野村の怒鳴り声が部屋中に響いた。

「この中にある物は絶対触るな」

水谷は、木馬に目で注意した。

それにしても、本当にマッドサイエンティストの部屋だな。木馬はそう思った。

「そんな馬鹿な・・・彼女が居ない」

そうだった。今回の任務は、アイビの捕獲だった。

全員がそう思った。

「拘束具があるのに、なぜ彼女が居ないんだ!」

「見渡す限り、もう扉はありません」


木馬は1つの録音機を見つけた。再生ボタンを押した。

『5月26日。今日は晴れ』

全員、この声に釘付けになった。

『アイビの体液にもウイルスは存在した。今日の彼女は比較的に大人しい。妙だな。

今日も、試作段階のワクチンの実験を行った。ワクチンはウイルスには効かなかった。3年間も研究したが、何の収穫もない。そういえば、明日は彼女の誕生日だ。何かプレゼントを買わなくては』

プレゼント。その言葉が水谷に深く沁みこんだ。

『5月27日晴れ。今日は彼女の誕生日。ぬいぐるみとCDをあげた。

彼女は興味しんしんでぬいぐるみを見つめた。CDを聞かせた。えらく気に入ったそうだ。

これまでの研究で分かった事は、ウイルスは接触感染すること。霊長類のみの感染。ウイルスに感染した者は狂暴化すること。本当にワクチンは開発できるのか?』


『6月1日くもり。職員の1人が彼女を見つけてしまった。俺はそいつを捕まえて、薬物で精神をおかしくしてやった。理由もなしに職員が精神病院に行ったから、生徒が不振がってる。そこで俺は7不思議の8番目をでっち上げて生徒に吹き込んだ。生徒は信じてしまった。この年頃の・・・』

途中で乱れてしまった。

『6月6日。実験用のニホンザルから新しい変異型が見つかった。空気感染可能の変異型だ。俺はすぐに、感染していたニホンザルを焼却処分した。万が一の事を考えて他の猿も処分し、俺の血液検査をするつもりだ。』

空気感染型がすでに生まれていたのか。

『7月1日。新たな変異型が生まれた。感染者をより狂暴にさせるものだ。』

『7月2日。今のところ、変異型は2つ。1つ目は、感染者の身体能力をあげるものだ。2つ目は感染者を狂暴化させる。この2つをタイプ2とタイプ3と呼ぶことにした。タイプ2は宿主を必要とする。

つまり、感染者が死ねば、ウイルスも死滅する。タイプ3の感染者の思考は攻撃性だが、タイプ2の感染者の思考は今だ不明だ。』

これ以降、雑音しか聞こえない。


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