襲撃
信二は教室の隅で、兄が感染者となって泣きじゃくる仁を慰める伊藤を見かけた。
「元気だして。男の子でしょう。ね?」
伊藤は人望のある女子だ。生徒会選挙で、立花に一票差で負けた。
「海咲、ちょっといいか?」
海咲は、信二の所へ駆け寄った。ソフィーほどではないが、美少女だ。人目を引く魅力は十分ある。
「何よ?信二君」
「慰め方ってもんがあるんだ。手本を見せよう」
信二は、仁のそばに座った。
「なあ、仁。そう悲観的になるな。確かに兄さんは感染者になった。だが、希望はある。」
仁はやっと顔を上げた。
「希望?」
「そうだ。感染者が元に戻らないって誰がいった。この先ワクチンが開発され、兄さんが元に戻るかもしれない。死んでなきゃ、どうにでもなる!」
「でも、兄さんが居なくなれば、僕の家族は父さんだけになる。」
「父さんの写真はあるか?」
仁は。首を縦に振って写真を見せた。
写真を見た瞬間、信二は言葉が出なかった。
屋上に墜落したヘリから出てきたパイロットそっくりだ!確認しておこう・・・他人の空似もある。
「お父さんの職業は?」
「ヘリコプターパイロット」
何てことだ。こいつの家族は全滅じゃないか!どういったらいいか・・・
「父さんは、まだ若いな・・・あと40年は生きられそうだ。40年は孤独にならないぞ」
父さんは死んだなんて言えない・・・
「ありがとう・・・」
信二は立ち上がり、仁から遠ざかった。海咲が後を追う。
「うまい慰め方ね。どうやって学んだの?」
答えたくない質問だ。
その時、火事の発生を知らせるベルが鳴った。
「感染者だ!感染者が来たぞ!!」誰かが叫んだ。
北校舎の暗闇から、本当に感染者がこちらに走ってきている。
2階はタイプ3、3階はタイプ2だ。
2階では信一が狙撃銃で、3階では大輝が拳銃で、射撃を始めた。
生徒達は教室に逃げ込み、ドアを閉めた。信二は、消火器を持って心の準備をした。
紘輝は再び祈りを始めた。立花は包丁を強く握った。鳥円はパソコンをリュックにしまった。
生徒全員がそれぞれの覚悟を決めた。
信一は狙撃銃で、感染者を狙撃していた。だが、どこを撃っても、感染者は怯む程度で、走り続けている。たとえ心臓を撃ったも。
感染者は、バリケードで足止めを食らった。隙間から入って、南校舎に進行しようとしたが、通り抜けると、職員達に頭を殴られ、殺される。信一は、狙撃箇所を胸から頭に変えた。頭を撃たれた感染者は、即活動停止した。つまり、頭が弱点だな。信一はそう確信した。
3階では、大輝が拳銃で撃っていた。大輝は初めから、頭を撃っていた。
感染者は撤退を始めた。味方の死体を引きずって、北校舎の暗闇に戻って行った。
「感染者は逃げていった。もう安心だ」
信一は大声で言った。
その言葉に全員安心した。
信一は、大輝の所へ駆け寄った。
「なぜ、撤退したんだ?」
大輝は拳銃を装填した。
「知らん。嵐の前の静けさかも」
感染者達は自分達の領土に戻って、仲間の死体を職員室に溜め込んだ。
すると、職員室の隅で怯える1年生を発見した。
感染者達は、1年生に牙を向けた。