第一章 -流-
第一章 -流-
「であるからにして鎌倉幕府が―」
セミの鳴き声に張り合う声量で授業を進めている
相変わらず暇な日本史
教科書に書いてることをそのまんま言ってる授業は聞く価値すらない
だから山野の授業は聞かない。
と言うように立花流はいつもの様に窓の外に目をやった
聞く価値もない授業は決まって窓の外の景色を見る。
流の最近の趣味だった。
それに窓の外の景色を見れるのは窓際の席の「特権」なのだから
「それを使わなくちゃ」という流のよく分からない考えもあった。
流のクラスは最上階の4階であるため景色もそれなりに良かった
今日は快晴だ
昨日は曇り、一昨日は雨、その前は…
何て考えながらも久々のお天気を楽しみながら流は景色を眺めていた。
青い絵の具でキャンバスを全部塗ったかのような真っ青の空、
目線をずらすと山の奥の方に見える入道雲
(梅雨は明けたはずだが…)
と思ったが、この青さにあの真っ白な入道雲は流の眼には光るように見えていた。
「綺麗だ…」
何て呟きながら授業は進んでいっていた
どのくらい授業が進んだだろう
精々15分くらいか
いつしか流は睡魔に襲われかけていた。
頬杖をつきながら窓の外を眺めうつらうつらしていた
雲は静かに、そしてゆっくりと流ていた
落ちそうになったペンを眠気眼で止め、欠伸をしながらゆっくりと伸びをした。
(いつになく今日は眠い…天気が良いからか?)
そう感じながらもまた景色に目をやった
その時だった
サッと窓の外に人影が映った
まっ逆さまに落ちていく人影だ
(自殺!?)
流の頭に浮かんだ2文字はさっきまであった眠気など何処かへ消し去ってしまっていた
4階の上は屋上。
学校で一番高い場所。飛び降りるなら普通はそこからだ
突然起きた事に頭の中は混乱していた
「えっ!!嘘だろ!?」
授業中ということなど忘れて叫んでいた
流は窓を開け身を乗り出して下を見た
「いない…」
流の行動に驚き騒ぐ生徒たち
教科書を読み続けていた山野もこの騒がしさに気付き、
授業開始からずっと持っていたそれを教卓に叩きつけた
「立花!授業中だぞ座れ!それとも何かあったって言うのか?」
山野に怒鳴られた流は考えた
本当の事を言っても誰も信じてくれる筈がない
「ト、トイレ行ってきまーす!」
咄嗟に出た言葉で口実を作った
山野の返事も聞かず駆け足で教室から飛び出した
もちろん向かう先はトイレ何かじゃない
人が落ちたと思われる場所だ
目的の場所に着くと流は辺りの草むらを探しだした
「上からは見えなかった…何で…ここにいないのか?でも確かに落ちたとしたらここだろ…」
自問自答を繰り返して草むらを探していると微かに声が聞こえた
その微かばかりの声を頼りに進んでいくと…
「…見つけた…」
呟いた先にいたのは
白く透き通った肌、繊細な指、流れる様な黒髪、どれをとっても綺麗としか言えなかった
流は見とれていた
だがそれは人間では無かった
「え…?何これ…」
背中から生えた白い翼…
飽き飽きしていた日常が音を立てて崩れていくような気がした
「これは何だ…」
流の中には大きな好奇心と小さな恐怖が入り交じっていた
第一章 -流- 終