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病弱な幼なじみを優先する婚約者が溺愛していたのは、実はやっぱり病弱な幼なじみだった

作者: 唯崎りいち
掲載日:2026/05/29

 病弱な幼なじみが呼んでいると、今日も私の婚約者は帰って行こうとする。


 今回で何度目?


 そこまで幼なじみが大事なら婚約するべきではなかった。

 今からでも遅くない、婚約は解消すべきだ。

 それに対する責任は勿論、あなたの公爵家で取るべき。


「悪いけど、幼なじみが熱を出してしまったんだ」


 って、私に言う前にやるべき事がある。


 だいたい、熱出してる時に来られても困る。

 医者でもなんでもない幼なじみが何しに行くのか?


 親も使用人も医者もいるだろう。


「私も行きます」


 ピタッと婚約者が止まる。


「何しに君が行くんだ」


「あなたと同じことをしに行きます」


「熱が出ているのに迷惑だ」


 そう思います。


「邪魔しません。見てるだけです」


「見てるだけなんて怖いだろう」


 婚約者がドン引きしている。


「じゃあ、あなたは何しに行ってるんですか!?」


「そ、それは……!」


 婚約者が言い淀む。


 何かまずいことがある?


 普通に考えたら幼なじみとの浮気だが……。


 なら婚約しなければいいわけで、私とは政略結婚しなければいけない事情もない。

 浮気するなら幼なじみと結婚すれば良かっただけ。


 幼なじみ側に結婚出来ない事情があって、カモフラージュのための婚約ならありか?


 それなら、私に会いに来て呼び出されて帰るって言うのが不自然だ。

 最初から会わなければいい。

 婚約して結婚式まで会わない人もいるんだし、無理に会う必要はない。


 だから、婚約してから事情が変わったと見る方が自然だ。


 私と婚約者は親同士が勝手に決めて婚約した。

 年頃なのに恋愛に興味がなく、家にこもっていた私に、彼はちょうどいい相手だっただけ。


 だから、愛なんて最初からないのに、今日も帰って行く彼を見つめると、涙が出る。


 彼を見つめる私が掴む窓のサッシには埃がベッタリとついて、古くなった木は水分を含んで歪んでいた。

 腐ってボロボロに崩れそうな木枠は、窓から外れて隙間風を防がない。

 だいたい窓ガラスは割れている。


 この忘れられた館に会いに来てくれるのは彼だけなのに、私はまた取り残された。


◆◇◆


 馬車を走らせ、幼なじみのアリアの元に急ぐ。


「ジュリアン!」


 目を覚ましたばかりのアリアが俺に抱きつく。


「来てくれないかと思った」


「俺が来ないことなんて今まで無かっただろう」


「でも、私みたいな、いつ目が覚めるか分からない幼なじみなんて普通は見捨てるわよ」


「俺は絶対にアリアを見捨てないよ」


 微笑んだ後に、アリアが複雑な表情をする。


「でも、自分の婚約者がそんなだったら嫌だわ。ぼんやりとしか覚えてないけど、夢の中の私の婚約者は、幼なじみを理由に婚約者の私に会いに来たのに帰ってしまったの」


「そいつは最低だな」


「最低のクズだわ! そんなに幼なじみが大事なら婚約するのがおかしいし、会う約束だってしなければ傷付けずにすむのに、何がしたいの!?」


「……一緒に外に出かけたいんだよ」


 アリアが訝しがる。


「なんでジュリアンが夢のクズ男の気持ちをわかるの? ……もし、ジュリアンに婚約者がいるなら、私よりそっちを優先してね……」


「勿論、いつでも君を優先するよ、アリア」


「だから、私じゃないってば!」


 その最低のクズは、俺の事なんだが、君が一番なんだから仕方がない。


「……本当に、私の事はいいのよ、ジュリアン」


 アリアが俺の方に両手を回して言う。


「俺には、君が一番なんだ、アリア」


 誰よりも強くアリアを抱きしめる。


◆◇◆


 アリアの意識は眠ると昔住んでいた館に戻ってしまう。


 両親と暮らしたその館は、彼女の拠り所だ。


 俺とアリアは隣り合う領地で生まれ育った。

 公爵の次男だった俺と、侯爵の長女だったアリア。

 俺たちは仲が良くいつも一緒の幼なじみだった。


 ただ、俺が学園の寮に入る事になり一時的に居なくなっていた時に、アリアの両親が相次いで亡くなり、アリアは叔父の家で暮らすことになる。


 両親が亡くなり俺もそばにいない。

 劇的に変わった環境に病が重なり、アリアの心は昔住んでいた館に戻ってしまった。


 学園を卒業した俺が、アリアに会いに叔父の家に毎日行っても目を覚ますのはたまにで、心はずっと古い館に囚われている。 


 霊媒師が、館の記憶が曖昧な彼女を外に連れ出せたら、病が劇的に良くなると言った。


 俺は、彼女の婚約者という事にして外に連れ出そうと試みる。


 何度でも、婚約者に会いに行き、試す。

 彼女を救うために。


「なあ、アリアは夢の中で婚約者が来るたびに、目を覚ましてないか?」


 熱が出るのが目を覚ます兆候だった。


「なんで分かったのジュリアン! そうなの!」


「……理由があるのか?」


「だって夢の婚約者なんかよりも、ジュリアンの方がずっと素敵だから、会いたくて目が覚めるのよ!」


「……」


 俺は絶句する。


 な、なんて可愛い理由なんだ……!


 もっと強くアリアを抱きしめる。


「ジュリアン大好きよ」


「俺も、愛してるよ。アリア」


 だけど、いつ俺は、君を救えるようになるんだ?


【終わり】


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