病弱な幼なじみを優先する婚約者が溺愛していたのは、実はやっぱり病弱な幼なじみだった
病弱な幼なじみが呼んでいると、今日も私の婚約者は帰って行こうとする。
今回で何度目?
そこまで幼なじみが大事なら婚約するべきではなかった。
今からでも遅くない、婚約は解消すべきだ。
それに対する責任は勿論、あなたの公爵家で取るべき。
「悪いけど、幼なじみが熱を出してしまったんだ」
って、私に言う前にやるべき事がある。
だいたい、熱出してる時に来られても困る。
医者でもなんでもない幼なじみが何しに行くのか?
親も使用人も医者もいるだろう。
「私も行きます」
ピタッと婚約者が止まる。
「何しに君が行くんだ」
「あなたと同じことをしに行きます」
「熱が出ているのに迷惑だ」
そう思います。
「邪魔しません。見てるだけです」
「見てるだけなんて怖いだろう」
婚約者がドン引きしている。
「じゃあ、あなたは何しに行ってるんですか!?」
「そ、それは……!」
婚約者が言い淀む。
何かまずいことがある?
普通に考えたら幼なじみとの浮気だが……。
なら婚約しなければいいわけで、私とは政略結婚しなければいけない事情もない。
浮気するなら幼なじみと結婚すれば良かっただけ。
幼なじみ側に結婚出来ない事情があって、カモフラージュのための婚約ならありか?
それなら、私に会いに来て呼び出されて帰るって言うのが不自然だ。
最初から会わなければいい。
婚約して結婚式まで会わない人もいるんだし、無理に会う必要はない。
だから、婚約してから事情が変わったと見る方が自然だ。
私と婚約者は親同士が勝手に決めて婚約した。
年頃なのに恋愛に興味がなく、家にこもっていた私に、彼はちょうどいい相手だっただけ。
だから、愛なんて最初からないのに、今日も帰って行く彼を見つめると、涙が出る。
彼を見つめる私が掴む窓のサッシには埃がベッタリとついて、古くなった木は水分を含んで歪んでいた。
腐ってボロボロに崩れそうな木枠は、窓から外れて隙間風を防がない。
だいたい窓ガラスは割れている。
この忘れられた館に会いに来てくれるのは彼だけなのに、私はまた取り残された。
◆◇◆
馬車を走らせ、幼なじみのアリアの元に急ぐ。
「ジュリアン!」
目を覚ましたばかりのアリアが俺に抱きつく。
「来てくれないかと思った」
「俺が来ないことなんて今まで無かっただろう」
「でも、私みたいな、いつ目が覚めるか分からない幼なじみなんて普通は見捨てるわよ」
「俺は絶対にアリアを見捨てないよ」
微笑んだ後に、アリアが複雑な表情をする。
「でも、自分の婚約者がそんなだったら嫌だわ。ぼんやりとしか覚えてないけど、夢の中の私の婚約者は、幼なじみを理由に婚約者の私に会いに来たのに帰ってしまったの」
「そいつは最低だな」
「最低のクズだわ! そんなに幼なじみが大事なら婚約するのがおかしいし、会う約束だってしなければ傷付けずにすむのに、何がしたいの!?」
「……一緒に外に出かけたいんだよ」
アリアが訝しがる。
「なんでジュリアンが夢のクズ男の気持ちをわかるの? ……もし、ジュリアンに婚約者がいるなら、私よりそっちを優先してね……」
「勿論、いつでも君を優先するよ、アリア」
「だから、私じゃないってば!」
その最低のクズは、俺の事なんだが、君が一番なんだから仕方がない。
「……本当に、私の事はいいのよ、ジュリアン」
アリアが俺の方に両手を回して言う。
「俺には、君が一番なんだ、アリア」
誰よりも強くアリアを抱きしめる。
◆◇◆
アリアの意識は眠ると昔住んでいた館に戻ってしまう。
両親と暮らしたその館は、彼女の拠り所だ。
俺とアリアは隣り合う領地で生まれ育った。
公爵の次男だった俺と、侯爵の長女だったアリア。
俺たちは仲が良くいつも一緒の幼なじみだった。
ただ、俺が学園の寮に入る事になり一時的に居なくなっていた時に、アリアの両親が相次いで亡くなり、アリアは叔父の家で暮らすことになる。
両親が亡くなり俺もそばにいない。
劇的に変わった環境に病が重なり、アリアの心は昔住んでいた館に戻ってしまった。
学園を卒業した俺が、アリアに会いに叔父の家に毎日行っても目を覚ますのはたまにで、心はずっと古い館に囚われている。
霊媒師が、館の記憶が曖昧な彼女を外に連れ出せたら、病が劇的に良くなると言った。
俺は、彼女の婚約者という事にして外に連れ出そうと試みる。
何度でも、婚約者に会いに行き、試す。
彼女を救うために。
「なあ、アリアは夢の中で婚約者が来るたびに、目を覚ましてないか?」
熱が出るのが目を覚ます兆候だった。
「なんで分かったのジュリアン! そうなの!」
「……理由があるのか?」
「だって夢の婚約者なんかよりも、ジュリアンの方がずっと素敵だから、会いたくて目が覚めるのよ!」
「……」
俺は絶句する。
な、なんて可愛い理由なんだ……!
もっと強くアリアを抱きしめる。
「ジュリアン大好きよ」
「俺も、愛してるよ。アリア」
だけど、いつ俺は、君を救えるようになるんだ?
【終わり】




