第10話 その後
同窓会の案内が届いたのは、卒業から五年が経った頃だった。
店は、駅前の居酒屋。
名前を見ただけで、どんな雰囲気か想像がつくような場所だ。
宮坂遼は、少し迷ってから参加の返事を出した。
特別、理由があったわけじゃない。
ただ、行っておいた方がいい気がした。
久しぶりに集まった顔ぶれは、
どこか大人びていて、どこか変わっていなかった。
仕事の話。
近況報告。
誰が結婚したとか、転職したとか。
笑い声が、何度も上がる。
酒が進み、場が落ち着いてきた頃、
誰かがぽつりと言った。
「そういえばさ」
一瞬、間が空く。
「佐伯先生って……」
その名前が出た瞬間、
空気が少しだけ変わった。
「ああ……」
「いたな」
「担任だったよな」
懐かしそうな声が重なる。
「卒業式のあとさ」
別の誰かが、言葉を継ぐ。
「倒れたって噂、あったよな」
「病院に運ばれたって」
宮坂は、グラスを持つ手を止めた。
「あれ、結局どうだったんだ?」
誰かが尋ねる。
しばらく、誰も答えなかった。
そして、静かに口を開いたのは、
相沢由奈だった。
「……亡くなったそうです」
その場が、凍りつく。
「え?」
「マジで?」
相沢は、小さく頷いた。
「私、大学のときに」
「学校に用事があって行ったんです」
「その時、先生のことを聞いて」
声は落ち着いていた。
準備していた言葉のようでもあり、
そうでないようでもあった。
「卒業式の、数日後だったそうです」
「詳しいことは……誰も話してくれませんでした」
沈黙が落ちる。
グラスの氷が、音を立てて溶ける。
「……そっか」
誰かが、そう言った。
宮坂は、俯いたまま、
卒業式の日を思い出していた。
佐伯は、立っていた。
少し顔色は悪かったが、
確かに、最後まで。
「でもさ」
宮坂が、ゆっくり口を開く。
「佐伯先生」
「最後まで、先生だったよな」
誰も、否定しなかった。
「俺さ」
宮坂は、笑うように言う。
「今、ちゃんと働いてる」
「やりたいこと、まだ分かんねえけど」
「考えるの、やめてない」
相沢が、静かに頷く。
「私も」
「選んだあとで、正解にしようって」
「思えてます」
誰かが、グラスを持ち上げた。
「……佐伯先生に」
一瞬のためらいのあと、
全員がそれに続く。
「乾杯」
声は揃わなかった。
でも、それでよかった。
夜が更け、店を出る。
駅へ向かう途中、宮坂は立ち止まった。
春の風が、少し冷たい。
佐伯が言っていた言葉が、
ふと、よみがえる。
今、決めなくていい。
宮坂は、空を見上げた。
あの日、
確かに、先生は立っていた。
それだけで、
十分だった。




