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第7話 狂獣

 二匹の脇をすり抜ける、色鮮やかな光線に一瞬にして貫かれたホバーサイクルのタンクは、熱線によりゆっくりと真っ赤に膨れ上がると膨張を示し、堪え切れずドカンと爆風をまき散らし(なが)ら薄闇に響き渡る大きな爆裂音と火柱を立てた。その賑やか過ぎる爆音は、個性豊かな色取り取りのテントが所狭しと立ち並ぶ、数㌔離れたキャラバン(商人街)にまで及んだ。


「なっ――― 何だ? 今ボンッて聞こえたぞ」


 飲み屋のテントの外膜部分に背を預け、お気に入りのお運びの女の子『ナレーシャ』が酒の肴を運んで来てくれるのを、今か今かと待ち侘びる男が、遠く響き渡る音に反応し、ガブガブと酒を(あお)る手を止め銀色の瞳を曇らせた。


「おい! ギャラッシュ、シルミドに伝えに行ってくれ、おおぃギャラッ…… ええいクソッ」


 顔の半分を鱗が占める、酒にだらしのない相棒を見限ると、持っていた残りの酒を勢いよく頭から浴びせる。すると鈍く突き上げる様な揺れを僅かに感じた―――


「クソッこの揺れは…… おい‼ 起きろギャラッシュ おいっしっかりしねーか」


「どうしたの? ギムリーさん、何か今揺れた? 」


「あぁナレーシャちゃん、悪ぃんだがこのトカゲ野郎を起こして俺等の船に急いで戻って来るように頼まれちゃくれねぇか? 俺はチョット急がねぇーとヤバそうなんで先に行きてぇーんだ」


「何かあったのね? 」


「あぁ東の空に爆裂音が響いて、一瞬赤く染まりやがった。店の客や周辺の奴等(やつら)にも知らせてくれ、()しかしたらヤツが現れたのかもしれねぇ、さっきの揺れも無視は出来ねぇ」


「まっまさか? 分ったわ皆に伝える」


「ただの間違で、俺の勘違いならそれでいいんだ、騒ぎ立てた責任は取る。でも、若しも誰かが襲われてでもしてりゃあ一大事だ。だから確認しなきゃならねぇ」


「分った。でも十分気を付けてねギムリーさん」


「ああ、心配要らねぇよ。この街の為ならいつでも悪者になる覚悟は出来てる。それよりも悪ぃんだが後を頼んだぜ、それと他の賞金稼ぎ(ハンター)連中にもこの事を伝えてくれ」


 ギムリーと呼ばれた男はナレーシャにコップを手渡すと、目の前に停めたホバーサイクルに跨りスロットルを吹かす。吹き上がる砂埃に車体が浮くと、折角頼んだ酒の肴の味を思い出し、後悔に舌を鳴らし飛び出した。


「ちきしょー、楽しみにしてたのによー、ついてねーぜ」


 賞金稼ぎ(ハンター)達に討伐依頼が出されたのは被害が拡大してからの事だった。何人もの船乗り達が自らの船を残し、行方不明になったのが切っ掛けだった。その内、数少ない生存者からソノ存在を知る事となる。


 ―――大きな口を持った見た事も無い巨大な長い生物―――


 ソレは砂の中から突如大きな口を突き上げる様に、全てを一瞬で飲み込んだ。その大きさは小さな小型の宇宙機を飲み込んでしまう程の大きさ。見た事も無い怪物の正体にキャラバン一帯の住民はこう名付けた―――


 ―――狂獣(インセイン)

砂游長蟲(ピュークアンドラ)―――


 全長は100mを優に超え、開けた口幅は30mの機体を軽く飲み込んだ。何時から何処から現れたのか、それ以前に、遥か昔からこの土地に住まう者だったのか、誰もその問いに答える事は出来なかった。


 ヤツを討伐する為に、このキャラバンに滞在するようになって約一月余り、ヤツの出現する予兆は見られず、手掛かりさえも見つける事は叶わなかった。


 食い散らかされた半身を機械化してまで、この稼業に身を投じるのには、誰にも過去の自分と同じ思いをして欲しく無いという深い信念があった。波打つ様な砂丘を越え、所属する船にエンジンを唸らせると機体の下部で作業中の人物に声を走らせた―――


「シルミド‼ ヤツかもしれん」


 梯子を高く伸ばし、溶接中の男が保護面を跳ね上げると、険しい表情を表した……


「確かか⁉ 」


「確証は無い。たが、胸騒ぎが止まらねぇ」


 男は分厚い革の手袋を外すと、手持ちの工具で船体をガンガン叩き乍ら、腰に掛けた小さな拡声器で声を荒げた。


「テメェーら起きろ‼ 仕事だ、気合を入れろ‼ 」


 シルミドと呼ばれた隻眼の狼顔の男は、背負っていたアンカーバズーカをドンッと停泊する隣の船へと打ち込んだ。張り出した船体のアンテナにアンカーが絡むと、梯子を蹴り出し伸びたワイヤーに身を投じ、同時に巻き上げ装置を起動させる。


 あっと言う間に隣の船の操舵席に張り付くと、またもや工具で船体を叩き出し拡声器で船内に問いかけた――― 


「おい‼ チャッピー動き出したぞ、お前らはどうすんだ? 」


「シルミド⁉ 確かなのか⁉ 」


「確認に先遣隊を出す。早い者勝ちだぞ、隣の(よし)みだから誘っておいてやる。一番槍(初撃)なら素材7割の権利だぞ」


「んじゃあ、乗り遅れる訳には行かないな。うちは装備に不安が残る、それでも共闘してくれるのか? 」


「あぁ人数が足りねえ。バケモン相手の大仕事だ、こっちから頼むぜ」


「あんたの船の隣に偶然降りて良かったぜ、直ぐに準備させる」


 チャッピーと呼ばれた男はフロントのハッチを開くとシルミドと硬い握手を交わした―――


「野郎ども、ビビんじゃねぇぞ――― 」


 




 シルミドは薄闇に向い大声を上げた。

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