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第35話 ゴールデン階の住人

 鉄臭い配管の中をどの位、進んだのだろう…… 途中、幾つもの勾配を越え、曲がりくねった細い通路も通った。


 見たことも無い、様々な種族達とも擦れ違い、時には絡まれたりもしたが、何故かこの猫人種(クロット)の幼女の対応には皆、頬を赤らめ逃げ出して行った。


「おっ⁉ 猫人種(クロット)じゃねぇか。小っせいなぁ」


「ちっちゃくてもボインなのですっ。吸わせてやるから金よこせなのですっ。ホレホレ」


 豊満な胸を見せつけ金を無心する。幼女の皮を被った、ただのずる賢い痴女である。誰もがその幼い見た目と不釣り合いなボインに、己の理性と、背徳感によって戦意を喪失してしまう。


「クッ、こっ、子供がふざけた事ぬかすな。おっ、大人を揶揄(からか)うんじゃねぇよ、しっしっ」


「ふんっ、意気地なしなのですっ」


 ―――猫人種(クロット)恐るべし……


「すげぇよアンタ」


 暫く迷路のような配管の中を彷徨うと、漸くノンが呟いた。


「着いたのですっ。此処からがゴールデン階なのですっ」


 然し見る限り店の(たぐい)は見当たらず、配管の鉄壁が無残にも引き剥がされ、人ひとりがやっと入れる崩れかけた横穴が開いているだけである。


「なんもねぇじゃんよ」


「穴の中を覗いてみるのですっ」


 ミューは恐る恐る薄暗い横穴の中を覗く……。


「へいっ! らっしゃい、やってるよ~ お二人さんかい? 」


「ぎゃあぁ――― 」


 暗闇の中で光る二つの目玉に、思わず驚きの声を上げた。


「ぎゃあってな失礼なこったい。こちとら色黒でねぇ~ 白くなれねぇ~んだよ。勘弁してくんな」


 着流し姿の煙管をふかした黒い毛並の猫人種(クロット)が出迎えた。


「ガジロウさん、お久振りなのですっ」


 黒猫がカンっと煙管の火種を落とすと、カウンターから身を乗り出し、顎に手を乗せノンをまじまじと覗き込む。


「ってぇ事は、おめぇさん、うちに来た事があるってぇか? 」


「はいなのですっ。2年位前に此処に冒険に来てたのですっ」


 「んんんっ? あぁ思い出したぜ、あの時の家出娘(ボイン)かぁ! 久しぶりだなぁ。元気だったかい? 入っておくんねぇ、さぁさぁ」


 店内は小さなカウンターに席が4つと、極小の空間に厨房機器がむりくり収まっている。勿論カウンターと座席の距離も、互いの口からの飛沫が届く程の距離である。


 天井も低く、背の低い猫人種ならば問題ないが、他の種族であれば頭を擦りかねないだろう。


「今回も脱出してきたのですっ。お腹ぺこりんです」


 ノンは首から下げた大きな蝦蟇口(がまぐち)の中身をジャラジャラとカウンターに撒き散らした。


「脱出ってまたおめぇさん家出かよ、まぁ、その辺のこたぁいいか。そんで? 何でおめぇさんはコインを持ち歩いてるんでぇ? 重てぇだろ? 今の時代はみんなコードNo払いだぜぇ? 」


「コードNo払いだと、じっちゃんに貰った大事な蝦蟇口(がまぐち)が使えないのですっ」


「なるほどねぇ、爺さん想いのイイ子じゃねぇか、ちくしょうめぇ、泣かせるねぇ。それで家出してりゃあ世話ねぇわ。 んで? そちらさんは?」


「ノンの雇い主なのですっ、このおねいちゃんの船の整備士になるのですっ」


「整備士なんて、随分と立派になったじゃねぇか、偉ぇぞう。よしっ、今日は新たな門出を祝って、とびきり上等な肉を食わせてやる。銭は少し足りねぇが、俺っちのサービスだ、景気良くやってくんな」


「わーい!嬉しいのですっ」


「茶柱が熱くなっちまった、イヤ目頭か」


「目頭2:50分て居たよね? 」


「おねいちゃんソレ何ですか…… 」


「イヤ忘れて」


「ホレお待ちぃ――― 」


 ミューはドンっと目の前に置かれた、小ぶりなジューシーな肉の塊に直ぐさま心を奪われた。芳しい薫りが鼻腔から脳天を突き抜けると、気付かぬうちに涎がポタリとカウンターを汚した。堪らずかぶりつくと、幼女のノンに怒られた。


「おねぃちゃん、いただきますわなのですっ」


「あっ、あぁごめん、頂きますぅ」


 慌てて申し訳なさそうに肩を落とすミューに、ガジロウと呼ばれた店主がニヤリと笑う。


「我慢出来なかったんだろぅ、解るぜぇ、いいからガブリとやってくんな」


「あざ~す‼ 」


 記憶の片隅に肉の味わいを探す。肉を味わうのはいつ以来だろう、久しぶりに口の中に飛び込んで来るジューシーな肉汁の波に唾液が絡み、複雑な味に舌が歓喜に踊る。鼻から抜けるスパイシーな薫りが遅れてやって来ると、自然とミューを笑顔に変えた。


「うんめぇぇぇ――― 何だコレっ」


ミューは一瞬にしてペロリと平らげた。


「おかわりぃ」


「おぅ、スゲー食べっぷりだな。気に入ってくれて嬉しいってもんよ、特上のネズミ肉を仕入れたかいがあったぜ」


「んんんっ? ネズミ肉? 今何て?」


 何やらギクリとしたミューの顔色が変わって行く。


「イヤっ気に入ってくれて良かったってな」


「いやその後ですよ店主…… 」


「んっ? 特上のネズミ肉? 」


「「ねっ、ネズミ??? 」」


 ミューは顔面蒼白になり、天を仰ぐと白目を剥いた。


「「うっぷっ――― ウゲェェェ――― 」」


 食べたものを吐き出すと、白目を剥いたまま後ろへと、椅子からバタンキューと倒れ落ちる―――


「おっ、おねいちゃん、どうしたのですか? 大丈夫? しっかりするのですっ 美味し過ぎて、ぶっ倒れたのですっ」


「あちゃー、やっぱりネズミは苦手だったかぁ、うちら猫人種(クロット)にはご馳走なんだがなぁ」


「ネズミアレルギー? 」


「イヤちげぇな。元々、人種によって食うものが違うってだけの事よ。嬢ちゃんは兎人種(クニークルス)だからネズミを食わねえ種族なんだろうよ」


「コレ着ぐるみなのですっ」


「なんだとぅ、ちきしょうめ、だぁし(騙し)やがったなぁ、俺の兎萌えを返しやがれ」


 するとドガンと壁が吹き飛び、隣の店から人がゴロゴロと雪崩れ込んできた。


「なっ―――? 」


「うわあぁぁ」


「なんでぇ、なんでぇ、またか、こんちくしょうめ、これで何回目だと思ってやがる。オイ! ふざけるんじゃねぇぞ、お隣さんよぅ」


 吹き飛んだ壁の穴から、隣の店主の穴堀人種(モグラ)が、キラリと光るサングラスをした顔を覗かせた。


「ごめんよぉガジロウどん、ソイツ食い逃げなんだぁな」


「んだとぉ! 食い逃げだぁ? 」


「出口を塞いだらぁ、壁をぶち抜いて、逃げようとしたんだぁな」


「ふてぇ野郎じゃねぇか、しょっぴいてやる」


「いててて…… 何だか騒がしいな…… 」


 状況も把握できない状態で、気を失ったミューから中身が入れ替わると、バルザが埃塗れの店内で目が覚めた。


「おう! ウサちゃん目が覚めたか? いやぁびっくりしたぜ、やっぱりネズミはダメだったか? 」


「誰がウサちゃ…… うっぷっ――― ゲロゲロゲロ――― 」


「何でぃ、まだ駄目か…… まぁいいや、おいっボインちゃん、気ぃ失ってる間にソイツを捕まえてくれぃ、食い逃げだってぇ話だ」


「らじゃーなのですっ」

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