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第3話 昼の帝王

 急いで水際まで泳ぎ切ると、モフモフした毛玉に勢いよく声を荒げた。


「おい! てめぇなにしてくれてんだ、俺の服を返せ」


『みゃぁ~ 』


 ―――チッ……


 睨みを利かせると、丸い瞳をぱちくりさせて服を咥え引き摺りながらテチテチと逃げ回る……


「おっおい待てぇ~ 」


 太い縞々模様の尻尾がズルズルとのんびり逃げて行く。萌えを生じた正直な心が、認めてはならないと理性と対峙する……


「みっ認めない! 認めねぇからな、きっとお前の作戦なんだろ? 騙されるもんか」


『みゃあぁ~ 』


 モチモチした尻をムンズと捉え太い尻尾を手繰り寄せる。


『みっ⁉ みゃあぁ~』


 敵わないと察したのか、此処でこいつの会心の一撃をズギュンと喰らってしまった。()ろう事か敵前を前にコテンっと転がり腹を見せやがったのだ。咄嗟の事で心を撃ち抜かれ、母性という未開拓領域へと誘われてしまった。


 ―――迂闊だった。


「グッ――― 汚ねぇ汚ねぇぞぅ」


 短い両手の下に手を差し込みモフモフを抱き上げると、ズシリとした重さが伝わる。


 ―――なんだこいつ随分ムチムチ……


『みぁ~ 』


 服を奪いポイッと投げ捨てるとゴロゴロと傾斜を下り水際まで転がって行く。動作の遅い無気力な艶めかしいまるまるとしたボディは派手な水飛沫を上げて水面に突っ込んだ―――


『びやあぁ~ ごぼごぼごぼ』


 暫くバタバタ藻掻(もが)いていたが、自分の身体に浮力が有る事に気が付くと、手足をバタつかせる事無く、その場にプカリと浮かんで見せた。その様子を黙って見ていた俺は……


 頭を掻いて深い溜息を付いた―――






「マザー。湖の水質検査をして問題無ければ濾過(ろか)機を使用し煮沸処理。再度検査して大丈夫のようなら飲料用の貯水タンクに水を補充しておいてくれ」


≪了――― ≫


 革製のパンツで座席に腰掛け、狂獣(インセイン)と呼ばれる(ビースト)達の重厚な表皮で出来たブーツを(すね)まで上げると投げナイフを所定の位置に仕込みチャックを閉じた。


ホバーサイクル(反重力バイク)はどうだ? 」


≪問題無く修正(メンテ)は完了しております≫


「よし! タンクの補充が終わったら砂丘のキャラバンに出発だ。今のうち各部点検しておいてくれ」


≪あの…… マスター…… ≫


 バタバタと頭からすっぽりと染みだらけのボロマントを身に纏うと、長めの髪をアップに巻き、大き目のゴーグルを首に掛ける。下品な鎖の付いた鞘を腰に納め、スラリとした刀身を抜き身に凝視(みつ)めると、漸く返事を返した。


「何だ? 」


≪あの小動物は如何されるおつもりで? ≫


「あぁ、さっき少しイジめちまったから、その詫びのつもりで中に入れてやっただけだよ。しゅっ、出発までには追い出すからねっ 心配しないでいいからねっ」


≪感情のブレ幅を確認しました――― ≫


「ほっ本当だって、連れて行く気なんて、ないからねっ」

語尾が弱く声が沈む……


≪それでしたら何の問題も御座いません―――がっ≫


 拳の位置に合金が仕込まれたオープンフィンガーグローブを嵌めると、握り返し感覚を確かめる。髑髏(ドクロ)のピアスを穴に通すとゴーグルを額に移動させ、(びょう)の打たれた防塵マスクをゆっくりと装着した。


「準備万端っと…… 」


 一種の自己表現。全ての私物には髑髏のマークがワンポイント化されている―――


≪マスター 余りやり過ぎると…… ≫


「は⁉ 何だよ。俺のスタイルなんだから誰にも文句なんか言わせねぇよ。もしかしてヤツの事心配してるのかマザー? マジ? もう…… そんな感じ? 」


≪ええと――― まだ読めないと言いますか…… 不確定過ぎるとでもいいましょうか…… 兎に角まだ不明点が多過ぎです≫


「みゃあ~ 」


 足元に寄り付いてきたモフモフを抱き上げ、少し(おもんばか)ると声を上げた―――


「いっ急いで離陸準備をしろ。まだ間に合うはずだ、これより砂丘に向う」


≪宜しいのですか? ≫


「《《俺》》の気が変わる前に行かなきゃな」


≪成程です。了――― ≫


≪高電圧APU起動――― ≫

 

 各ホログラムインジケーターが息を吹き返し、機体が振動に包まれる。開閉式遮熱防膜がゆっくりと上がって行くと操舵室が西日に揺れる―――


≪点火まで5・4・3…… ≫


 ―――点火―――


≪エンジン始動。各ユニットオールクリア――― ≫

 

≪プライミング開始します。RPMは600000zzを維持。各油圧ゲージ及び融解ドライヴ率異常無し。飽和状態及び上昇率適正値を確認。これより湖上中心点迄オートタキシングにて進入≫


「マザー…… 早くしてくれ。ドンッて上がれないのか? 」


≪仕方ないじゃないですか骨董品なんですから≫


「ぬぅ――― そうですか…… 」


 全長35.82m、横幅27.62m、全高8.82mの船体がゆっくりと西日を返し湖面を這う様に移動する。最大出力は現在不明だが、大気圏内での最大瞬間速度は時速約9000㎞。独立式銃座は上部と下部に一座づづ配備されている。


「座標固定、セキュリティNo,○○○○○を入力。ふぅ、これで誰も解除できないぜ」


≪出力上昇及びブースト粒子加速。メインへ点火≫


 操舵室が無機質な甲高い金属音に包まれると、鳥達は上空へ避難する。湖面が波立ち大きな波紋を描くと、膝にモフモフを乗せたままである事に気が付いた……


 ―――あっやべぇ……

 

 ―――カウントダウン5秒前―――


 ≪4・3・2……≫


 




 ―――上がります―――

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