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第23話 ナンナ

 バクバクとお腹を膨らませる作業に没頭する神と(おぼ)しき存在に、伴食(ばんしょく)(あずか)る者達は驚きの余り、手を休める事となった。神との晩餐に祈る者もあらば、その生命力溢れる食いっぷりに瞳を輝かせる者の姿もあった。


「あぁ何と! 神が我等と同じ物を召し上がっておられるなんて…… こんな事を誰が予測できたでしょう、許されるのでしょうか、神と同席など、まさに最後の晩餐。あぁ感動で胸が一杯で御座います」


 ミューは右斜めで瞳を輝かせ掌を組む白髭のオヤジに向かい、プププッと顔面に果物の種を吐き出す。


「あぁ何と、神からの贈り物。天授じゃ天授じゃあぁ――― これは儂が頂いた物じゃぁ触るな、触るでないぞぅ―― 」


「申し訳御座いません何分、皆興奮状態でして」

 

 警護に立つ者により、ズルズルと幹部らしき人物が引き摺られて行く。男は半狂乱で天を仰ぎ、別室へと担ぎ込まれて行った。


「何でアタシがご飯食ってるだけで興奮すんのよッ? あんた等いい齢して(ラリ)ってんじゃないわよ? (ドラッグ)(さば)くだけにしときなさいよ? 服を着れば旨い飯の機会が増えるって言うから着てやったけどさぁ、この服ってばヒラヒラしてて食いずらいんだけど」


「練習ですよミュー様。裸では美味しい物は何処へ行っても提供されません。綺麗な服装の方にのみ御馳走を食べる権利があるのですよ」


「フンッ そんなルール知らなかったもん」


「それではそろそろお話を進めて参りましょうか。因みに此処に居る者達は我が国を代表する者達とでも思って頂ければ結構です。貴方様の存在に対し否定派と肯定派の派閥の違いはあれど皆、国を愛する志は同じです」


 ガレオの落ち着いた言葉の後に、芳醇な香りの飲み物がミューの前に提供された。幾重にも装飾を施された上品なカップから立ち昇る香りに鼻孔を(くすぐ)られ、品位と云うものを教えられた気がした。


「いい香り…… 悪くないわねッ」


「先ずはミュー様のフルネームをお聞かせ願えますでしょうか?」


「フンッいいわよ、アタシの名前はカグヤ・ミュー・バルザこれが私の名よ」


「「おぉやはり―――」」


 皆一斉に騒めき、驚きを表情に表した。歓喜に沸く者もあれば、掌を組み静かに祈る者も現れた。


「では、ご出身の惑星は?」


(ルナ)よ。決まってるじゃないアタシは月下人(ムーミン)なんだからッ」


 この返答により更に大きな騒めきが個々にあがる。


「「月下人(ムーミン)と言えば」」


「「ええ間違いありませんね」」


「「まさかそんな事が…… 」」


「「確たる証拠でもありますよ」」


「「いや…… (しか)し」」


 ミューはまるで人の事を稀有(けう)な存在でも見るような眼差しに辟易(へきえき)し強めの声を吐き出した。


「何よ! テメェらッ何が言いたい訳? 」


 鋭い眼光が赤く光を放つと、突然ミューの斜め上の時空が歪み、数え切れない武器がミューを囲むようにその姿をゆっくりと具現化させる―――


「「ひいぃぃぃぃ―――」」


「どっどうか落ち着いて下さいミュー様。我等の伝承に伝わる月の女神の名こそが、カグヤ様と言う名なのですよ」


 ガレオの言葉に一瞬落ち着きを取り戻したミューは、少しばかり記憶を辿る仕草を見せると武器を天井裏(バックヤード)へと戻した。


「アンタ達の神は月狼神(つきのおおかみ)だろ? カグヤは関係ねぇじゃんか」


「確かに我らの創世の神は月狼神(つきのおおかみ)様ですが、月狼神様とは月の女神であるカグヤ様の守護を与えられた騎士様なのです」


「成程ね…… 」


「何かお心当たりでも? 」


 ミューは芳醇な香りに包まれる温かいカップを口から離すと、指で二杯目を促した。長テーブルの上座を注視する錚々(そうそう)たる面々(めんめん)頬杖(ほおづえ)をつくと、軽い溜息を吐いた。


「分かった。アタシの知っている事を話す前にッ、お前達の話を聞かせもらう。何故、月狼神(つきのおおかみ)がお前達の神になったのかその理由をね」


 それからはガレオが事の詳細をミューでも分かり易く丁寧に説明を始めた。それは遥か昔、この太陽系の創世神。ニビル星人のアヌンが個体金属であるAurum(オーラム)の希少鉱物採掘実験場として地球(グローブ)を造り、その監視衛星として(ルナ)を作ったと云うものから始まった。


 長年、小惑星プシケでの採掘を行ってはいたが資源が底を尽き、新たな資源豊かな地球という惑星を創造したと云う事だった。


 採掘の労働力としてはアヌンの血族、月の女神のナンナ(カグヤ)が地球の環境に適した生命体である地球人(ガイアリアン)と、指導役にはアヌビス(獣人)を創造したが、程よい採掘量が得られぬままアヌンのニビル星が侵略されてしまうと、月にまでその脅威が忍び寄り、危険を察知したナンナはアヌビスが作り出した狼人種(ワーウルフ)の僅かな護衛と共に地球へと転生し危険を逃れた。


 ナンナを逃がす為、月に残ったアヌビスはその命を懸け侵略者と相打ちとなり塵となる。


 地球へと転生し竹の中からナンナは命を繋ぎ生まれ変わると、地球人の老夫婦に拾われカグヤと名付けられ育てられた。


 狼人種達(ワーウルフ)為人(ひととなり)の見た目であったが、月の力を借りる事で獣人化が出来た。(しか)し長い年月、種以外の交わりが多くなり獣人化が出来ない者が生まれ、逆にまた人間に戻れなくなってしまった者達も出始めた。その為、人間に戻れなくなった者達は行き場を失い宇宙に居場所を求め散っていった。


 それが狼人種達の神話の全容であり、狼人種(ワーウルフ)は月狼神アヌビスが血と肉を分けナンナ(カグヤ)の護衛の為に作り出された種族であったとされた。

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