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第17話 星を背負いし者

 そこには残り僅かなジュレーヌのバイタルゲージが表示されていた―――


「何処だジュレーヌ⁉ ブレイン‼ ジュレーヌの座標をよこせ」


≪リョウカイですキャプテン―― シカシもう…… ≫


「ふざけんな命令だ、命令に従え――― はやくしろぉ‼――― 」


 シルミドは声を荒げブレイン(AI)に激しい感情を叩きつける。座標が示したのは先程の射線上の端。シルミドより800m斜め前方であった。


 ―――掠めたのか?……


 残された者達との激しい総力戦は続き、戦火は闇夜を昼間に変える。IMはロケット弾を空にばら撒きブレードで斬り掛かる。付近の船達からは巡行弾が次々と打ち上りバケモノを急襲する。飛び交うドローンは爆弾を投下し、ジェットを背負った空兵達は銃を連射し触手と闘うが、どれも致命傷すらも与えられない。そんな中、悲劇はまたもや繰り返そうと頭を(もた)げる。


「シ……ルミ……ド ごめん……よ ベッドの件は…… また今……度で、頼む……よ」


「あぁダメだジュレーヌ、ジュレーヌしっかりしろ、直ぐにそこに行く待ってろ」


≪コウノウドの魔力(オーラ)をカンソク――― ≫


 バケモノは慈悲も無くその不気味な頭を天に仰ぐと、更に口を高温状態へと導くと2発目の熱線に備える。


 ―――全滅―――


 最早その場に居た全ての者達の脳裏に二つの言葉が忍び込む。


 シルミドは背負ったジェットを大きく旋回させると急降下でジュレーヌの元へとエンジンを唸らせる。その直後、一本の触手が悲しくもシルミドの片方の翼を貫いた―――


「クソッ――― 」


 出力と翼を失ったシルミドはクルクルと身体を回転させ砂地に叩きつけられる。衝撃により脚は在らぬ方向に折れ曲がり、脇腹からは骨が飛び出した。何とか意識を繋げると、こみ上げるままに吐血する。


「ガハッ」


 両手が鮮血で染まり、倒れた傍に転がるヘルメットから声が漏れた。それは余りにも皮肉な人物からの一報となった。


「ザザッ…… ジュレーヌは任せ…… ろシルミド…… 」


 慌てて身体を引き()りヘルメットから洩れる声を確認する―――

 

 ―――嘘だろ……


「何でお前がそこに居る――― ギムリー」


 迫り来る危険も顧みず、ギムリーがバギーを躍らせ砂丘を渡る。飛び交う触手は、たったの一撃で命を奪いに掛かる。


「ダメだダメだ戻れギムリー戻るんだ…… 頼む…… 」


「諦めるなシルミド…… 俺は諦めない」


「ギムリー…… 」


「ギムリー、また…… アンタの悪い……癖だ。アチキはもう……ダメだ、戻んな…… ギムリー、シル……ミドを困らすんじゃ……ないよ」

 

「ジュレーヌ悪ぃ。俺の中の俺が嫌だと言ってやがんだ、俺は諦められねぇってな」

 

 ギムリーはそう啖呵を切って見せると、バギーのアクセルを限界まで踏み込んだ。

 

 嗚呼、何たる無力か。絶望の狭間で揺れ動くシルミドは天を仰ぎ後悔の涙に濡れる。今まさに軽率な自分の判断によりチームが壊滅しようとしている。見極められなかった、最初から(かな)う相手では無かったと。目先の利益に溺れ結果仲間を危険に(さら)してしまった。


 そんな後悔の念を嘲笑(あざわら)うかのようにバケモノは高熱を帯びた口を広げ、此処にある命、全てを焼き払おうと身体を仰け反らせた。


「あぁ誰か…… 誰か…… この地獄からどうか…… 」


 ―――願いは遥か遠く運命の扉を叩く―――

 

 天を仰ぐシルミドの視界を何かが高速で横切った。それは余りにも異常な動きを見せる国軍の戦闘機(ウィンドファイター)であった。3機の内1機がフラフラと機体を揺らすとドゴンとバケモノに特攻し跡形も無く砕け散った。


「なっ――― 」


「ギャシャアァァァァ―――」

 

 破片が火炎に包まれ周囲に痕跡を残す。激しく燃え上がる炎の中から何かがゆっくりと頭を(もたげ)げ視界を熱風が(かす)めた―――


 ―――人⁉ 嫌っ違う。

アレは何だ⁉―――



 ―――星を背負いし者。天啓より今降り立つ―――

 


 それは空から突如現れた。炎を照り返し輝く黄金の装衣を全身に纏い、鋭い眼光がゆらりと赤い糸を引く。天を(にら)む2つの耳と張り出した口元その全てが装衣によって包み隠されては居たが、シルミドは自分に似たその姿に改めて驚愕する。

 

 大きさはIMと同じ位かそれ以上。搭乗兵器では無く完全に肉体が黄金の鎧を纏っている様に見受けられる。巨人族(ネフィリ)とまでは行かないが人型としてはかなりの大きさである。


狼人種(ワーウルフ)だと? イヤッまさか大き過ぎる」

 

 そして次に起こる出来事にシルミドは更に驚く事となる。それはまさに瞬き1つの中での出来事であった―――

 

 放たれた残像により信じられない程の爆風が天を貫き龍を描く。砂塵舞う奇跡の中に現れた存在が、龍の化身から一気に飛び出し月明かりと重なると、闇夜に浮かぶ偃月(えんげつ)の中にその影を(あらわ)にし、辺りを震撼させる程の雄叫びを月へと捧げた。

 


 一撃―――――

 


 熱線を吐き出そうとするバケモノの頭は、一閃により首から線をなぞり僅かずつズレると、両断された事も気付かずにキュキュンと途切れた熱線を断末魔の如く夜空に吐き出す。(やが)て力無く首をズズンと砂塵に沈めると、巨大な砂の波が激震と共に夜空に打ち上った。


 降り注ぐ砂の暴風雨の中、(ようやく)く目覚めた()にし()よりの騎士は月影にその姿を焼き付けてみせた―――

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