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第13話 死亡遊戯

 空を覆う程の巨大な死神は、それを切っ掛けとし、影に潜む大鎌を振り下ろす。断罪の時を刻むと、怪物の首を狩りに掛かった。

 

 ―――処断せよ―――


 その直後、闇の大鎌はガキャンと悲鳴を放ち弾かれると死神はその身をその場で大きく()()らせた。


 ―――巨大な生体魔力(オーラ)シールド―――


「グギャアァァァァ」


「なっ⁉ クソッ―― 」

 

 この驚きは失念していた事への反射的反応。そして続くは、考えが未熟だった自分への怒りだった。冷静に考えてさえいれば相手も魔力(オーラ)を保有している可能性も考慮出来ていたはずであった。(しか)し無情にも勝利への焦りがその判断を鈍らせてしまっていた。


 ―――万策(ばんさく)尽きる―――


 劣勢(れっせい)で有る事を背負い(なが)らも、怖気(おじけ)づく事無く、ミューは不屈の笑みを見せる。ダメージは稼いでいた。バケモノの表皮はボロボロに焼け(ただ)れ所々には亀裂が見える。急激に冷気と熱気に(さら)された事により硬かった表皮の細胞が破壊されていたのである。


 ―――生命力は削ってある……

(ならば可能性は――― )


「随分と頑丈ねッアンタの防御壁(シールド)。でも果たして何時まで耐えられるのかしら? 」


 ―――1撃さえ入れられれば……


 ミューは(たなうら)に更に魔力(オーラ)を集めると、蝙蝠(こうもり)の彫り物に全てを注ぐ。その彫り物は光輝き、新たな力を宿すと今一度、死神の姿を成した蝙蝠達に(めい)を下す。

 

 ―――処断せよ‼―――


 ガガンと激しく響き渡る大鎌の轟音に耐え切れず、バケモノの防御壁(シールド)にピシッと亀裂が生じると同時に、術者であるミュー自身にも触手が起死回生の如く襲い掛かる。傷を負い堅牢(けんろう)さを失った触手(ゆえ)に、若干(じゃっかん)堅固(けんご)さを保ったミューの防御壁(シールド)は何とかその一撃を防ぎきる。(しか)し質量での劣勢さは補う事が出来ず防御壁(シールド)には同じく残された時間を刻む様に亀裂が生じてしまう。


「きゃははははッ これってどっちが早くシールドを割るのか競争(デスゲーム)って事? 生意気だなテメェ」



 ―――シールドを破れば勝利が確定し

シールドが破られれば死が確定する―――



 すると少し離れた砂の中からボゴンと何かが飛び出した。


「みゃう~ げほげほっ」


「ゲロッコデメコゲコッ ゲホゲホッ」


 置かれた状況すらも理解出来ていない二匹を、容赦無く数本のバケモノの触手が一瞬にして襲い掛かる―――


「クソッ――― 馬鹿ッ‼ 」


 分割した魔力(オーラ)でガンモ達を防御壁(シールド)で守ると、意識を()らされた自らの防御壁(シールド)(もろ)さを見せ、簡単にバキンと触手に貫かれた次の瞬間―――


 ―――触手がミューの腹を突き破る―――


「 ―――ガハッ」


≪ ―――マスター‼ ≫

 

 全ての時が止まり、目の前の出来事が瞳に焼き付けられ、スローモーションで過ぎて行く。


「みゃ―――――っ‼ 」


 鮮血が辺り一面を憂いに染めて行く。()まぬ悲しみは太河を生むとガンモの足元まで流れ着いた……


「みぎゃぁぁぁ―――――っ‼ 」


 悲痛な叫びを上げ乍ら防御壁(シールド)を飛び出しガンモが走り寄る。足元に縋りつくと触手に飛びつき、必死に噛み付いた。小さな牙では直ぐに振り払われ、ミューの腹には更に触手が押し込まれた。


「グボッ――― 」


 ボトボトと漆桶(しっつう)の底の様にドス黒い血潮を吐き出すとガンモの頬を真っ赤に染めた。


「ぴぎゃぁぁぁ―――――あぁぁぁ 」


 大粒の涕が次々と溢れガンモは狂い啼く―――


「あ…… んなにッ…… 虐めたのに。お前は泣いて…… くれるんだね? ごめん…… よッ…… ガン――… 」


 最後に名を呼ぶことも許されずミューは夜空に高々と突き上げられた。


「頼むよ…… カエルのアン……タッ ガンモを連れて…… 逃げ……て、早くッ‼ 」


 カエルは泣き叫ぶガンモを羽交い絞めにすると振り返らずに走り出す。まるで後の事は任せろと()わんばかりに。


「みぎゃぁぁぁ―――――っ‼ 」


「気に…… す…… るな。アタシはッ…… タ…… シの…… 眷…… 属を…… 守っ……ガハッ だけだ…… はははッ」


「グギャァァァァァ――― 」


 勝利を確信したバケモノは全てを粉砕するかの如く激しく闇夜に叫ぶ。夜空に掲げられたミューの身体は力なく血潮を撒き散らし虚ろな瞳をバケモノに向けていた。


≪マスタァー‼ ≫


「っは‼ もう……かっ 勝った気で…… いッ いやがる」


 歓喜に沸くバケモノの頭に雫がビシャビシャと降り注ぐ―――


「今日は…… 特別に、お……男の蛇口か……ら サービスして……やる。こ……んな 可愛い子……のッ オシッコなんだ…… 喜べッ変態‼ キャハハ…… ハッ ゴフッ…… 」


「ギシャアアアアアアアア――― 」

 

 怒り狂ったバケモノはその触手でミューの四肢を拘束し引っ張ると、ギリギリと力を強めて行く―――


「ガアァァァァ―――‼ 」


 響き渡るミューの悲鳴が残響へと変わり夜空を埋めた。(しか)(むな)しくもその絶叫を前に手を差し伸べられる者は居なかった……


≪マスタァァァァ――――― ≫


「こっ、これ…… がッ…… 皆が恐れる死の間……際…… ははッ…… 随分と酷い…… 痛みじゃ……んッ キャハハ」


 ミューの瞳は徐々に光を失って行く。

 

 その刹那―――


「すまん――― 《《マザー》》」


―――無情にもミューの身体は一瞬でバラバラに引き裂かれた。


≪≪マスタァァァァァァァァ――― ≫≫


 夜空には血肉だけが降り注いだ。


≪全権譲渡を確認。核力を統合。核分裂反応を誘発及び中性子を生成し反物質濃度を演算。圧縮隔壁を解除し臨界状態を維持――― ≫


 マザーはバケモノに向いアンカーを撃ちこむ。弱くなった表皮に撃ち込まれたアンカーは突き刺さると同時に傘が開き容易くは抜けない。


≪一人では逝かせません――― ≫







―――これより本艦は敵本体殲滅の為。共に自爆する―――

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