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第1話 ハンザーヘッド

 意を決し、少女の様な見た目の人物が牙を剥きだし甲走(かんばし)った声を上げ的確な指示を出す―――


「10秒後にバックブラストアンカー射出し10時方向に船首を急旋回で流せ、弾頭判別如何(いかん)では迎撃。若しくは離脱、離脱時は防盾膜シールドを解除して次元侵入(ショートダイブワープ)だ、頼むぞマザー」


≪了解です―――

―――マスター ≫


≪演算及び判別完了。高次元動魚雷群確認。数は21。24秒後に本翼に到達。如何なさいますか?≫


――高次元動……

 

「光粒子迷彩起動後、粒子パルスを16秒後にセットした電磁デコイ射出し、追尾を攪乱(かくらん)。相手レーダー(視界)を黙らせろ。上手く行ったらリングバーナーで船首を落とし次元侵入(ショートダイブワープ)で離脱。行き先がバレぬ様に|船体検探機能《Hull search function》をオフし誤情報(ウィルス)も流し忘れるなよ」


≪了――― ≫


 ≪離脱時の加重比率はライフポッド使用下でも45%です。月下人種(ムーミン)の身体であっても耐えられません。意識低下率26%。気を失う恐れがあります。マスター不在時の対応をお与え下さい≫


「アステロイド・ベルトを抜けた惑星リジェイル、バーレントン山脈の湖畔に落とせ。沿岸部にて光学迷彩を使用し俺が目覚める迄待機。セキュリティ深度はレベル4を固定。不確定要素が発生したら発砲を許可する…… 構わん焼き払え」


≪ハイマスター≫


「マッピングにより座標固定と大気及び突入経路の天候確認。突入方法は外気圏からワムホールポインターで正面にフープを生成し、熱圏と中間圏をジャンプ。反重力制御装置を起動後、惑星データにより起動修正し成層圏まで短縮降下。ワムホールの時間軸はいじるなよ」


≪大気突入時、頭蓋内圧の上昇が神経および血管細胞に直接及ぼす影響に加えて、細胞のアポトーシス及び真核生物のオートファジー経路、プログラム細胞死、又は細胞破壊の形態が活性化される可能性があります。アポトーシスには初期段階と後期段階が存在し、最終的には細胞内の核酸の生体高分子破壊へと至ると予測されます。オートファジーでは、機能していない細胞内小器官を除去しようとする過程で、細胞質の構成成分が再利用されるとされますが宜しいのでしょうか?≫


 船体の下部フリップ開閉のランプが光ると、デコイが射出された事を示す―――


「何を言ってるのか全く理解出来んが、もしも俺の頭がボンッと破裂したら脳幹DDRだけ抜き取って新しい身体を頼むよ。そうだな、(やわ)な内骨格のミリウス星系や太陽系のボディとかじゃ無くて、硬くてメンテし易い身体が欲しいな。若しくは思い切って完璧なfemale(女性)に為るのもいいな」

 

 ≪知識サイエンスコンバートしますか?≫


 目の前にウィンドウが可視化され、選択肢が追加表示された。


「余計な知識で脳内メモリーをパンパンにしたくないし、増設なんてのも真っ平だ。遠慮しとくよ」

 

 ≪―――了……≫

 

 ―――突然……。


 ―――各部のパラメーターが一斉に警告音を奏で始めた―――


 ≪着弾まで10秒前。カウントダウン開始≫


 操縦桿を両手でガコンと真下に押し込むと座席が一段落下の階へと移動を始める。進むにつれ楕円形の球体に包まれ、停止する頃には操縦席ごと飲み込まれると、閉ざされた空間の闇に視野は奪われた。


「フルスクリーンアイ起動」


 先程迄の閉ざされた空間は、突如開け放たれたように360°視界が広がり、鮮明な宇宙空間の映像が目の前に飛び込んで来る―――


「ライフポッド装着完了。内気圧操作は任せた」


 ≪了――― ≫


≪因みに雌雄同体の月下人種(ムーミン)稀有(けう)な古代種族で有り、現在生存が確認されている個体は6体で、全て混種であり、マスターの様に純種では有りません。銀河星系保護法にも絶滅危惧種族として指定されております。マスターが望めば銀河連邦の保護下申請が下りますが…… ≫


≪着弾まで 5・4・3…… ≫


「はっ⁉ 保護下に入って何かお得な事でも有るのか?トゥームレイダー(墓荒らし)に星人権が有るなら、今まさに攻撃なんか受けて無いだろ?」


 すると船体近くで爆発が起こり、コントロールパネルが激震に軋んだ。警告の警鐘が耳を劈く中、船の操舵をマザーと呼ばれる自立型人工知能ユニットに託す。


 ≪デコイに着弾――― 軌道より12%のズレを修正します≫


「クソッ…… ちょっと掠めたか。頼めるかマザー? 」


 ≪お任せ下さい≫


 船体識別名ハンザ―ヘッド。この有人宇宙機 (宇宙船)の名前だ。宇宙船と言えば大型の物を想像しがちだが、この船は宇宙機法により規格が統一される以前のモデルであり、戦闘機よりは大きく小型貨物船よりは小さい特殊な構造を持つ輸送機(アルヴァルウィンド)と分類された機体だ。


 この船は元々物資や軍人等を運ぶ為の軍用機として利用されていたが、古くなり廃棄寸前の所を闇商人より安値で買い取り、外観以外は全て別物に改造を施した。宇宙機法に於いて違法改造は重罪であり法律上の船の登記も出来ない。


 登録の無い宇宙機は犯罪に使用されるケースが殆どであり、従って銀河連邦局の我々への扱いは海賊船(パイレーツ)または幽霊船(ゴースト)となる。


 オープンスペースコクピット内部は5つ座席が配置され、このクラスの船ならば船長(マスターコマンダー)副長(パイロット)航海士(ナビゲーター)通信士(オペレーター)。索敵に必要なレーダー操縦士と通常は5人で操船し、独立式機銃室が有ればそれに付随してまた人員が必要になる。更に実務的運用をするならば機関士(エンジニア)医師(ドクター)等も不可欠な事となる。


 ―――がっ―――


 現在はこの足りない人員を、このマザーと呼ばれる小型化に成功した旧型の量子人工知能に依存している始末……


 ―――まぁ一人が気楽だし……

(何しろ取り分を分け合うにも問題が生じやすくなる)


 ドドドンと船首が激しく下がり急激な負荷が身体を襲う―――


 ―――警告のランプが瞼裏に残像となる頃には―――


 




 意識を船に奪われていた―――

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