ボクら教育方針
ラーネポリア王立魔法魔術研究所の一室。ここがボクの師匠の職場。
ボクは魔術、魔法の単位だけ飛び級して卒業資格を得て、ここぞとばかりに師匠を追い駆けて研究所に入り浸るようになっていた。卒業資格を得たのはあくまでも魔法魔術学科だけで学園そのものを卒業したわけではない。他の科目のマナー、儀礼関係は王族の義務として履修して及第点を貰っているから、歴史や文学なんかは落第点を取らないようにしてる。
うちの兄弟の教育に於いての責任者であるマルティナ母様は、各々の個性を伸ばすことに寛容で才能は伸ばすべし!って主義だけど、王族として落第点をとることや相応しくない言動をすることだけは許してくれない。
試験で赤点を取ろうものなら好きなものを強制的に封印させる法輪石と言われるモノが発動することになっている。
これがまためんどくさい。
法輪石は、神の法によって、神の考える罰を与えることが出来る魔石らしい。
マルティナ母様曰く、『えーっとぉ、この罰則がどんなことをしたからぁ与えられるのか、一体どんな罰が与えられるのかは神のみぞ知るだからねぇ。』である。
良く分かんないけど、魔道具でもなくて、就学時から成人するまでの間、使い魔と同じようにある日突然顕現する不思議な石だ。
法輪石には言伝えがある。昔々、教育熱心な王が、『子供のことを考えると叱った方がいいと思うが、可愛くてしかれない。嫌われたくない。どうすれば叱咤したことを激励だと思ってくれるのだろうか。』と神に悩みを打ち明けた。王と言う立場から喜怒哀楽の喜と楽を表すのが苦手だった王を気の毒に思った二人の太陽神と四人の月神は、ラーネポリア王国の子供達の教育のため、作り上げたのが法輪石だと言われている。法輪石は就学前に各々の身体の何処かに取り付けられている。何でも使い魔の卵の殻が法輪石になるらしい。普段は小指の先ほどの菱形の宝石のように半分ほどが身体に埋め込まれている。ボクの場合は、二の腕に鴇色の石が存在している。
一度マルティナ母様の意に反した行為(試験の成績が赤点だったり、遅刻だったり)をすると石は二の腕にぴったりサイズの腕輪となり効力を発揮する。どうやら基準はマルティナ母様の思考にあるらしい。
どんな罰則が下されるかは個人差があって色々ある。
ボクの場合は魔法陣や魔術陣のことを考えると法輪石から静電気みたいな衝撃が走って思考を悉く中断させられる。ケイゴくんの場合は、魔道具作業場に続く扉が開けられなくなる。誰かに開けて貰っても透明な幕のようなものが邪魔をして部屋に入れない現象が起こる。ショーくんは城から出れなくなるって聞いた。レンくんは主に果物、るっくんは主に甘い物が食べようとするとどっかに転移しちゃうらしい。二人は好き嫌いが多いから、その辺が罰に関係してるんじゃないかな。十一人兄弟で、自分だけ果物やおやつがないって最悪だよね。ジュンリくんは歌おうとすると声が出なくなるし、ショーヤは食欲減退とお腹を壊す。ショーセは目にした世界がモノクロになり、五感が鈍る。スカイは何処にいても寒くて動きが鈍くなるし、ジオンは推し小説関連のコレクションが消える。イッセイは好きな鍛練が出来なくなる程に体調を崩す。残念なことに誰もが一度は経験していることだった。頭のいいジュンリくんも?と驚いたけど何度もあるんだ。彼は忘れ物が酷いから。忘れ物の重要度によって歌えない期間や程度に差がある。そう言えば昨日も凹んでたな。マルティナ母様もどんなことが起こるのかは不明だったみたいで面白いわぁなんて笑っていた(マルティナ母様は母様達の中で一番怖いんだよ。)ボクとケイゴくんは、好きなことに熱中し過ぎると、他のことが疎かになりがちで他の兄弟よりも罰を喰らってる気がする。
ある日のこと。ケイゴくんの東宮にある作業場と研究所にある魔道具部門の作業場とを繋いだことがある。
繋げることができたのは、ケイゴくんの魔道具とボクの作った空間魔術を応用した魔術陣を掘ったドアのお陰である。成功したことに浮かれてたら扉のことを知った大人達にしこたま怒られた。勝手に王城の居住場所と外を繋げたから。扉は王城に張り巡らされた結界をものともせず誰でも王城の一角に侵入できる一種の転移門となっていたからだ。悪用されたらどうするって。二人して法輪石から罰を二週間受けた。
凹んでたボクにるっくんが教えてくれたんだけど、扉は、誰でも開けられるけど、封印の魔術陣や魔法陣を弾く仕様になっていて、物理的に破壊することも開かないようにすることも出来なかったらしい。そこで、研究所側と東宮の作業場に警備の騎士が配置されることになった。余計な人員を配置することになったことなんかも含めて大いに反省したボクとケイゴくんにサヤ母様が言った。
「この扉は、どうやら主さん達の魔法にしか反応しねえようでありんす。法輪石の呪縛が解けた暁には、扉を安全なものに作り替えなんし。ようござりんすね。」
ボクは魔術陣への思考が邪魔される罰を受けていたけど兄上達の協力をえて扉を使える対象を制限する魔術陣を考えていった。魔法陣や魔術陣のことを考えると罰が襲って来るので、呪縛が解けたら直ぐに作業が出来る準備はしておいたんだ。
「好きなぁ、ことをぉ頑張るのは良いことだけどぉ、人様にぃ迷惑かけるのは違うと思うのぉ、二人はぁ夢中になると他のお勉強がぁ疎かになるでしょうぉ?それは、この国の王族としてぇダメだなぁって思わないのかなぁ。」
間延びした口調のマルティナ母様の笑顔のお説教は怖い。今回のことで東宮の警備の見直しを余儀なくされたレンくんにも怒られた。“仕事を増やすな”って。ショーくん、るっくんはしょうがないなぁって顔してて、ジュンリくんは楽しそうなこと考えるなぁと笑って言ってたら怒られてた。
「罰則期間が終ったら直ちに対策作業に入ること、しかし、」
公務で忙しいはずのミライア母様の言葉にサヤ母様が続けた。
「その扉を使って良いかの判断は学園での成績を基準としんす。兄であるジュンリル程の成績を次回の試験であげることが出来たなら許しんしょう。」
サヤ母様の言葉に項垂れた。ジュンリくんは、学園での成績は常にトップやっもん…。
卒業まで扉使えんのかな、特にケイゴくん。




