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バイト巫女とヤンキー神様①

 教室に戻り掃除と残りの授業を終えた後、どうしようかと考えていれば、啓太の方から近づいてきてくれた。

「立花」

「は、はい!」

 友達がいない根暗だと思われている私に、不良少年の啓太が話しかければ、周りの生徒は何事かと注目した。その視線はとても居心地の悪く、体が硬直する。私はあまり目立つことが得意ではない。

「ぷはっ。そんな授業の発表じゃないんだから固くなるなって。それで、昼休みの時に話していた神社って結構遠いのか?」

 笑いながら話しかけてくれたので、啓太に対しての緊張感は緩む。

 それでも周りが注目しているのは変わらないので、今すぐにでもこの場から立ち去りたくなる。でも古雅や古雅の神社に興味を持ってもらうことは、私にとってとても大切なことだった。だから私は好奇心を多分に含んだ視線をできるだけ無視した。

 それに一度道を教えてしまえば、啓太に話しかけられることもないのだから、今だけだ。


「うん。少し遠いかも。電車で何駅か移動するから。あっ、でも自転車でも行けなくはないよ」

 中学生のお小遣いはそんなにないものだ。

 移動にお金を使うと言うだけで躊躇うこともある。私の場合は、バイトの経費で電車の定期を買っているので、ためらいなく電車を利用できているだけだ。

 古雅に興味を持ってもらえたことで、そんな初歩的なことも頭からすぽんっと抜けていたことに内心落ち込む。

 電車で移動するほど距離があるとなれば、行くのをやめてしまうかもしれない。

「ふーん。じゃあ、土日でもいい? あんまり、遅い時間に出歩くのはよくないだろ?」

「それはもちろん」

 不良でも門限とかあるのか。古雅以外の不良とは話したこともないので、どんな感じなのか分からない。

「立花は電車? チャリ?」

 ……私も一緒ってこと?

 友人関係というわけではないので一緒に行くという発想はなかった。でも確かに初めての場所なら、私が口で説明したり地図を書くよりも直接案内した方がなにかと安心だろう。 

 あっ。ということは、遅い時間はよくないと言うのも私を気づかってか! 

 

「えっと。私は仕事の関係で定期を持っているからよく電車を使うけど、自転車でも行けるよ」

 多分ではなく、間違いなく私は一緒に行こうと誘われている。

 電車が使えるというと使えない相手は困るし、ずるいと思うだろう。だから自転車でも行けると付け加えてみたけれど、嫌味みたいに感じないだろうか?

 古雅以外と一緒に行動する経験があまりないので戸惑う。

「電車かぁ……。悪いけど、金欠だからチャリでいい?」

「全然大丈夫だよ」

 啓太は気を悪くした様子もなく、あっけらかんとお金がないと話した。気を悪くしてなさそうなので、ホット息を吐く。

 最終的に私は明日、土曜日の朝に学校前で待ち合わせすることになった。というか、啓太って、本当に不良? と思うぐらい気づかいの人だ。

 

 どうして髪を染めて不良っぽくしているのだろう。

 髪さえ染めていなければ、授業は出ているので、不良らしさは一気に減る。不良っぽい先輩が睨みつけても堂々としていたので、普通ではないのだけど。

 小学校は違うので元々はどうだったのかもわからい。それでもまあ、何かしらのきっかけがあったのだろう。

 啓太は自転車通学なので、昇降口で別れた私は、寄り道などせずまっすぐ歩いて家に向かう。

 私の母は看護師として働いていた。中々に母の仕事は忙しいので、夕食作りや洗濯の取り込みは母が早番の日以外は私が担当している。私のバイトは年齢的なこともあり、遅い時間のものはほぼないので役割分担的には丁度いいのだ。


 学校から歩いて二十分。

 築年数がそれなりに経っているクリーム色の外壁をしたアパートが見えて来た。私の家は、そのアパートの二階の一室だ。外階段を使って二階へと上がる。

「ただいま」

『華那子、おかえり』

 誰もいない家の中で挨拶をすれば、古雅が出迎えてくれた。一緒に学校にいたはずだけれど、古雅はいつだって先に家に帰っており、私を出迎えてくれる。

 母子家庭で母が働きに出ていれば寂しいことも多いだろうとよく言われる。でも私は運がいいことに、古雅がいた。だから家で寂しいと思うことはなかった。

 自分の部屋にカバンを下ろし制服から着替えると、ささっとベランダに出て洗濯物を取り込む。

『いつも華那子はお手伝いして偉いな』

「そんなことないよ」

 ひとり親なのだから、母ができないならば私がするのは当たり前のこと。

 でもそんな当たり前のことを古雅は褒めてくれる。照れくさいから謙遜の言葉を言うけれど、でも褒め言葉は自分が認められているようで嬉しい。


「それにお母さんが離婚したのは私の所為なんだから、少しでも手伝わないと」

『こーら。お手伝いするのは偉いけど、離婚な原因は華那子じゃなくて、両親の問題だからな?」

「あっ。ごめん」

『謝らなくていい。ただ華那子がいてくれて、おふくろさんも俺も嬉しいことは忘れないでくれ』

 つい離婚の原因について口に出してしまった為、古雅に咎められる。


「うん。……そうだね」

『分かってないだろ』

「ちゃんと分かってるよ」

 優しくて心配性な神様に私は苦笑する。

 離婚の原因が私だと言ったのは、親戚のおばさんだ。

 そのことを母に聞いた時、母はかつてないほど激怒した。私ではなく、幼い私に一方的な情報を吹き込んだ親戚のおばさんに対して。だから私は母に愛されていることを知っている。

 そしてこの話を知った時、私はまだ幼かったが、母は私が分かるように離婚の原因について教えてくれた。


 父と母が離婚するきっかけの喧嘩は私の右目にあった。

 私は産まれた時から右目だけ青かった。両親ともに黒色の瞳だったからこそ、黒と青のオッドアイは異質だっただろう。母は私の目の病気を疑い心配したが、父は私を心配するより前に母の不貞を疑った。

 このことに母は激怒し、DNA鑑定をした。その結果私は父の子であると証明されたのだけど、父の信頼は地に落ち、家の中で肩身の狭い思いをすることになった。

 そんな父は自分が妻の信頼をなくした原因は私だと、私を疎ましく思うようになった。最初は無視をしたり、意地悪なことを言う程度だったが、しだいに手を出すようになった。そのことに気が付いた母は再び激怒した。そしてすぐさま離婚を決意し、私を連れて家を出た。

 父は母との離婚を嫌がった。そしてこんなことになったのは私の所為だとさらに恨みを連ね、私さえいなければ復縁できるかもしれないと思い、私を連れ去ると幼児の足では到底帰れない場所に置き去りにした。

 このことが決定打となって、離婚は成立。母はシングルマザーとなったのだ。


 だから親戚のおばさんが私の所為だと言ったのは間違いではない。ただし母曰く、どんな理由があろうと子供に手を上げるような男とは遅かれ早かれ離婚したので、すべては父が原因の離婚であり、私はまったく悪くないと話した。古雅も母と同じで、すべては自分の身から出たさびだと言って、父を擁護しない。


 それでも、もしも自分が普通の子供だったら、両親は今も離婚などしなかったのではないだろうかと思う。そしてもし離婚していなかったら、母がこんなに忙しく働くこともなかっただろうとも。

 父はどうやら私の存在をとことん認めたくないようで、養育費を払っていないそうだ。もしくは養育費を払わないことで金銭的に追い詰めて自分なしでは生きられないだろう言わせたいのではないかと母は言ってた。

 そして母はむしろきれいさっぱり縁を切ってしまった方がいいと、あえて養育費の取り立てはしていないそうだ。父の金など最初から当てにはしないし、逆にそれを理由に今後私に父が関わってこれないようにする気満々だと笑っていた。

 そんな風にして、母は私を守ってくれている。

 だからこそ、私は母を助けたいと思うのだ。 

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