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バイト巫女と不良君③

 不良が刃物を出し脅してきた場面で、悪鬼がいる。

 なんだそりゃという感じだろう。しかし私ははできるだけ神妙な顔をした。思い浮かべるのは、テレビの特番でやる、似非心霊番組だ。

 あの番組で取り扱った心霊写真は偽物もあったけれど、司会者の語りだけでぞくりとし、その不気味さが本物のようにみせていた。

「……この部屋に悪鬼がいます」

「何、言っているんだ?」

「あっき? 頭おかしいじゃね?」

「お化けとか、う、嘘つくんじゃねーよ!」

 おや?

 言葉はキツイが、思った以上に動揺しているように見える。むしろ言葉がきついのは、私の言葉を否定したいからではないだろうか?


「お化けではありません。悪鬼です」

 正確には黒い靄でそれほど強いものではない。でも集まってきているので、それなりにこの部屋の空気はよろしくないものになっている。不良の一人が反射的にナイフを取り出したのもその影響だろう。

 理性が働けば、そんなものを取り出せばその後どうなるか、簡単に想像できる。でも空気がよどむと、思考が単純化し、暴力で解決させようとしやすい。

 この先輩達は、悪鬼と幽霊の違いも分かっていなさそうだし、人外は怖いものというくくりで同じなのかもしれない。


「な、何で、そんなことわかるんだよ」

「あの、先輩。彼女、本物です」

「「「は?」」」

 本物と言う言葉に、先輩たちはぴしりと固まった。

「巫女のバイトしてるんで。クラスでも有名な霊感少女です」

 本人が霊感少女を名乗るより、第三者の言葉の方が真実味を感じるようだ。

 クラスメイトの説明で、先輩たちの表情が如実に変わる。私を見る目は、まるで化け物でも見るかのようだ。

 悪鬼とお化けの区別もついていないし、見鬼の能力がある巫女も彼らにとっては同じようなくくりなのだろう。

 私自身を異物のように見る視線は、彼らに暴力的に脅された時より居心地が悪く、つい視線を下に落とした。


『ドンッ‼‼‼‼‼‼』


 しかしすぐに私は下におろした目線を上げることになった。

 突然大きな音が鳴ったのだ。同級生が殴られた時の比じゃない大きさだ。

 見れば、先ほどと違い、黒板の前に机が変な向きで倒れている。……これはもしかしなくても、黒板に机がぶつかったということでは?

 不良たちは誰一人動いていない。もちろん私も入り口にいるので、投げるのは不可能な位置だ。つまり誰も何もしていないのに、机が吹っ飛び黒板に激突したと……。


「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ」」」」

「ひぃぃぃぃぃぃ!! 備品っ!!」

 不良が絶叫した。

 私も何が起きたかを瞬時に悟り叫んだ。

 二つの叫びはそれぞれ違う事柄が起因している。しかし同じタイミングだったのと、不良たちが超常現象に慣れておらず恐慌状態だった為、その違いは気が付かれなかった。

 上級生たちは慌てふためきながら教室の外へ飛び出す。入口を塞ぐような形で立っていた私は彼らに弾き飛ばされ、尻もちをつくことになった。地味に痛いが、ナイフで刺されたり、顔を殴られるよりもずっと軽傷だ。

 

 先輩はもう私のことなんて頭から吹き飛んでいるようで、そのまますごいスピードで廊下を走り去っていく。

「……だっせ。なあ、大丈夫か?」

「あっ。うん」

 あっけない解決に少し茫然としていると、唯一逃げなかったクラスメイトが手を差し出してきた。……えっと、なんの手?

「ほら。手」

 ほらて?

 恐喝ではないとは思うけれど……。

『女の子に免疫がない男が手を差し出すのは、勇気が要るんだからな。ほら、華那子』

「えっ、ちょっと」

 私が戸惑っていると、古雅は私の腕を掴み、その手をクラスメイトの少年の手のひらに載せた。古雅が言うのだから相手は女の子に免疫がないのかもしれないけれど、それを言ったら私だって男子の免疫なんてない。

 むしろ小学校の時に一部の男子から霊感女だとからかわれた嫌な記憶がある。


 本当に手を載せて大丈夫だろうか? そういう意味じゃないと手を払いのけられた挙句、ばい菌を触ったかのようにズボンで拭かれるとかされないだろうか?

 緊張で固まってしまったが、クラスメイトは乗せられた私の手を握るとそのまま引っ張った。その勢いで、私は立ち上がる。

 ……あっ、本当に私を立ち上がらせるために手を差し出してくれたんだ。

 そう思うと疑ってかかってしまったことが申し訳なく感じる。


「ああああ、……ありがと」

「こっちも、ありがとう。先輩に絡まれてどうしようかなって思ってたところでさ。さっきの椅子、やったの立花?」

「えっ。名前?」

「クラスメイトだし」

 当たり前のように苗字を呼ばれた。そうか。クラスメイトだったら知っているものなのか。もしくは、私がよくバイトで授業を抜けるので、悪目立ちしていて覚えられたのかもしれない。

 問題は、私がまだクラスメイトの名前を全部思えていないことだ。


「……私、名前、憶えてなくて……ごめっ」

「ああ。俺、鈴木啓太(すずきけいた)。鈴木ってうちのクラス後三人もいるから、啓太って呼んで」

 学校を休みがちだからというのもあるが、元々私は人の名前を覚えるのが得意ではない。その所為で余計に誰かに話しかけるのが苦手なのだけれど、啓太はそれを変に受け止めることがなかった。

 それどころか、からかうこともなく、さらっと自己紹介までしてくれた。……えっ? もしかして、見た目は怖いけど、結構いい人?

「うん。啓太君。覚えるね。えっと、そうだ。椅子は私じゃないよ。私は巫女だけど、超能力があるわけじゃないから」

「ふーん。なら、悪鬼ってやつ?」

 いや、悪鬼でもないかな?

『俺俺! 俺だって』

 古雅が自分を指さして主張しているが、幸いにも啓太は見鬼の能力がないようで、気が付いた様子はない。そのことにほっとする。

 学校の備品を古雅が乱暴に投げたとばれたら、絶対また新祓い課で厳重注意を受けることになるだろう。


『なんでヤンキー君って、皆俺の事見えないのかなぁ』

 古雅は全く反応しない啓太を見て口を尖らせた。

 きっとどこかには、見鬼能力を持ったヤンキーもいるかもしれないけれど思ったけれど、私は今回はすべて悪鬼の責任に押し付けてしまおうと思い、あえて話しかけないことにした。

 嘘はよくないけれど、勘違いされる分には仕方がないことだ。


「立花って見えるんだよね。その悪鬼って祓えるの?」

「うん。悪鬼は祓えるよ。えっと。じゃあ、この部屋の悪鬼、祓うね」

『まあ、悪鬼はいるからな』

 クスクスと古雅が笑う。

 私が誤魔化そうとしていることに気が付いているからだろう。あまり無茶苦茶なことをしすぎると、本当にペナルティーをもらうかもしれないのだから、少しは反省して欲しい。


 とにかくこのまま悪鬼を祓ってうやむやにしようと決めた私は、教室の中に一歩足を踏み入れる。

「啓太君は私から離れて廊下にいてくれる?」

「お、おう」

 悪鬼を取り逃がすつもりはないけれど、私が呼んだ時に集まってきた悪鬼が彼に悪影響を及ぼすのは避けたい。

 啓太が離れたことを確認してから、私は二度柏手を打つ。

 静かな空き教室中の空気が震え、悪鬼が私を見た。


『鬼さんこちら、手のなる方へ――』

 もう一度柏手を打つ。

 悪鬼は私へ近づこうとして、他の悪鬼とくっつきあい大きな塊になっていく。いつ見ても、気持ちの悪い光景だ。

 そんな気持ち悪いものから守るように古雅は私の前に立つと、神々しく輝く鉄パイプを振った。

 次の瞬間悪鬼ははじけ飛び、そのまま消えていく。


「すげー。なんか、空気が綺麗になった気がする」

「うん。だけどこれは私の力じゃないよ。神様が祓ってくれたの。私はその手伝いをしているだけ」

 悪鬼も神様も見えなくても、空気が綺麗になったことは誰でも感じることができる。

 啓太がキラキラとした目を私に向けて来たので私は苦笑いして、古雅の存在を伝える。誰にも見えないけれど、でも古雅がやってくれていることを知って欲しい。だから私は必ず神様が祓ってくれているのだと伝えている。


「神様って本当にいるのか?」

「うん。いるよ」

 幽霊や悪鬼がいると証明されても、人外の存在が見えるようになったわけではない。特に神様とか、本当にいるのかよく分からないモノの代表だろう。神といったも多種多様だし。

「すげぇ。うわー。お礼とか言いたいけど、ここで言えば伝わる?」

「……えっと。もちろん伝わるよ。伝わるけど、お礼がいいたいのなら、お参りのほうがいいかも。もしよければ神様が本当にいる神社を教えるけれど」

「えっ。行ってみたい!」

 私は普段人を誘うなんてできないし、しない。でも古雅の存在に対して好感触な反応に、勇気を出して誘えば、即答された。

 古雅の神社に来てくれる?……やった!

 私は心の中でガッツポーズをとる。不良の喧嘩に首を突っ込むのはものすごく怖ったけれど、これはもしかして大勝利ではないだろうか。


「あっ、そろそろ昼休み終わっちゃうな。また放課後よろしくな」

「うん」

 放課後と言うことは、社交辞令じゃなくて、本当に行ってみたいと思ってくれているんだ。

 それが嬉しくて仕方がない。

 古雅の方を見れば、古雅もにこにこと笑っている。

「古雅、信者一人ゲットかもよ。しかも古雅が好きなヤンキー君。よかったね」

『えっ。華那子の友人ゲットの間違いじゃね? やったじゃん』

 こそっと伝えれば、古雅が思いもしないことを言って来た。

 と、友達?

 神社に行きたいと言ってくれたことが嬉しくて、それは考えていなかった。

 流石に放課後に約束したぐらいで友達と言うのは飛躍しすぎでは? でも古雅が喜んでくれているしいいか。

 いつもは教室まで一人で戻るのが常だけど、今日はもう一人いる。それだけでなんとなく足が軽く感じた。

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