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バイト巫女と警察のお仕事①

 絶対勘違いされたと思うけれど、ここで嘆きつづけても何も変わらない。

 私はため息を一つ吐いて、佐藤さんを見上げた。警察官なので体を鍛えているからだろうか。細身な割に身長は高い。それでもどこか頼りなさげに見えるのは、たれ眉と眼鏡が原因だろうか。

 顔立ちの所為で若く見えるけれど、年齢は確か30歳。高卒で警察官になったと聞くので、それなりの年数警察官をやっている。


「それで、佐藤さん。学校まで押しかけて、どういったご用件ですか?」

「ちょっとだけ、華那子ちゃんについてきて欲しいところがあって。この通り、お願いします!」

 佐藤さんは顔の前で手を合わせた。

「……それ。わざわざ私に言いに来たということは、未成年が仕事として受けるとアウトの奴ですよね」

「偶然見るだけなら、ダイジョウブダヨ?」

 目線をそらしながら片言で言われても、全然大丈夫に聞こえない。

 佐藤さんが言う通り未成年でも、偶然見てしまった幽霊関係のものに関して、情報提供するというのは問題ない。でもこれはあくまで、偶然見てしまった場合に限る。


 幽霊などがいると証明されてから、この国では祓う能力があるならば未成年でも新祓い課でバイトをすることが認められた。その結果、逆に未成年に依頼してはいけない仕事というものが法で明確にされたのだ。

 というのも、死者が見えるのが妄想や幻覚ではないならば、警察官にとって一番死者にたずねたいと思うのが殺人事件の全貌だ。でもまだ成長途中である未成年が、大人でも躊躇う残忍な殺人について見聞きするのはよろしくない。というわけで、犯罪関係の調査で、目撃者でもない未成年に協力を願うのは基本的に禁止されている。時折、緊急を要するための例外もあるけれど、その場合は新祓い課を通すのがルールとなっていた。


 だから本来警察が直接頼むのは成人した大人に対してだ。

 でも見鬼の能力を持つ人間は、全国的に見ても少ない。その少ない中でも見る精度がよく、声も聴けるとなると、世界でもほんの一握りで、とにかく希少らしい。佐藤さん曰く、一般警官では到底頼むことすらできないそうだ。

 そこで以前事件で知り合った佐藤さんは、法の隙間をかいくぐり、未成年の私にこっそりと遠くから見てと時折頼んでくる悪い大人だった。


 ぶっちゃけて言うと、私は見鬼の能力が高い為、幼い頃から惨殺死体のような幽霊を見ることはそれなりにあった。また幽霊が呪詛のようなものを呟き続けているのも聞いている。だから気を使ってもらわなくてもそれなりに耐性はあった。なおかつ本当に危険な奴は古雅が祓えてしまうので別に協力するのが嫌だと言うこともない。

「本当に、頼むよ。この通り。ちゃんと、古雅神社にお参りするし、草むしりもするからさ」

 私が中々頷かなかった為、佐藤さんは引き受ける条件を増やすと、ピシッと九十度にお辞儀をする。

 うーん。お礼を引き出すならこれぐらいかな?


 お参りはもちろんだけれど、草むしりボランティアは結構ありがたい。足元を見られないために渋ったけれど、お礼に草むしりと言う言葉が出てきたため、このあたりで手を打つことにした。

 古雅神社はほっておくと、すぐに雑草が生い茂ってしまうのだ。その状態にしておくと、さびれた感がひどすぎて、余計に人が寄り付かなくなってしまう。なので草むしりボランティアはいつでも欲しい。


「分かりました。ちゃんと草むしりして下さいね。でも、こういったことはほどほどにしておかないと、また上司に怒られますよ」

「ありがとう。じゃあ、さっそく車で送るよ。詳しくは車内で説明するね」

 頭を上げた佐藤さんは笑顔だ。

 邪気のない顔に、私はもう一度ため息をつく。この人の上司も馬鹿ではないので、たぶん気が付いているのだろうなと思うけれど、よっぽどのことでなければ目をつぶっているようだ。多分事件が無事に解決してくれることの方が大切だからだろう。


 私は佐藤さんと一緒に駐車場へと移動した。

 駐車場には、一目で分かる白と黒のツートンカラーな車はなかった。どうやら覆面パトカー、もしくは自家用車を使って来てくれたらしい。

 もしもパトカーに乗り込むところを見られたら、間違いなく明日の私の噂は補導少女だろうなと思う。今日のやり取りだけでもそんな噂が流れそうだけど。


 助手席に乗り込むと、佐藤さんはミラーをいじりながら、後ろを確認する」

「今から行くのは、特別養護老人ホーム紫陽花という場所なんだけど、華那子ちゃんは知っている?」

「いえ。祖母が老人ホームに入っていますが、そこは知らないです。それにあまり老人ホームについても詳しくないです。確か老人限定で入院する場所なんですよね?」

 祖母がいる老人ホームには、認知症を患った人や食事もうまく食べれず寝たきりの人がいるのは知っている。


「そっか。老人ホームは、うーん。入院とはまたちょっと違って、死ぬまでそこで生活する、家みたいな場所かな? 入院だと治療を目的としているから治ったら退院だけど、老人ホームは、基本的に入所したら死ぬまでそこで生活するのが普通だから」

「へぇ。なら、そこで誰かが亡くなったとかそういう話ですか? 殺人ですか?」

 私にお願いすると言うことは、誰かが亡くなった、もしくは不思議な現象が起きているということだと思う。


「殺人かどうかは断定できないというか……。老人ホームでは、人が死ぬこともあるのは普通なんだ。老人が入所されて死ぬまでいるのだから、いつかはだれしも老衰する。だから死ぬだけでは警察が介入することもない。大抵は主治医が堪忍して死亡診断書が出て、それで終わりだよ。そして不審な死があった時のみ、医者から警察に連絡が入る」

「ということは、医者が不審な死だと判断されたということですか?」

 不審死がイコールで殺人ではないというのは知っている。

 事故も自殺も不審死だ。だから誰かが殺したという明らかな証拠がなければ、殺人と断定されることはない。

「それも実はなくて……。ただ、そこに入所している方のお孫さんに、最近あまりに死ぬ人がおおいから不安になって、虐待もしくは祟られたりしていないか、調べられないかと相談されてね……」

「安請け合いしてしまったと」

「いや、安請け合いというか。警察官たるもの、人々の心配を取り除くことが仕事と言うか……」

「お孫さん美人ですか?」

「あー……美人たとは思うけれど、美人だからお願いを聞いたわけじゃないよ? その、俺は昔結構やんちゃしていて、入所されている人、えっと木下さんと言うのだけど、木下さんの方にお世話になったことがあるんだ」

 佐藤さんがやんちゃねぇ。

 品行方正な警察官だし、あまりピンとこないけれど、反抗期あたりならばなにかあったのかもしれない。


「心配しているのはお孫さんの方で、もちろん原因は分からないかもとは伝えてあるよ。分かっているのは、先月が三人、今月四人、亡くなったということだね。でも八十歳や九十歳で持病があってとかなら、亡くなられても変ではないし、偶然立て続けになくなっただけかもしれない。元々老人ホームに入られる方は、家での生活が困難だと判断された人達だからね」

 私もそれが多いのかどうかはよく分からない。身の回りでそれほど死んだという話がないため多く感じるけれど、場所がちょっと特殊である。

 そして虐待がなかったかなどは上手く調べられても、呪いがあったのかなどは、調べることができなかったので頼ってきたのだろう。


「本当にごめんね。帰るのが遅くなるかもだし、夕飯のおかずも何か買って帰ろう。もちろんお金は僕がだすから」

「それはいいですけれど。でも殺人とかで調査ではないなら、どうやって中に入るんですか? 流石に外から一目見て、すべて分かるわけじゃないですよ?」

 佐藤さんは私が母子家庭で、ご飯の準備をしていることを知っている。

 だからその気遣いはありがたいけれど、なんの役にも立ててない状態で、おごってもらうのは、私の方が気にする。

「それは大丈夫。今日はお孫さん、……えっと、木下愛理さんもいるから。元々木下さん自身とも知り合いだし、面会は問題なくできるから中にも入れるよ」

「そういうことなら……」

 建物の中で見ることができるのならば、ある程度は分かるだろう。

 幽霊の中には時間にならなければ動かないタイプもいるけれど、何かしらの痕跡が残るものだ。それに、チラッと後ろをバックミラーで見れば、静かにしているけれど古雅が座っているのが見えた。古雅がいれば、よっぽど危険なこともないだろう。

 だから大丈夫なはず。

 いつもの祓うだけの仕事ではない上に、知らない人に会って話をするため、私は少し緊張しながら助手席で外の景色を眺めた。

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