番外編
「ちょっと、そこの僕」
「そこの僕、待ちなさい!」
だいぶ地形が変わったが、水龍は昔いたであろう川に住居を決めて飛び込もうとしていた。
そこに数人の通行人が集まり水龍は羽交い締めにされた。
「あなたのような子供がどうして身投げなんてしようと思ったの?」
「身投げ?
自殺ってことか、そんな気はないが」
「とにかくこっちに来なさい」
水龍は交番に連れて行かれた。
ビクティムはシスターに連れられて小さな教会に入っていった。
教会に住み着いている猫達がビクティムを歓迎しているかのようににじゃれついて来た。
「あぁあ、教会はこんな形をしているんですね、すごく綺麗です。
少し待っていてください、修道院長様を連れてくるので、ぜひお会いください」
シスターが奥にきえるとビクティムは『ここは綺麗か?』と薄汚れた天井を見渡して呟いた。
目線を下げると沢山並んだ長椅子の最前列に老婆が祈るような姿勢でうずくまっているのに気付いた。
ビクティムは老婆の方に向かって喋りかけた。
「ここは長いのかお前。
・・・
おい、おい。
シカトしてんじゃねーよ」
「・・・」
「そもそも神殿にお前はいていいのか」
「・・・」
ビクティムはおばあさんの首もとに手をかけて黒い影を引き釣りだした。
「あたしををシカトするとは何様だお前は」
「あ、う、、、あ、う」
「なんだ婆さんに取りついてるのは言葉も話せないド低級の魔物か」
ビクティムはおばあさんから魔物を引き剥がすと、宙に投げて聖剣で切った。
黒い煤のような物が辺りに散乱して魔物は消えた。
「実態も保てないのか、異世界の魔物は脆弱だな」
おばあさんはうめき声を出して荒い息をしはじめた。
「胸を痛めてるのか、婆さん」
「やっとお迎えが来たか。もう何日もここにかよって死神が来るのを待っていたんだ。
早く連れて行っておくれ。
もうこんな痛いのは耐えられない」
「死神?
ここは神殿だぞ」
「神様に違いない」
「まあいい。
あんな低級の魔物に取りつかれるとはお前もたいがい脆弱だ、この先長くない。
だがお前が望むならあたしが死神になってやってもいいが。
今日のあたしは機嫌がいい。
お前を生かしてやろう。
もう男と遊ぶことも出来ない歳だからむしろ辛いかもしれないが、まあ、まあ、ほんのちょっとだけ良いこともあるかもしれない『物好きもいるだろうし』」
ビクティムはアンがするようにヒールをかけておばあさんを寝かした。
「おっと、寝たか。
うまく修復できたぞ婆さん
アンに教わった通りだ、アンに感謝することだ。
と言っても聞こえてないか」
院長のシスターは年老いており少し鈍くなった体をせわしなく動かしながら少しづつビクティムに近づいてきた。
「あなた様が聖人様でございますか?
確かにシスターの目は開いているが・・・あなた様が。
私は長浜と申します、それで・・・
しばしお待ちを
佐々木さんがまた病院を脱げ出して来ましたか、しかもまったく動かない。
救急車を呼んで下さい」
「はい、只今」
「もうダメかもしれない。
だが生命の光は以前とは比べ物にならないほど輝いている」
「こいつは寝ているだけだ。
『長浜は見えるのか』」
「おはようございます」
朝一番に出社したミキは湯沸かしポットに水を入れてソケットをコンセントにさした。
お湯が沸く湯気のおとが消えると社長室の方から人のうめく声が聞こえたような気がした。
「あれ、社長いるのかな?」
いつも午前中にいることの無い社長がいることに驚いたが、とりあえずコーヒーを持っていくことにした。
ドアをノックしても返事がないのでドアを少し開けて中をうかがった。
「社長、おはようございます、ミキです。
コーヒーをお持ちしました」
さらにドアを開けて床を見ると社長が全裸でネクタイだけ締めてうつ伏せに倒れていた。その上には全裸の女性が社長の背中に片足を乗せてニヤニヤと笑って立っていた。
「社長!
・・・だれです、この人?」
社長はミキに気づくと「もっ、もっ」と呟いた。
ミキは「もっ・・・何ですか?」と聞き返すと。
「もう一滴も出ません、そうご婦人に伝えてくれないか?
止めてくれないのだ」
「あの・・・私が社長の容量を知っているはずありませんよね」
だが社長の好みの手足が長くて童顔で色白の北欧美人なので、状況を把握して、女性にパンツや下着をつけるようにうながしてソファーに座らせた。
社長はブリーフをはいて何故か正座して大粒の涙を流していた。
「社長、一緒に謝りましょう。
世界的なモデルにしてやるとか言って渋谷でナンパしたんでしょうけど、この小さな事務所みたらそんな事出来ないのは分かるから普通怒りますよ」
「違う、このおかたを世界的なモデルとして売り出す。
いやDiVAでもいいかもしれない、いい声を出していたから」
「うちはそんな大きな会社じゃないでしょ」
「いや、素質が違う。
こんな情事で私が負けるなんてあり得ない、スケールが桁違いだ」
「スケールって、だからどうって」
「とにかくプロジェクトチームを作るんだ、皆を集めろ」




