冒険
アンの言葉をさえぎるようにレイが言った。
「ここじゃありません、ついて来てくだい」
村の中央にある市場で買い物をしてさらに歩いていくと建物も少なくなっていった。
「おい、これが最後の宿だぞ、
小さいが小綺麗で、まあまあいいぐるいだ、入るぞ」
サキュバスが言うとレイがクビを振りながら
「そこではありませんん、こっちですう」
レイを先頭に歩くと村から外に出てまだ歩き続けた。
「まさか野宿かよ?」
「あったりー」
「おい、まってくれ、空見ながら寝るのかよ」
「隠密行動ですからあ、宿に記帳など出来ませんのでえ」
かなり歩くと薄暗くなって村の明かりが遠くに見えた。
「ここら辺にしますか」
だだっ広い草原の中央で焚き火をして肉を焼き始めた。
「そんな肉いつ買った?
村の市場で買ったのは果物と野菜だろ」
「さっき捕まえたんだよ、魔物ではありません動物ですからあなた達もお食べくださいませ」
アンは忙しく枝に肉を刺しながら言うと、サキュバス達は
「うちらは魔物でも問題ないよ。
お前らは動物を食べても共食いにならないだろ?」
「ああ、そうですね。
ではこれからは魔物も捕らえます」
昔、診療所に行く前、アンとレイは毎日野宿していたので慣れていた。
「あれ、もえもえちゃんは?」
「さっき土を掘ってその中のいますよ」
神官が指差す場所に穴がありそこに埋まっていた。
「野宿はもえもえちゃんの方がベテランか」
「ここの土はどうかな?」
もえもえちゃんは目から上を土の上に出すと、言葉少なげに
「安心する」
レイは笑いながら神官に向かって言った。
「神官さん、安心して。
ここらへんはアンの結界で安全だから」
その日はそこで寝て早朝また馬車に乗るため村に戻った。
「ものすごく効率が悪くないか?」
「え?」
「キャンプまで行って戻っただろ」
「とは言え途中で馬車を降りてそこで野宿したり、馬車が来るのを待っていたらキャンプしている場所がバレますから。
なんと言っても隠密ですから」
ほどなく始発の馬車の発車時刻になった。
レイが先頭になって馬車に皆を誘導した。
「さあ乗りましょう」
「ところで、ふにゃは?」
「あー気付きましたか・・・しょうがない置いていきましょう」
レイはふにゃがいなことに気付いていたがここに置いて行くつもりだった。
レイが馬車に乗ると
「遅れると困るから昨日から乗っていたんだにゃ」
アンは困った顔をしながら
「リーダーがレイじゃなかったら探しまくって遅れてたね」
「そうかにゃ」
御者のおじいさんが振り返って喋りだした。
「やあ、みんな乗ったね?
昨日は村の娼館に賊が入ったから出立前に役人様の検査があるから、ちょっと待っていてくれ」
みんなはサキュバス達の顔を見たが当のサキュバス達は知らん顔をしていた。しかしレイがサキュバス達の顔をしつこく覗きこんだので仕方なく小声で話し出した。
「同胞はいなかったのでさっさと引き上げたから顔は見られてない、だから安心しろ」
デーモンバスターがサキュバスを狩ると言っていたので見に来たらしいが。
「まあ、デーモンバスターなんぞに捕まるマヌケはいないが念のためだ。
ふにゃも付いてきたが、あれは目立つからな、ここで降りることになるだろう」
レイの顔は満面の笑みにみちあふれて喜んだ。
しばらくすると、この村の役人が来て馬車の中を見ると何事もなかったように。
「ここは大丈夫だな、出ていいぞ」
レイは『え?ちゃんと見ろよ』と言いかけたがなんとかこらえて、馬車は出立した。
「アハハハハッ、バカじゃね?あの役人」
ローズが言うとガーベラもいぶかしげに、
「なんでバレなかったのかな?
『助けにきたにゃ!
ふにゃが来たからにはもう安心だにゃ!』
とか言ってたのに」
「分かるよな普通さ、バカじゃなければ、ハハハ」
アンがぼそりとつぶやいた。
「しかし、あなた達はなんで逃げなかったんだ」
「え、何が?」
サキュバスたちはいっせいにアンを見た。
「いやだからあんた達がさ、その・・・」
アンは御者と神官の手前はっきりとは言わなかった。
サキュバス達は自分達が、逃げる、という考えがまったく無かった。すきがあればアンを殺そうということも忘れていた。
「それは、ほら、あれだ。
また次のチャンスにとっておいたんだよ」
神官は何かさっしたように・・・
「皆さんお優しいのですね」
神官が言うとみんなそろって首をふった。
「それはそうと、もえもえちゃんはどうした」
言葉もなく『ガチで忘れた!』と言った青ざめた表情の皆を見て御者のおじいちゃんが「ちっさいお連れさんならそこだよ」と言って脇に縛り付けた樽を指差した。
「あぁ、そういえば昨日、あいつもついてきたな」
「一緒にここに残って馬車に乗ったの忘れていたにゃ」
「あいつなんでついて来たんだっけ?」
「夜行性だから・・・暇だったんだろ」




