病の拡散
「べつに怒っているわけじゃないんだ、この子を治療してくれて嬉しくてうまいもの食わしてやりたくなったのは事実だ、だが先生、あんた仮病だろ宿泊費けちるために、どうなんだい」
女将は酔っぱらってアン達の部屋に来て説教をはじめた。
「申し訳ありません、ですが、前やったときに倒れたのは事実でして、今回も危ないかなあ、と思って、えへへへっ」
「私はヒールは素人だが魔女とは古い付き合いでね、どの程度の力を使っているか分かるんだ。あんたまったく力使ってないだろ?え、どうなんだい。
だが思ってたほどの悪人ではないな」
「え?悪人」
「これぐらいの嘘ならまあいいだろう、ってことだ。元気なら他にも病人がいるから明日治療してくれないか、ちゃんと最高の飯を食わしてやる」
レイとリュウがのり出してきた。
「どんなご飯ですか?」
「東の国から香辛料が届いてな、これで肉を食べると最高にうまいんだ。それに卵料理等を作る予定だ」
「はい、治療やります」
あくる日、朝から病人が宿の前に列を作った。
「全員、呪い、ですか」
「そうだ、倒れないようにやってくれ」
没落した王族や貴族で魔王戦に従軍した経験の有るものやその子孫が呪いにかかっていた。
「じゃあ、あの子も?」
「あぁ、元々伯爵家のご令嬢だ。親が従軍して生きて帰還したらしいが、まったく運の無い子だ」
「親は?生きているんですか」
「いや、原因不明の病気、おそらく呪いで死んだんだ、この子も発病して気持ち悪がられて放り出されたんだよ」
「もしかして魔女さんはそれを治しに飛び回っているのか」
「かもな、だがあいつは王族と貴族相手だ」
アンは片っ端からヒールした。
「はやいな。明日は隣の町まで行くぞ。明後日はそのとなりだ」
数日たって近くの町や村はだいたい治療が終わった。少女も起き上がってしゃべることが出きるようになった。
「ありがとうございます、おかげさまでもうすっかり良くなりました。
母もすごく喜んでおります」
「ああ、お母さんも来てるんだ」
「そこに」
「女将さんがお母さんですか」
「はい、言ってませんでしたか?隠したがるんですよね、父の妾だったから」
レイはリュウに小声で聞いた。
「妾ってなに?」
「んーー、正妻じゃない嫁?」
「あーー、第3婦人みたいな」
女将が口をはさんだ。
「違うよ、子供がいなかった奥さまのかわりにこの子を産んだ、それだけだ」
「でも私には病があったので追い出されてしまいました。
お父様は母のことを愛しているといつもおっしゃっていました」
「やめろ、やめろ、男は心にも思っていなくとも、そう言うんだよ」
「ホホホッ、いつもこの話をするとこうなんです」
アンはいい話だなと思ったが、自分はどうなんだろうと考え、魔女に会いたくなった。
「ここで待っていたら魔女さんは仕事を終えて来ますかね」
「どうだろう、ここら辺の呪いが治療されたと誰かから聞いたら来ないかもしれない」
「では私は魔女さんの家に弟子入りに行こうかな。
レイはここに残ってもいいよ、簡単なヒールなら使えるようになったから、客をとらずにヒールで営業できるよ」
「私も一緒に弟子入りしたいよ、それに洗体魔法以上のことも出きるようになりたいし」
「じゃあ私がお姉ちゃん達を送っていくね」
女将は笑いながら。
「空を飛べば1日かからない。今日は腹一杯食べて明日の朝出ればいい」
その夜
女将は酔っぱらうと。
「お前達、ちっさいのはともかくとして、帝国のヒーラーだろ、自分達の命が惜しくて師匠を敵に売ったっていう」
「え?なに言ってるんですか、師匠は自軍が撤退しても残って治療してたんで敵に捕まったんです。私達は別の負傷者に付き添って撤退したので捕まらなかっただけです」
「まあ、世の中ではそう噂しているってことだ。帝国から逃げてきたのは事実だろ」
「逃げてきたというか居場所が無くなったので、私の産みの親を探してこの国に来ました」
「親がいるのか、何処にいるんだ」
「それが分からなくて」
「名前は?知らない?嘘だろ」
「嘘じゃありません。強いヒーラーで医者ではないかと」
「魔女のことか?まあ、会ってみろよ、弟子入りするんだし、そのうち帰ってくるだろう」
朝になったので旅立つことにした。
皆に見送られながら、リュウに乗って魔女と呼ばれるヒーラーの所に向かった。
女将は娘と手をふって見送りながら、
「あたりまえのように幼女のドラゴンに乗って行ったな」
「それでさ、お母さんが引き入れたんでしょ?」
「あの子たちか、そうだよ、こんな所に子供だけで来るのは帝国を追われたヒーラーぐらいだよ。お前を治療させようと思ったんだ。
でも噂どうりなら追い払ってやろうと思って門の前で野宿してるときに宿場組合の男衆に見に行かせたら全員眠らされたからさ、これは腕だけは確かだとめんどうを見ることにしたんだよ」
「性格がダメならどうしたの?」
「働いてもらってもよかったよ、うちよりももっとヤバイ店に売ってやろうとも思ったが、まあマトモな奴らだ。
お前も人を裏切るようなことすると沈めてやるぞ」
「母さんは怖いな、でも、そんなことしたこと無いでしょ」
アン達は夕方には魔女の住む町に着いた。