良い魔族
炭焼き小屋の扉があいて男が出てきた。
「そな、また来るわ」
ご機嫌な男は扉の内側に向かって名残惜しそうにさようならを言うと扉を閉めて前を向いた。
そして騎士達が小屋を取り囲んでいるのを見て驚いたがすぐにニヤけた顔になった。
「へっへっへっ、お先に、ほんまええ子ですわ、では失礼します」
騎士は王子に「捕まえて尋問しますか?」と聞いたが王子はクビをふった。
「何をしていたか聞くまでも無いだろう。それに中にいるのは、分かるだろサキュバスだ」
アンは神官に耳をふさがれていたが王子が話しかけたので神官は手をどけた。
「アン、サキュバスだ、ヒールをかけると弱体化して、その、なんだ、淫靡な誘惑をする魔力を封じることが出来る」
「小屋の外からヒールすればいいんですね?」
「そうだ」
アンが小屋に向かってヒールをかけようとすると小屋からサンダルを履いた全裸の女性が出てきた。腰に小さな翼と細い尻尾をつけている以外は人とほとんど変わりの無い姿で、隠そうともせずに仁王立ちしていた。
「おいおい兵隊さん、こんなに相手できないぞ、そうだないっぺんに7人だから何回かに分けて・・・女性もか、まあ先にやるか?私はそっちもいけるから」
王子は顔を赤らめて下を向きながらアンに「早くやれ」と言った。
アンは『このノリは嫌いじゃない、まあ実体があるから死にはしないか』と思いながらヒールをかけた。
だがサキュバスは何事も無いように騎士達に向かって順番どおり整列させていた。
「じゃあ先頭から小屋にはいれよ、相手してやる」
しばらくヒールが効いていないように騎士達を招き入れようとしていたが小屋の中から悲鳴が聞こえた。
「オオオオィ!私の翼がとれたぞ、尻尾もだ」
中からもう一人のサキュバスが翼を持って飛び出てきた。外にいたサキュバスは振り返ると自分の翼が抜け落ちたので拾い上げて絶叫した。
「何だあああっ!何があった」
サキュバス達が慌てて取り乱していると、王子が前に出て「お前達にヒールをかけて魔力を奪ったから落ちたんだろう、そのなんだ、、、アン、おばあさまから何か聞いてないか?」
アンは目を見開いて小さくクビを横にふった。
男の魔族相手ならここから切りあうのだろうが、かってが分からないので王子は困った様子でまわりの騎士たちを見回した。
すこし余裕を取り戻したサキュバスはその様子を見て状況が分かってきた。
「魔力もなくなった、魔法が使えない。
お前達神官がやったのか!」
サキュバスは神官を睨み付けて言った。
「はっ、はい!私がやりました」
神官達はアンをかばうつもりで言ったのだが、その毅然とした態度にサキュバス達の怒りがその神官に向かって高まって行くのが分かった。
魔力が無くなったが身体能力が高いサキュバスは騎士の剣を奪うと神官に向かって切りかかった。
戦うことが出来ない神官は逃げることも出来ず、アンを抱きしめたまましゃがみこんだ。
「この神の野郎の犬が、殺してやる!」
王子達が間にはいる前に一瞬早くサキュバス達はアンと神官に駆け寄って剣を振りかぶり、そして、そのまま前のめりに倒れて寝てしまった・・・。
「ふう、サキュバスにも催眠のヒールがきいて良かった」
アンは一人で立ち上がるとサキュバスの鼻に手をかざして息をしていることを確認した。
「どこかから来ていた魔力は聖なる力に置き換えたのでもう暴れないと思います」
王子は額の大粒の汗を手のひらでぬぐいながら
「アン、そういったことが出来るなら言っておいてくれ、お前が殺されたら私は大恩あるアシャに殺されるところだ。
それで聖なる力に置き換えたってことはサキュバスはお前に隷属するのか、それなら私達では殺せないぞ」
アンは「は?」と言った顔をしたので王子は困った顔になった。
「私達は神の力に支持された人を殺せない聖騎士だ、連れて帰って囚人に殺させるか・・・お前が奴隷にするか、いずれかになる、と、思う。
前例がないんだ」
「奴隷?サキュバスを私がですか?」
王子はぶつぶつとアンに聞かせるでもなく独り言を言い出した。
「コイツらは奴隷として何が出来るんだ、アレ以外に。お前が男で成人してたらあるいは、だが。そう言えば女もいけるとか言ってたな。
剣の腕は良いように思えるが」
二人のサキュバスは眠らせたまま馬に縛り付けて城に帰ることにした。
診療所ではアシャがドラに土下座していた。
「すまん!目をはなしたすきにコイツらにやられた」
捕らえた冒険者の男女を指さした。
ドラは冷たい目で冒険者を見たが、責める様子もなく子供たちに語りだした。
「まあ、コイツらですか。
しかし弱そうな、こんなのにあなた達、やられたのですか?」
「お母様、そいつらは魔剣を持っていたし、まさかいきなり刺されるとは・・・」
「そうですかそれならしょうがないか。
でもブレスを防がれたとも聞いてますよ、ぐるぐるは爆発的に炎を発する方法を学んでいないのでしたか」
「はっはい、学んでいません」
「それならしょうがないか。
今度特訓ですね。
りゅう、サイラとライザとそれに、君は出来るのですよね?」
「出来ます!
でもやり方が違うかも、なので私達も特訓に参加します」
ドラは新しく見つかった我が子を抱き上げた。
「それで君は、さ、なん番目だったか分からないけど、なんと名付けたのですか?」
「いろいろあったので名前を決めていません」
「それでは、青龍からとって、セイ、と名乗りなさい」
「はい、セイ、と名乗ります」
子供ドラゴン達はザワついた「名前つけてもらえるんだ」
「お母様!では僕の名前も」
「あなたにはりゅうと言う良い名前があるでしょ」
「りゅうは良い名前ですよね、でも僕はぐるぐるですよ」
「可愛いじゃないですか。
サイラとライザはお祖父様がつけたのでしょ、かっこいいですよ。
この話はこれでおしまいです。
じゃあ食事にしましょう」
そう言ってドラは二人の冒険者を見た。
『俺たちを食べるって意味かな?』




