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プチヒーラー  作者: テクマ
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良い魔族

馬車は走る、お昼になっても休むことなく。


「お昼にしましょうか?」


神官の一人が言うと皆用意をはじめた。


「王子様や騎士様はどうするのでしょう?」

「どうなんでしょうね、お急ぎのようですが声をかけますか」


アンは昼食もとらずに一心不乱に走るこのバカっ走りの原因に心当たりがあった。出かける前に王子から「ヒールをかけながら走るとどの程度時間を短縮できるか試してみたい、やってくれるか」と言われていたので神官達に気付かれない程度でずっとヒールし続けていた。

アンは『軍事機密かもしれない、黙っていよう』と考えていたわけでは無いが、こんな非常識な実験の触媒になっていることを言うべきでは無いと考えて言わなかった。こんなことがあるとも知らない神官達は無邪気にしていた。


「何かお考えがあるのでしょうね。

馬車から手渡しでお昼を渡してはどうでしょう」

「でもとめないと馬上ではご飯も美味しくないでしょうけどねえ・・・」

「仕方ありませんね、王子様に聞いてみましょう」


王子に食事をどうするか問いかけると「このままとりたい」と案の定の返答なので馬上の騎士たちに棒の先にくくりつけたパンと果実酒を渡した。

アンは『まるで空中給油のようだ、意味は分からないが』そう思った。


「私達もいただきましょう」

「オホホホホッ、美味しいわね、オークのしぐれ煮」

「脂がのってますわね」

「私もしぐれ煮好きです、今半のも最高ですよ」

「まあ、帝国では専門の店があるのですね」

「はい、オークを甘辛く焼いて食べさせる店なんですけどね、お持ち帰りも出きるんです」


アンは蒸した白い粒の塊がほしいと思ったがパンで我慢した。

続けて食事に続いてお茶とお菓子をとった。


ふだんは広いお城を歩き回っているのでなんとも無いが、ずっと座っているのでアンはお腹がいっぱいになって眠くなった。しかし神官達の方が先に寝てしまったので我慢して起きて本を読んでいた。


「おーー、これは。

おっと声に出てしまった」


あからさまな表現に目が飛び出る思いであったが、内容には感心した。


「ほーー、サキュバスは羽が生えているが人間との純愛を成就すると人になって羽がとれるのか」


『創作じゃないよね』と思いながら読み続けると「だが淫らな習性が性格として残るから人間として生きて行くうちに若者とは別れるのかなるほど空想ならよくできた設定だな」と感心した。


「こうなるとヒールが利かないな、もう人間だもんな、

いやむしろ元気になるのか・・・まあこの本が正しければ、だが」


その時、胡散臭い作者の顔が浮かんだ。


「足は大丈夫かな、思い付きで切って生やしたけど・・・アシャが見たら怒るだろうな」


さらに読み続けて最後まで読み終わった。


『最後はまた結ばれて終わるのか、これは純愛だな、私もこんな恋愛を・・・しないな。

自分の不貞が原因で別れるのもなぁ、相手に弱みを握られるわけだし、それはしたくないよ、弱みを握られて一緒にいるのは嫌だな』


「あれ、もう日が暮れますね」


神官の言葉を受けてアンは王子様や騎士達に送っていたヒールをゆるめると皆スピードを落として馬を停めた。


「今日はこんなもんか。2日以上の距離を走破したな。

今日はそこの村で宿をとろう」


王子は上機嫌で村の粗末な宿に入った。そこで村長に魔族や魔物について聞いた。


「なに、誰も困っていない、どういうことだ」


王子は困った顔をして続けて言った。


「魔族はいるんだろ?

それなら討伐しなければならない。

おまえ達は心を乗っ取られているんだ」


王子はアンに命じて村に強い結界を張って魔族との繋がりをたちきるよう言った。


だが村人に変化はなかった。


神官達も「魔族との繋がりは感じられない」と言ったのでひとまず置いておくことにして食事をとって寝ることにした。


アンは気がかりではあったが昼間ずっとおきていたので夜は神官に任せて爆睡した。


次の日の朝、村長達が魔族の助命嘆願書を持って現れた。


「魔族がいけないのは分かっていますが、我々には危害を加えません、むしろ益がありますので、それを分かってほしいのです」


王子は「変なことを言う」といった顔をしながら


「益とは具体的になんだ」

「益とは人によって違います」

「では村長お前はどうだ、どんな益を得た?」

「私たちのような老人には特にありませんが、若者の労働意欲は高まります」

「それではわからん。若者は昨晩村にいたのか」

「はい、炭焼き小屋等にいるもの以外は村におりました」


王子はヒールをした時間帯に若者がいたのなら魔族との繋がりはたたれているはずだが、だが嘆願書を持って来たことに困惑していた。


「本当におまえ達の言うような魔族なら捕らえて色々聞くことになるから殺さないだろう」


そう言ってその場をおさめた。王子は外に出て馬車の所で待っていたアンに聞いた。


「アン、おばあさまから何か聞いてないか?」

「冷静に受けとめなさい、そうおっしゃっておられました」

「魔力で精神的に縛る以外あるのか、見て分かるのか。

おばあさまはお戯れがすぎるな」


王子はぶつぶつ言いながら馬にのり、とりあえずその場に向かうことにした。

さらに半日進んだ場所に先行した騎士が待っていた。騎士たちは「なにも問題ありませんでした」と言ったが神官達以外でも分かる魔族の気配が立ち込めていたのでその方向に進んで行ったらそこに炭焼小屋があった。


「ああああああああ、おおおおおっ!」


と、女性と男性の悲鳴のような声が小屋の外まで聞こえて来た。

先行していた騎士たちは顔を見合わせて「ほらね何ともないですよ、分かりますよね、いたって平和です」と言ってニヤニヤ笑った。


「ああ、まるであの小説のようだ」


アンが呟くと王子は神官達に命じてアンの耳をふさがせた。


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