病の拡散
「うちにはお風呂なんて無いよ」
「えーーーーーーーっ!」
「どこから来たんだい」
「・・・帝国の方から、ですが」
「知らないのかね、この国は魔法が普及しているから自分で洗体するんで風呂に入らないんだ」
「どこかに、風呂ないのですか」
「しょうがないね、私が洗体してやるよ」
「あ、いやーー、今は風呂に入りたいです」
人に洗体してもらうのがどうしても恥ずかしくて受け入れられないので断った。
「そうかい、むこうの宿屋なら有るんだが、あんたら物好きだね」
宿屋の前に行くとドラゴンのリュウがぼそりと・・・。
「これは大人の宿屋ですね」
「さすがドラゴン、物知りだね、で、大人の宿って?」
「二人ではいるのでは無い方の・・・アンとレイはお子様だから知らなくていいです」
「はあ? まあいいか、お風呂使えるかどうか聞いてきます。
すみませーん、お風呂つかいたいんですが」
店の前で掃き掃除をしていた男に聞いた。
「泊まるなら入れるが。
子供はダメかなぁ・・・女将に聞いて来るよ」
「客が来る前ならいいそうだ、夕方まで時間があるからはいっちまいな」
二人はリュウと共に風呂に入った。
「あーいい湯だ、生き返るねぇ」
「ほんとうにいい湯、そろそろ柔らかくなったから擦るか」
「従軍していたときも風呂にはいれなかったけど、たまっていた垢を落とすと気持ちいいよね」
お湯から上がると、ごしごしごし、と体を擦った。
「ごしごしごし、すごい出る。
よし前はこんなもんだろう、レイの背中を擦ってあげる。次、私のをお願い」
「ハイハイィ、ごしごし、ごしごし」
皮1枚分の垢が落ちて床が垢だらけになった。リュウは・・・
「人間は汚いな、こんなの食べるドラゴンの気が知れない」
すっかり綺麗になって宿の服を着てラウンジでくつろいでいると浴場から悲鳴が聞こえた。
「キャー!ひ、人が溶けてる」
アン達の垢を見て人が溶けていると勘違いした従業員の声だった。アンがかけよって説明した。
「あー、それ私達の脱け殻です」
「お前たちはいったい何族の昆虫なんだい」
「ひと族ですが、それは・・・垢です」
「紛らわしい言い方するんじゃないよ。
しかし浴槽も垢だらけだよ、まったく」
女将が清浄魔法でお湯を綺麗にして、従業員総出で浴場の清掃をしてなんとかなったが。
「あんた達、金もってるんだろうね」
「ええ、もちろん。ほらこんなに」
「子供の小遣いか。
たりないね、浴槽の清掃代金も必要だよ」
「働いて返します」
「働くか・・・いい心がけだ。じゃあ手っ取り早く客をとってくれ、あんたらなら2日でいい、その後も働いてくれてもいいぞ」
「客をとるって?」
「知らないのかよ、どこの貴族様だ。
お嬢さんたち他に何もできないだろ、洗体の魔法も使えないんじゃあ」
「狩猟が出来ます・・・あとはヒールが」
「狩猟って昆虫採集程度なんだろ・・・だがヒールねえ、ついてきな」
地下の奥にある部屋に連れていかれると少女が1人寝ていた。
「この子を治すことが出来たら全部チャラだ、どうだ出来るか」
アンは見るとすぐに病名が分かった。
「呪いだ」
「ほう、ここまでは合格だ、近くの医者もそう言ってた。
で、治せるのか?」
「どうかな、かなり強いヒールを上書きしないと救えないかもしれない。ここまでほおって置いたのは見たことが無い」
「急に来やがったんだ、やってくれるか?
医者は見放したし、魔女は家にいない、いつ帰って来るか分からない」
「魔女ってヒーラーの?」
「ああ、あいつがいればすぐ治ったんだが」
「では、やってみます。
あと、ヒールした後でしばらく泊まることになりますがいいですか」
「ああ、ある程度の効果がでて経過観察の間の宿賃はタダでいい」
「いえ、私が倒れるのでその間の療養です」
「お前が、かよ。
だが治るならすぐやってくれ」
アンは力を込めた感じで、ヒールした。
「んんっ、これだけ?」
「ううっ、目まいがする。
はやく何か食べないと」
レイが深刻そうな顔つきで・・・。
「私はアンの助手です、
栄養のあるものを食べさせないと・・・」
リュウは泣きながら・・・
「お姉ちゃん、死んだらやだ!」
「わかった、わかった、何か栄養のあるものを作らせよう・・・だが食べられるのか?気絶したような感じだが」
「・・・能力低下による貧血みたいなものですから、口に放り込めば食べます」
「そうかい。
黒い斑点も消えたし、見た目もだいぶ良さそうだ。
いいもん食わせてやるよ、ヒーラーの先生たち」
女将は調理師に店で一番いいものを作らせた。
レイとリュウはアンの口に食べ物をねじ込みながら自分達も食べた。
「もぐもぐ、旨いね、おねえちゃん、さすが大人の宿屋」
「ぐちゃぐちゃ、ごくん。さっきから、その、大人の宿屋ってなんです?」
「もぐもぐ。
耳をかして、ごにょ、ごにょ・・・するところだよ」
「ぶはっ、ヒエエッ、そんなこと愛し合う者以外でしていいものなのですか」
「もぐもぐ、ドラゴンは愛し合う者同士でするけど、人は下品ですよね」
「もぐもぐ、ああああっ、はやくここを出ましょう。
もぐもぐ、アンおきているんでしょ?」
アンはあまりにもご飯が美味しいのでこのまましばらくいたいと思ったので黙って食べた。