サタニスト
深い霧がまわりをつつんだ、するとサタニストを名乗る男は倒れて寝込んでしまった。
アンは神官達を抱き起こしながら男をチラッと見たが、また視線をもどして神官達に回復のヒールをはじめた。遅れてアン達を追ってきた衛兵が男を起こすと縄をうって城の方に連れ去っていった。
しばらく休んだ後、少しふらつく神官達と一緒にアンは城のおばあさんの部屋に戻った。
「聖剣らしきものはサタニストと名乗る男が川に投げ捨ててしまいました」
「あら、そうなの、サタニストさんは困ったものね。
じゃあ新しいのを作らなきゃいけないわね」
「ああいや、もう少しすると浅瀬まで流されてくるでしょうからその時に拾いに行きます」
「そうなの?
大分時間がかかると思うけど。
では・・・それまでこれを使いなさいな」
そう言うと部屋のすみにあるゴボウのような木の根を指差した。
アンはそれを持って周りの神官を見た。神官達は口を揃えて「それはおばあさまの2番目の杖です」と言った。2番目ならいいかと思ったアンは・・・。
「ではこれをしばらくお借りします」
そう言って両手で持って胸に抱えた。
ほどなくして王子がアンを呼びにきた。
「おばあさま、私には見えないが、ちょっとアンを借りますよ。
さっき捕まえたサタニストがアンを呼んでいる・・・この国ではサタニストをとらえたら神殿で拘束して改心させるのだが・・・ちょっと改心がはやいのでどうかと思ったが、君の聖なる力を浴びた影響のようだから会ってもらえないか」
「会って何をするのですか?」
「アンが改心していると感じたら解放する。
いちど神聖なる力に傾いた人間を魔族は嫌うから彼を開放しても大丈夫、また襲ってきたりしないよ」
アンは王子に連れられて神殿の牢屋に行った。そこにはサタニストを名乗る男が土下座してアンが来るのをまっていた。アンは土下座する男が転生者かな、と思ったが口に出さなかった。王子がアンを連れてきたことを告げると男はせきを切ったように喋りだした。
「幾多の苦難を乗り越えたあなた様の聖なる力に触れ、私は改心いたしました、私はあなた様に帰属したいと思っております」
「私の過去の経験値がわかるの?それに帰属?」
王子は気をきかせて言った。
「経験値うんぬんは前口上で、アンの部下なり信徒とかになりたいのだろう」
アンは鳥肌が立って身震いをした。
「それは私が遠慮します、ここを出たら自由にしてください」
「でしたら、私の村に来てくださいませんか、このまま村に帰ることは出来ません、あなた様に変えていただきたいもの達がおります」
王子の目は輝いて、アンに承諾させた。
「サタニストの村に行くのは気が進みません」
「そう言うな、これは絶好のチャンスだ。
普通は改心しても仲間を裏切らないことの方が多い、おそらく君の力が強いので仲間全員を改心させられると思ったのだろう」
次の日、アンと男は馬車にのり、王子は騎士達を連れて村に向かった。
ドラゴニアの領内、城から馬車で半日の村に到着した。
「こんな近くにサタニストの集落があったのか」
意気揚々と馬を進める王子に男は言った。
「村の連中はサタニストであること以外はいたって善良ですから、なにとぞ殺さないで下さい」
「分かっている、ちゃんと村にすえる魔よけの魔石も持って来た。お前たちが改心した後に魔族に殺されないように考えている」
男は王子に深く頭を下げた。いよいよ村を見下ろせる高い丘に来て馬から降りた王子はアンと男を馬車からおろした。
「えーっと、私は村に入ってみんなを集めて何かありがたい話をすれば良いのですか?」
「ありがたい話を知っているなら、まあ、してもらうのも良いかもしれないが・・・」
「いえ、知りません」
「そうだろうな、おばあ様から私も聞いたことがない。
普通は、村をヒーラーで囲んで問答無用にヒールしながらその円をせばめて行くんだが、君の力ならここからで十分だろう」
アンはまわりを見渡して『アシャたちの診療所とその村と同じぐらいだから余裕だ』と思った。
アンは王子の言葉にうなづくと、おばあさんから借りた杖を振りかざしてゆっくりとおろした。
何も言わないのもどうかと思ったので振り下ろす途中に「えい!」と言った。すると王子が苦笑いしながら言った。
「いやいや、頑張り過ぎだよアン、むこうの山までヒールがとおったのが私にも分かった」
アンも驚いていた『このゴボウすげー』。
それから王子と騎士たちを連れて村に入るとすんなり受け入れられ、男が村人たちに経緯を話した。村人たちは突然のことであまり理由が呑み込めなかったが、自分達の気分がすこぶるいいので受け入れた。
だが村人が魔族が復讐に来るのではないかと心配したので村の中央に魔石を置いた。その日は王子たちと村に泊まることにした。




