サタニスト
女将はりょうを連れて宿まで帰って来た。
「母さんどうしたの、急に帝国に行くとか言って出ていったきり帰ってこないし、今度はりょうさんを連れてグリフィンで帰ってくるし」
「心配させたね、お前に兄弟を作ってやりたくてね、帝国まで行っていたんだよ」
「兄弟、何言ってるの?
まったくメチャクチャだよ」
りょうはグリフィンを厩舎に入れて、なるべく話に加わらないようにした。
だが『種付けされた」なんて言えないよな、でもこの子も貴族の血が入っているから・・・そうだな、まあ近い境遇の兄弟だな・・・』
などと考えていた。だがひとつ気になったことがあったので女将に聞いた。
「で、どうするんだ・・・その出来たあとのことだが」
「捨てるんだよ、どっかいい感じでみすぼらしい所にさ」
「そうか、それがコツなんだな?」
「私はこの宿屋に拾われて何不自由なく育った、この子は貴族の家で何不自由なく育った・・・まあ病気で追い出されたが。
ヒーラーの能力が高いあの二人、アンは農家に拾われた、楽しく育ったらしいが貧困だ、それにアシャはスラム街で喧嘩しながら育った。もう明確だ、神にすがるような環境におかれないと癒しの力が身に付かないんだ」
「そうか、ならビンセントのハーレムからは力のあるヒーラーは生まれないな」
「そうだな、ハーレムを解散しても公爵様のお手付きなら大事にされるから、ダメかもな」
それを聞いていた娘は目を細めながら言った。
「孕んできたの?
あきれた、こんな貞操の無い母親なんて聞いたことがない」
「帝国には山ほど集まっていたよ、貞操の無い女がさ。
断られたらお前を差し出そうと思っていたんだがね」
「何のために?」
「それは・・・立派なヒーラーにだな・・・なれるかもしれない子供を生んで・・・」
「そして、捨てるんでしょ?」
「あぁ、そうそう、それぇ」
「頭おかしい、実の子供を不幸にするのか」
「お前にはまだ分からん」
女将と娘は怒鳴りあいながら宿のなかに入って行ったが、従業員は知らん顔しながら働いていた。りょうは土間のすみでこん棒を抱き締めながらこちらに背中を向けて寝ているネコ族の少女がいることに気付いた。
「なんだ、ふにゃ、殿か。
お金なら私が払うから上がって泊まって行けばいい」
りょうが話しかけると、ふにゃ、は
「ここでいいにゃ」
と言った。りょうはさらに聞いた。
「喧嘩ですか、それとも魔王軍が動きましたか?」
「大きな戦があるにゃ、でももうちょと後だにゃ、と、こん棒様がおっしゃっているにゃ」
「ほう、いよいよですか・・・舎弟の方々はアシャ殿と御一緒ですよ、迎えに行くのですか?」
「ミュー達はアシャ達の護衛だにゃ。
ふにゃは王国に行くにゃ、何とか王の所に、何だったかにゃ、フランタニャ玉だったかにゃ」
「名前はそんなところでしょう、私もその王のところに行くので明日にでも御一緒しましょう」
次の日に、りょう、は、ふにゃ、と共に王国に旅立った。
ドラゴニアではアンがおばあちゃんとお話ししていた。
「あんたは何も武器を持っていないね」
「聖剣ですか、必要ないかな、もう森で魔族と戦うこともないし」
「そうはいかないでしょう、私が出してあげよう」
アンは『そんなことも出来るのか』と驚いていたが、おばあさんは目を閉じて天に念じると目を見開いてアンに言った。
「そこら辺に出てきてないかい?」
「え?」
アンはベッドの回りを探したが無かった。
回りにいた神官にも探してもらったが無かった。
「どこに出したの?」
「そこら辺だと思うんだけどね、城の外にある川辺りかもしれない」
「川か、見てきますね」
アンは城から出て川にむかった。
一緒についてきた神官達が言った。
「以前にも何回かあったのですが、ここら辺でした。
でも見つけられたのははじめの一本だけで今は王様が持っています」
「へぇ、もしかしてその他のは縫い針とかパイプみたいなもの?」
「はい、そうです、そうです、そうおっしゃっていました。
あまりにも見つけられないのでお遊びで念じたときそうおっしゃっていました。
でも見つけられませんでした、
・・・よくご存じですね、ヒーラーには定番の・・・道具なんですか」
アンは以前に川原で拾った聖剣の出所がわかった気がした。あそこはこの川の下流なんだろうな、と考えていると、川原にキラキラ光る何かがあるので神官達と近づいていった。すると何者かがアン達を追い越して行った。
その男は光るものを我先につかむと川に投げ込んで手をパンパンと叩いて振り向いた。
「危ない、危ない。お前は、ヒーラーだろ。
俺はあるお方の命令で聖剣が婆さんの手元に降りないように誘導しているんだよ」
そう言って男はにゃりと笑うとアンの回りにいた神官は眠ってしまった。
アンは神官をゆすって言った。
「どうしたのみんな」
アンは神官の顔をながめていた。
男はいぶかしげな顔をしながらアンに言った。
「おい、どうした?
チビ、眠くないのか、これが利かない人族ははじめてだ。お前なんだ、俺と同じサタニストか?」
アンはサタニストが何か分からなかったので、男に聞いた。
「サタニスト?
サタニストって何です?」
男がさらに力を込めて眠らそうとしたがアンはそしらぬ顔で神官を見て言った。
「よく分からないけど・・・なんて言うとアシャは怒るだろうな、でも頭の神経が動かなくなっているから・・・まあいいか」
アンは神官にヒールをかけておこした。
「理屈はわからないけど、聖なる力をまとわせると眠らなくなるんだな」




