癒しの力で乗り越える
異世界の田舎に私は生まれた、生まれて・・・どれくらいたったか分からない、親に捨てられていたから歳が分からないのだ。でも8歳ぐらいだと思う、育ての親がそう言っているからそうなんだろう。
育ての親は優しくて毎日が楽しかった。家業は農家だが私は小さいのでまだ役にたてないのだけど、人を癒す能力があり村人の怪我を治していた。
しばらくするとその噂を聞いた帝都の医者が私の力を見に来た。
「やあ、お嬢ちゃん。君は人を癒す力があるそうだね。ひとつ私にみせてくれないか」
そういうと帝都の医者は短刀で自分の腕に小さな傷をつけた。
わたしは手をかざすとその傷は跡形もなく治った。医者は感心したが、驚くほどでも無いようだ。だが私はその人の肝臓が気になっていた、おそらくお酒の飲み過ぎか、いわゆる肝硬変のような病気を持っていた。
わたしはその病気もついでに治しておいた、医者は気付いてないようだ、しめしめ。
病気を治すのは好きだけど、あまり目立ちたく無いので、これでいい。
医者は帝都に帰ってしばらくすると、宮廷医を連れてまた現れた。
「わたしは宮廷医を束ねるビンセントともうす。君はこの男の肝の病を治したようだ、類まれな力を持っているね、ぜひ帝都に来て勉強をしなさい」
育ての親は帝都で勉強することに賛成してくれたので、さっそく帝都に旅立つことになった。
馬車に乗って田舎道をビンセントと一緒に帝都にむかった。
「あの夫婦は君の育ての親か、では産みの親は医者をしているのだろう」
「どうでしょう、わかりません、捨てられていたので」
育ての親がいい人で、捨てた親は覚えてないし未練が無いのであまり考えたことがなかった。
「これだけの力のある子を捨てるとは考えられない。が、少なくとも親も力があるのだろうから、帝都には親はいないとして、周辺の国にもすぐれた医者は数名しかいないから、そのうちの誰かだろう、そのうち分かるよ」
「帝都には私の親はいないのですか?」
「ああ、私には子供を捨てた記憶が無いからね」
(ふ~ん、この人すごいのか)
「あの人の肝臓の病気が治っていることにどうして気付いたのですか、元々病気は無かったかもしれないのに」
「あの者は知り合いでね、肝の病は前から気になっていたが、生活態度をあらためないとまた再発するから病気はそのままにして生活面で苦言を呈して改善するのを待っていたんだが・・・ところで、キモのことを肝臓と言ったか?
まあいい、方言はおいおいなおしていきなさい」
さらに進むと城壁に囲われた街が見えてきた。
「あれが君がこれから住む帝都だよ、私達が住むのは右側の貴族街で癒しの勉強は王城の横にある神殿で行う」
ビンセントは私に専任のメイドを1人つけてくれた。レイと言う名の私と同い年ぐらいのおとなしい綺麗な女の子だ。
そしてビンセントの一人息子を紹介してくれた。私よりも歳上の男前であったが。
「ジュニア、お前の許嫁だ、仲良くするんだぞ」
(え?なんて、何て言った?)
ジュニアは。
「父上、ご冗談を」
「この子は力が強い、我が一族は常に優秀な血を受け入れて帝国に貢献して行かなければならない」
「・・・・」
(怒ったな、いきなり言われたらこうなるでしょ。
しかし私は騙されて連れてこられた?こんな立派なお家の男前の嫁だから断らないけど、私の意思はどうなの、しかも子供なんですが。
まあ、私はたぶん美人・・・かどうかは微妙だけど、日に焼けて真っ黒で、育ての親は一番いい服を着せてくれたが何回も洗ってうす汚れて見た目は汚い。初見で貴族の男子に好かれるはずもない)
「ジュニア様、お初にお目にかかります、アンと申します、よろしくお願いします」
ジュニアは目も合わせずに部屋に帰っていった。
ビンセントは、ジュニアはお年頃だから気にするな、と言ったがこれは困った、仲良くできるのだろうか。
母親をはやくに亡くしたせいか、女子に冷たいところがあるのかもしれない。
私はレイから貴族としての作法を習い、神殿では癒しの技を習得した。私のようにドバーッと病人にふりかけてピカピカに治すだけではなくもっと清廉されていて色々と使い道があるのだ。
学校での勉強を一通り終えると実際に病人の治療にあたった。定期的に村に帰っては村人の治療をしながらビンセントと王公貴族の治療も行った。
ジュニアとは徐々に打ち解けていった、ように思えていたが。
私が成人する前の年に仲の悪い国と戦争があってビンセントが医療班として従軍した。私は付いていったがジュニアは居残った。
ビンセントは敵の捕虜になり家督はジュニアが継いだ、彼がまずしたのは、私との婚約を破棄して、戦場にいた私を家から閉め出すことであった。一緒に従軍していたレイも放り出されて帝都に帰ってから二人で神殿に向かったが入ることこが許されず行先を失った。
レイは身寄りがないので、レイを連れて村に帰ることにした。
初級だがヒーラーの免許もあるし、今の自分の腕なら開業出来るからなんとかなるだろう、と思っていたが。村に帰ると、養父が困り顔で。
「お前がいると国に反逆したことになる・・・他の国に行くしかない」
(そこまで力があるとは)
しょうがないので近くの国に逃れることにした。
(そういえば実の親がどこかの国の凄腕ヒーラーかもしれないんだっけ、探してみるか)