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女神の祝福  作者: たなたか
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神聖魔法

「ピース君、君は見習いとして順調に研鑽を積んでいますね。今日はピース君に神聖魔法を教えたいと思います」


 朝食を食べているとき、神父様がそういった。


「本当ですか!?ありがとうございます!」


 神聖魔法とはその名の通り人を怪我を癒したり心の闇を晴らしたりすることのできるまさに聖なる魔法というべきものだ。

 聖女と呼ばれる人にもなると悪魔に心がとらわれてしまった人でも改心させることができるほどの力があるらしい。


 この魔法が使えるのと使えないのではセア教での出世がまるで違う。

 思わず声が出てしまうのも仕方のないことだ。


「ええ、本当ですよ。ピース君は今、どれくらいの魔法を使えますか?」


「僕が今使えるのは生活魔法と水の低級魔法だけです」


 魔法の才など全くない一般人そのもののレベルだ。


 魔力は生まれ持った資質と環境が大きい。


 魔力は限界まで使うことで増えていくけれど、魔力を使い切ると全身がだるくなりひどい頭痛に襲われる。

 一晩ねても完全には回復できないため日々の生活をしながら魔力を鍛えるのは無理難題と言ってもいい。


 一握りの天才は少ない魔力でも工夫と練度ですさまじい強さを持つらしいけれど僕はそんなに器用でもないし、なにより今は勉強のほうが大切なため魔法に関しては何もしてこなかった。


「わかりました。安心してください。神聖魔法は魔力よりも知識が必要とされる魔法ですから」


 最初はその言葉に意味が分からなかったけれど、神聖魔法の勉強が始まるとすぐにわかった。


「神聖魔法は取り除く魔法です。原因、過程、結果を理解して遡り本来あった事象をなかったことにするのが神聖魔法です」


 まず驚かされたのは神聖魔法は一種類しかないことだった。

 人の心の闇を晴らす魔法も人のけがを癒す魔法も一緒。

 治し方、いや、取り除く方法も一緒だった。


 今の状態から過程を通して原因を見る。

 そしてそれを書き換える。


 明らかに他の魔法と比べて異なる。


 普通の魔法は魔力を体外に出して念じるだけで魔力の量に見合った効果が得られるものだ。

 より鮮明な結果を想像したところで効果はあまり変わらないというのが常識だ。


「神聖魔法の原理はわかりました。けれど、神聖魔法は他の魔法と比べて扱い方が違うのはなぜなのぜしょうか?」


「いい質問ですね。神聖魔法は普通の魔法と違いセア教徒しか使えません。これはセア教が神聖魔法を秘匿しているからではなく、セア教徒でなくては発動すらしないのです」


「つまり女神さまからの贈り物ということですか?」


 まさにそのとおりです。と神父様は笑いながら答えてくださる。


 扱いは難しくとも理論上はどんな大けがもなくしてしまえるすさまじい魔法だ。

 しかし、セア教徒の僕は今日までこの魔法のことを教えてもらっていなかった。

 というより神父様以外に神聖魔法を扱える人を知らない。

 

 それはなぜなんだろう。


「僕はこの魔法を今日まで知りませんでした。この魔法を国中に広めればより多くの人が救われると思うのですが、何か理由があるんですか?」


 僕の言葉に神父様は透かし悲しそうな顔をなさった。


「ピース君、悲しいことに世の中に女神さまを本気で信仰している人は驚くほど少ないんですよ。敬虔な信徒でなくては発動できないこの魔法はこの国でも半分ほどの人しか扱えませんでした」


「そんな……」


 まさか女神さまの恩恵を余すことなく受けているはずの教国ですら女神さまを本気で敬っていない人がそんなにいるなんて。


「女神さまに敬虔でない人がこんなにも多いと広まっては内部分裂しかねません。セア教は仕方なく神聖魔法を広めることを断念しました」


 それを聞いて少しだけ不安になったけれど、自分は問題なく神聖魔法を使うことができた。

 驚くほどあっさりと発動できて驚いたがそういうものらしい。


 魔力もほぼ必要とせず実力次第ではどんな大けがも治せる神聖魔法はまさに女神さまからの贈り物といえる。


 しかし、発動はできても扱うのはとてつもなく難しかった。


 伝統的な修行方法として石に傷をつけてそれを治す方法があるのだが、まるで治すことができなかった。

 やることは傷の範囲を指定してその傷がない状態を明確にイメージしてそれを上書きするわけなんだけれどそう簡単にできるものじゃない。


 まずは傷の形を明確に把握して削れてもろくなった表面と削られたことで無くなった空間に分けなきゃいけない。


 一度にすべてを治そうとすると傷の形を完全に把握する必要がある。

 これは比喩でもなんでもなく傷の深さやささくれのようなものも含めて完全にという意味だ。


 当然そんなことできるはずもないので自分に把握のしやすいようにまずは表面を整えるのだ。


 表面を整えるのは地道な作業になる。

 小さな範囲に絞って神聖魔法を使うことで傷口を滑らかにしていく。


 傷口を整えて傷の形全体を把握できるようになって初めて傷全体に対して神聖魔法をかけて傷のない状態に上書きすることができる。


 無機物だから時間をかけてじっくりとやれるが、実際に生き物に対してかけようと思うとさらに難しい。

 生き物は怪我をすると怪我を治すために傷口が動き回る。

 筋肉の収縮や血が流れ出ることで修復は困難を極めるそうだ。


 神父様にコツを聞いたところ反復練習による慣れしかないとのこと。


 神父様も生き物にかけられるよういなるまで三年ほどかかったらしい。


 ちなみに古傷などは治せないらしい。

 体が健康な状態を覚えていないといけないらしい。


 自分ではよくはわからなかったけれど、神聖魔法は本来あるべきだった形に治すものらしい。

 だから昔失った指を回復させようと傷口をえぐって神聖魔法をかけても指が戻ることはないんだと。


 同じ時間経過でも治せる場合と治せない場合があるらしく基準は神父様も知らないと言っていた。


 同様に生まれ持った病気などに神聖魔法は効果がないみたいだ。


 それでも使いこなせればとても有能なものには違いない。

 神聖魔法はどんな大けがでも治せる可能性を秘めているのは間違いないのだから。


 ただ、神聖魔法にも禁止事項がある。

 それは怪我をしてない部分も含め全身に神聖魔法を使うこと。

 無機物にもやってはいけない、最悪神聖魔法が使えなくなってしまうと神父様に教わった。


 なぜダメかは教えてもらえなかったけれど、僕が成長すればおのずと答えがわかるとおっしゃっていたので急いで知る必要はないのだろう。


 今日は神父様は時間を空けてくれていたようで、夕食どきになるまでつきっきりで僕の魔法の練習に付き合ってくださった。


 僕が一人前になるのはまだまだ先みたいだ。

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