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女神の祝福  作者: たなたか
4/7

始まり

「よくきましたね」


 教会に付くと神父様は僕を快く迎え入れてくれた。


 村を出立したのは早朝だったけれど、街につく頃には昼前になっている。


 体力作りをしていてよかったと思う。

 村から町に来るまでに倒れるなんて想像もしたくない。


「お久しぶりです、神父様」


 神父様と会うのは初めてではないが、緊張してしまう。

 力強いわけではないけれど、穏やかで優しく自然と背筋を伸ばしてしまうような威厳のあるこえのせいだろうか。


「道中けがはありませんでしたか?」


「はい、お気遣いありがとうございます」


 それを聞いて神父様は優しく微笑む。


「それはよかったです。さっそくですが、君の部屋に案内しますね」


 ついてきてください、という神父様につれられて教会の裏手に回る。


 教会の裏口から中に入り、案内された部屋は質素で最低限の家具の置かれた部屋だ。

 日当たりはよく、狭すぎることはないため生活するには十分だらう。


「ここが今日から君の部屋になります。何か困ることがあれば言ってください。」


 文句もなにも、見習いとして学ばせてもらうだけで感謝しかない。


「いえ、大丈夫です。お心遣いありがとうございます。それで、これから僕は何をすればいいでしょうか」


「今日は疲れたでしょうから仕事は頼みません。ただ、してもらうことはあります」


 そう言って机の上にあらかじめ置いてあった紙と本を指さす。


「神は誓約書です。魔法的な効力はありませんが神に背くことのないことを誓う大切な紙ですので、明日までに書いて私に渡してください。それをもってあなたは神父見習いと認められます。もう一つは教本です。女神セア様の偉業やセア教の起源などが載っているので読み込んでおいてください」


 誓約書は書くことが決まってるからいいとして、教本にはとても心を惹かれる。

 女神さまは僕には想像もできないような偉業をなしているに違いない。


 今まで僕が女神さまのことを知るためには町で説法を聞くことしかできなかった僕からしたら喉から手が出るほどに欲しかったものだ。


「わかりました。すぐにでもやらせてもらいます」


 神父様は僕の答えに満足そうに笑った。


「では、私は仕事に戻ります。何かあれば礼拝堂まで来てください。私はそこにいます」


「はい、なにからなにまでありがとうございます」


 女神さまのご加護があらんことを。

 そう言って神父様は仕事に戻られた。


 僕は机に向き合い、まずは誓約書を見た。


 誓約書にはほかの宗教を信仰しないことや、女神様への忠誠を誓うことなど、当たり前のことが書かれていて、食肉禁止や恋愛禁止などの厳しい制約などは書かれていなかった。


 朝昼晩とお祈りをしなければならないともあるけれど、これも昔からやってることだから今までと変わりない。


 あとは人を壊す薬や賄賂など、人としてしてはいけないものを禁じるものばかりだ。


 一通り目を通した後机に備え付けてあったペンを借りてサインをする。

 誓約書は夕食前に渡すとして、教本を手に取る。


 教本は分厚く、黒い表紙は少し光沢を放っている。

 手に持ってみるとずっしりと重く、読みごたえがありそうだ。

 ページ数は三百ほどだろうか。


 神父様は説法を説くとき教本を見ず、信者一人一人に目を向けながら話してらっしゃった。

 教本を暗記しているのだろう。


 まずは僕も教本を教本を暗唱できるほど読み込まなければ。


 目を通すと、教本は四章に分かれていた。


 一章が女神さまの信徒としての心構えや生活態度、セア教の基本理念など、セア教の常識と言える部分。


 二章は女神さまの今までの偉業と功績。


 三章は歴代の聖女や聖人、教皇様といった歴史の偉人たちの紹介。


 四章は自らを女神さまに近づけるための行為。


 四章は有り体に言えばセア教の仕事内容が書かれているみたいだ。

 より多くの人を助け、セア教を広めて徳を高める手引きなどもここに乗っているらしい。


 まだ目次に目を通しただけだけれど、興奮が抑えきれない。


 今まで知らなかった女神さまの偉業に心惹かれるし、この国のトップである教皇様やこの国で最も徳が高いとされている聖女様や聖人様は何度も女神さまに会ったことがあるというから興味深いし、自分も聖人となって女神さまに会いたいから四章を読み込み、徳を高める方法を知りたい。


 もちろん、はやくセア教の一員となるために一章を読み込むことが大切なのはわかっているのだけれど。


 教本は最初から読み進めて身に着けていくことを前提に書かれているんだろう。


 まずは常識を身に着け、女神さまへの感謝や偉大な先達たちの生き方を知って初めて自らを女神さまに近づけることができるのだろう。


 焦っちゃいけない。

 まだ僕は神父見習いにすらなっていないんだから。


 ひとまず、僕は神父様に食事に呼ばれるまで一心不乱に教本を読み込んだ。

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