家族
……体が軽い。
すぐに自分の変化には気づいた。
息がしやすい。深呼吸しても咳き込まない。
腕が力強い。体を難なく起こすことができた。
足が頼もしい。歩くことが苦痛ではなくなった。
普通の人はこうなのか。
こんなにも自由に生きているのか。
体を動かしながら感動に浸る。
そしてその情熱のままに女神さまに祈る。
寝込んでいた時よりも強く、絶対に届くように。
病気を治してもらってことはもちろん、今まで心の支えになってくれたことも自分を励ましてくれたことも。
何より、自分ですら呪っていた人生を認めてくれたことを。
いつまででも続きそうな祈りは思ったより早く終わりを迎えた。
「ピース!?何してるの!?」
いつものように母さんが僕の食事を運んできてくれたのだ。
そして僕の様子がいつもと違うことに気づいてくれたのだろう。
普段は扉の前に置いて無言でいってしまうから話すのはいつぶりだろうか。
「……女神さまにあったんだ」
久しぶりでうまく声が出るか不安だったけれど、少しかすれているだけで上手く話すことができた。
今までより大きく息を吸えることができるからかな?
「女神さま……?本当に……?」
報われない人が女神さまに救ってもらう話はないわけじゃない。
僕が実際に歩いて母さんの前までいくと、母さんも実感がわいてくれたみたいだ。
「よ、よかった、よかったね、ほんとうに、ごめんね、今まで、そう、女神さまに祈らないと――」
「大丈夫、母さん、落ち着いて」
驚きと喜びで混乱しながらも跪いて女神さまに祈ろうとする母さんの手を握る。
自分にできる限り力強く。
こうしてみると僕の腕は母さんの半分くらいしかない。
思いっきり力を込めても母さんの手はびくともしない。
この十二年間寝たきりだったからそれも仕方ないのだろう。
僕が寝たきりの間僕を養うために普通以上のつらい生活をしてきたのだろう。
だから今度は僕が母さんの腕が一回り細くなるくらい楽を、いや、何ならもう一回り太くなるくらい楽をさせてあげるんだ。
結局母さんはなかなか戻ってこない母さんを心配した父さんが僕の部屋を訪れるまで続いた。