殺人者の二人
「ミナ! 早く行かないとあの街壊滅するよ!」
「うん、分かってる」
街外れの荒野、カーリディアを代表するミナ率いる臨時パーティは、街に突如として現れた化け物を討伐するべく駆けていた。
「ごめんみんな。私1人で行くから、後から来て……」
「はいはい、分かったよー」
黒髪ショートのミナは愛剣の太刀を輝かせながら足に力を入れ、
消えた――
「はぁ、相変わらず速いねぇ」
隣にいた金髪のギャルギャルしい女は、私達も早く行くよー! と仲間達を鼓舞し、速度を上げた――
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「なんで……」
『ウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッッ!!!』
目の前に今も流れる血溜まりを他所に、リクはガタガタと震える体を抑えながら化け物を見入る。
「なんで、俺が……俺がこの人を殺したのか……?」
『ウウウウウウウウウウウウッッ!』
甘い匂いを漂わせる化け物がリクとの距離を縮める中、リクは自問自答を繰り返す。
自分の魔法が化け物を強化し、大盾の男は骸に姿を変えた。その事実だけが離れない。
「なんで、俺はこんなに……」
無価値な人間、それどころか有害なんだと。
「ダメだ、エリス……ごめん……。俺は何も出来ない……弱者だ――」
呼吸を乱し、どんどん苦しくなる胸を両手で掴みながら蹲る。
苦しい。死にたい。消えたい。殺して欲しい。
どんどん荒くなる呼吸のせいで言葉が上手く出てこない。絞り出した声は掠れ、情けない弱者その者だった。
『ウウウウッッッ、ウウウウッッッ!!』
「なん……だよ、早く殺せ……早く殺せよ!!!!」
燃える家屋をバキバキと壊しながら近づいてくる化け物を睨みつけたリクは、どうにでもなれと笑っていた。
目は見開き、口角だけを上げたその笑顔は、誰がどう見ても不細工で、見るに堪えないものだ。
そんな顔を晒したリクに羞恥など何処にも無い、涙を流し、責めてもの抵抗とばかりにエリスから貰ったネックレスを握る。
「今までありがとう……エリス……」
お別れの言葉とばかりに呟いたリクが目を瞑り、その時を待った瞬間、化け物はリクの前で立ち止まった。
『リ……ク…………サミシイ……ヨ』
「……っ!」
煙が立ち込め視界が奪われ始める中、化け物はそう呟いた。
「お前……一体…………!」
鋭い爪を持った両手で自分の首を締め上げ始めた化け物は、リク、リク、と呻き声をあげる。
そんな異様な光景に言葉を失ったのも束の間、リクはそれに気づいてしまった。
「なんで……なんでお前がそれを…………!」
化け物の首元で輝くのは、満月のネックレス。
今も握っているリクの三日月とお揃いのネックレス……。
『リ……ク……コロシテ……コロシテ!』
「……!!」
呻き藻掻く化け物は、リクに向かって死を拒む。
何がどうなっているのか分からないリクは、本能と言うべきかゆっくり立ち上がり、
その歪な体を抱き締めた。
理由は簡単だった。
彼女が泣いていたから――
「大丈夫だ。大丈夫。お前、エリス……なんだろ? 大丈夫俺がいる。お前を誰にも殺させないし、俺はお前を殺さない。逃げるぞエリス、大丈夫だから」
『ウウウ! ウウウウ!!』
抱き締められ、涙を流す化け物――エリスは、首を横に振り、湧き上がる化け物としての本能に抗い続ける。
それでもリクは離さない。
今も心のどこかでこの化け物がエリスじゃないかもしれないと疑う心もある。でも、泣いているから、彼女が助けを求めているから――
リクはエリスに微笑みかける。
「今度隣町にネックレス用のケース買いに行こう、ダンジョンとか行くようになって汚れたら困るだろ?」
『リ……ク……ウウウウ、リク……』
エリスの涙は止まらない。自分がしてしまった罪はいくら化け物の理性であったとしても、許されない。それでも少し思ってしまう。
まだこの人と一緒にいたいと。許して欲しいと。
「なぁ、エリス。俺も人を殺しちまったんだ。大盾のあの人殺したの俺のせいだ……。だから2人で償おうぜ? 大丈夫1人じゃない、お前は1人じゃないから」
『リク……リク……!』
暖かい熱がリクからエリスへ流れ込む。
辺りは燃え盛り、リクとエリスの二人の世界が出来上がる。
「よし、行くぞエリス」
『ウウウウ、ウウウウ』
いつ化け物としての理性に負けてしまうか恐れたエリスが、呻き声と共に抵抗を見せる中、リクは構うことなくあっちの方に逃げようと指を指す。
「大丈夫お前に殺されるなら本望だ」
そう笑いながら振り返った時だった。
「そこの君もう大丈夫だよ……。私が殺すから――」
エリスの背後で、黒髪のヒューマンは太刀を頭上に構え、そう呟いた。
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