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魔法と泣き声


「はぁ、はぁ、くっそ、何だこの貧弱体力は!」


 丘を降り、息を上げるリクは自分の体力の無さに舌打ちをする。

 今まで魔法の練習だけをしてきたリクに体力なんて微塵も無かった。


「くそ、エリスはどこだ……」


 今も懸命に立ち向かう街の冒険者を横目にリクは、エリス! とあらん限りの声を上げる。その間にも、為す術なく蹂躙される冒険者達。その背後で逃げようものなら、瞬時に化け物の小尾攻撃で一掃されてしまう。

 断末魔と鳴き声が入り混じる地獄の空間。


「アイツの事だ、今もどこかにいるはず……」


 正義感と優しさに溢れた彼女の性格をリクが一番知っている。何せこんな自分の事も構ってくれるのだから。

 本当お人好しな奴だよなと無理に笑ったリクは、根気で足に力を入れ、走る。

 辺りの燃えた家から流れ出る煙がリクの肺を蝕んでも、懸命に、一歩づつ前へ前へ――


~~~~~~~~~~~~~~~


 数分後、やっと街の中心部に着いたと膝に手をついた時。


 神は簡単に彼を見捨てた。


『ウウウウウウウウウウウウッ!』

「なっ……!」


 それはリクの真上。


 化け物によって振るわれた鋭い爪が建物をなぎ倒し、その瓦礫がリクに向かって襲いかかる。


「動……けぇぇぇぇ!!」


 鉛のように重くなった足を動かそうにも体が竦んで動けない。

 迫り来る死にリクは数多の汗を流しながら必死に藻掻くが、いよいよその時は訪れる。


「くっそぉぉぉぉぉっ!!!」


 瓦礫はリクの目と鼻の先に到達し、己の潰れた未来が流れ込み……。



「させねぇよ」



 ガキンッッ!!!!!!


 刹那――


 大柄な男は己の大盾を構えながら、リクの前に飛び込んでいた。


「大丈夫か少年!! もう大丈夫だ! こう見えても俺はカーリディアからきた冒険者だからなぁ!!」


 そう言って笑った短髪の男は、昨日この街に来たばっかりなのに散々だぜ! と再び笑った。

 あれほど沢山降ってきていた瓦礫は、その男を避けるかのように辺りに落ちていく。


「あ、ありがとうございます!!」

「はっは、良いってことよぉ! さ! 逃げろ少年! 化け物がこっち向いて今にでも殺す気満々だ! ほら早く!」


 めんどくせぇ化け物だなぁ! と笑った男は俺が相手をしている間に早く離れろ! とリクに声をかける。が、リクはそれを拒むように下を向く。


「俺は…………」

『ウウウウッ!!!』

「何やってるんだ少年! まさか怪我をしているのか! もう化け物が来ちまうぞ! 根性で逃げろ!!」


 もう時間が無い! と激を飛ばす男に、リクは口を開いた。


「俺も……守りたいんです。だから、俺にも戦わせてください……」


 今も震える手を固く握ったリクは、大切な人を守る為なら……! と右手を突き出す。


「なんだ少年! まさかこの化け物と戦う気なのか! ……はっは! うんうんその顔! 少年! 男だな! 男の中の男だ! 守りたい! その気持ちだけで結構!」

『ウウウウウウウウウウウウッ!』


 そう言って大盾を構え直した男は、じゃあ一泡吹かせるぞ少年! と近づいてくる化け物に向かって一気に駆け出す。

 

「は、速い……! あの人にもしこの魔法をかけることが出来れば……」


 高速で移動するポテンシャルの高い大盾の男に全てを託そうと、リクは目を瞑り集中する。

 首にかかったネックレスがじんわりと温まって行くのを感じながら、リクは魔法が成功するイメージと、守りたいという執着を右腕に乗せる。


「全て、ここに俺の全てを捧げてやる……! 俺に力を貸してくれエリス! 溢れやがれ俺の魔力! (リア)ァァァァッッッ!!!!!」

「少年! なんだそのパワー! 面白い! 面白いぜ!!」

『ウウウウッッッ!!!!』


 巨体を高速で動かした化け物は、大盾の男に向かって小尾を振るうが、男は大盾でその攻撃を去なし、見たことも無い魔法を行使するリクの方を見て、ニヤリと口角を吊り上げる。

 そんな猛攻を繰り広げる大盾の男にリクはその力を放とうと右手に力を込め――



 数秒後――



 それは見事に成功という形で現れた。



「……な、何だこの光!」


 リクの右手は黄色に輝き、漲るパワーが溢れ出た。


「これが魔法……なのか?」


 初めて味わう感覚に感動したのと同時に、黄色の輝きは一直線に大盾の男の方に伸びていく。

 化け物もその異常な力に戦いたのか、呻き声を上げながら後ずさる。


「あ、後はお願いします!」

「ああ! 任せろ少年!! 少年の気持ち受け取るぜぇ!!!」


 最高だ! と大盾事黄色の輝きに突っ込もうとする男。それに対しリクは、頼みます! と期待の眼差しを向ける。


「よし! 行ける!」


 魔法成功の喜びと微かに見える勝機に笑みを浮かべたリク。

 そしていよいよ輝きが大盾の男を包もうとした時。




 輝きは男を避けるように曲がった(・・・・)





『ウウウウウウウウウウウウッッ!!!!!!!!!!』





「は?」

「なっ……!」


 輝きは大盾の男の後ろにいた化け物に向かって収束し――


『ウウウウッッッ!!』

「……ッ! ガハッッッッ!!!!!」

「……え」


 輝きに包まれた化け物の威力は凄まじかった。

 瞬時に振るわれた小尾は大盾を豆腐のように砕き、男もまた粉々に引き裂いた。

 血の雨が降る。


『ウウウウ……ウウウウッッッ!!』


「俺は……何を…………」


 膝から崩れ落ちたリクは、混乱する頭で考える。

 自分が今何をしたのか、何が起きたのか、この後どうなるのか……。

 何もかも解決されない中、化け物だけは呻き声を上げた――











『リ…………………ク………………………………』



 

お読み下さりありがとうございますー!

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