エリス
「はい! もう1回!」
「さざなみゅ、ここにょのままに――」
「はい、もう1回……」
都会から大きく外れた田舎街――
十五歳のオオクボリクは、今日も魔法の練習をしていた。
「やっぱこれ、俺には無理だわ……」
「なんで諦めるの! まだまだこれからだよ!」
「逆にお前はよく俺の事見捨てたりしないよな……」
何年かかっても滑舌のせいで魔法を習得出来ないリクは、街の人から嫌われていた。
この街において魔法は絶対的な物で、魔法が使えない者は人間としても見て貰えないからだ。
「だってリクは魔法使えるようになりたいんでしょ?」
「そりゃそうだけどさ……」
「じゃあ私が諦める理由無いじゃん! 努力してる人を見捨てる意味が分からないでしょ?」
「お前ほんとお人好しだよな……」
「そういうのじゃないもん……リクだからだし」
「ん? なんか言った?」
「なんでもありませーん、ほら早く続き!」
「へいへい」
妙に頬を赤く染める少女――エリスは、緑髪のツインテールを今の感情を表しているかのようにゆらゆら揺らしながら、ぷくっと頬を膨らます。
それに対しリクは、変わったヤツだなほんと、と苦笑しながら手に持った魔法書を読み進める。
そんな日々がもっと続くと思っていた。
この時までは――
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「リクー! 見て見て! これ可愛いでしょ!」
「ん? なんだこれ、ネックレス?」
「そう!」
ある日、エリスは緑色に輝く宝石が付いたネックレスを手に持ち、意気揚々とリクの家(廃墟)に訪れていた。
「それにしてもよくこんな所まで来るな……」
「そんなこと言うなら街の方おいでよ
!」
「行けるもんなら行きたいわ!」
くそが! と唾を吐いたリクはとりあえず中入れよと、エリスを家の中に入れる。
ちなみにリクの家は街から少し離れた丘の上にあり、嫌われ者にとって絶好の場所だ。
そんな廃墟に、おじゃましまーすと、朽ちた扉をメキメキ言わせながら入ったエリスは、相変わらずボロボロだね! 犬小屋みたい! と笑い、リクのチョップにより裁かれる。
「……んで、このネックレスがどうしたんだよ、まさか自慢しに来ただけじゃないだろうな……。 冷やかしなら帰れ! 俺が金無いからって!」
「ち、違うもん! じゃあ見ててこれ!」
椅子などない腐れた家で、床に仲良く座る二人は、エリスの持つネックレスを凝視する。
「えいっ!」
「うわ! なんだこれ、半分に割れやがった」
力いっぱいネックレスをデコピンしたエリスは、ほら見て見て! と三日月の形と満月の形になったネックレスを見せびらかす。
「だから最初変な形してたのか……、でこれどうすんの」
「んー? もちろんリクに半分あげる! この三日月の方ね!」
「なんでだよ! どうせ貰うならその満月の方がいいんだが」
「ダメ! リクは三日月で、私は満月――私にお似合いなのは満月だから」
謎の意地を見せるエリスに、よく分かんねーなーとため息を吐きながらも、ま、綺麗だしいっかとリクは慣れない手つきでネックレスを付ける。
「てかこのネックレス、付けててなんか良い事あんの?」
「ん? 分かんない!」
「いらねぇ……」
無価値なもんよこすな! と怒鳴るリクに対して、お揃いなのがいいの! と不貞腐れるエリス。
恋愛のれの字も知らないリクにとってペアネックレスは少し早かったようだ――
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