唯一の魔法
「おいこらぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
地下室の扉を勢いよく開けたリクは、中でバタバタ暴れる何者か(いや大体分かるけど)に激を飛ばし――
叫んだ――
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁっっ!! おまおまおまおま! 蜘蛛ってモンスターの事かよぉぉぉぉぉっ!!」
『ギギギギギギッッッ!!!』
「辞めてぇ! 私の服食べないでぇぇ!!!」
阿鼻叫喚――
何から言うべきなのだろうか。
リクが開けた瞬間目に飛び込んできたのは、先程のツインテールの子が蜘蛛のモンスター、マッドスパイダーに服を食べられる意味の分からない絵面。
モンスターがいる事、案の定ツインテールの子がいる事、服がはだけてめちゃくちゃ卑猥な事――
「いやもう何が何だか分からんが俺は逃げるっ!!」
「ちょっと待ってよー!!」
『ギギギギギギギギッ!!』
そんな化け物、相手に出来るかァァッ! と部屋を飛び出したリクに対し、半泣きの女の子は、ちょ、助けてよぉぉ!! と嘆き続ける。
「まずいまずいまずい! これバレたら本気で捕まる!!」
整備が整ったこの街にモンスターが現れる事など許されない。完璧とまで言える設備をも凌駕するこのイレギュラー。全ての原因はダンジョンを開けてしまったリク。そして直ぐに報告しなかったリクの原因。
全てリクのせい――
「ってふざけんなぁぁぁ!! アイツだ! アイツが俺の地下室に入るからだ!!」
はい出ました人のせい。
リクお得意の言い訳を誰も聞き入れる訳が無い、そしてまたそれを一番理解しているのはリクだった――
「くそ! 俺の力……俺の全力を見せてやるよっ!!」
階段をかけ登った先にある己の短剣を握ったリクは、激昂しながら地下室に戻る。
勝てるかどうかは分からない、ただ、何もしないで負けるのは嫌だった――
「おい、俺の家で何勝手に暴れてんだァァ!!!」
再び戻った地下室でリクは、その光景を見てまたもや意識を失いそうになった。
「きゃぁぁぁ! もう出ちゃう! もうダメ! 乳首がぁぁ! ああぁぁぁぁぁんっ!!」
『ギギギギギギギギッ!!』
「ふぁ!?」
いやもうギギギギとか言ってる場合じゃねぇだろ!! と怒鳴ったリクは、見てませんからねぇ!?と乳首から目をそらしながら短剣を握りしめ、マッドスパイダーに向かって考え無しに飛びかかる。
「くっそ! とりあえずお前は死にやがれぇ!!」
『ギギ』
「――なっ!」
刹那――
マッドスパイダーは伸ばした。
その先の尖った鋭利な足を――
「いっ!!!」
『ギギギギギギギギッ!』
その攻撃は回避する手段を失っていた生身のリクにとって、死へと誘う痛恨の一撃だった。脇腹を貫いた足からはマッドスパイダー特有の猛毒が流れ込み、体が紫色に侵食され始める。
「くっそ……がはっ!!」
痛みと毒による痺れで情けなく膝から崩れ落ちたリクは、ざけんなっ……! と今もこちらを見つめるマッドスパイダーを睨みつける。
「ちょっと君! 大丈夫!?」
リクのおかげで開放された女の子は右腕で胸を抑えながら、乱れたツインテールをも無視して声を上げる。
「くっそ……逃げ……ろ…………俺を置いて……逃げろッ!!」
『ギギギギギギギギギギ!!』
「――っ!」
それはリク自身でもよく分からない気持ち。
まるでその子を誰かと被せる様に、リクは本能のままに動く。
『ギギギギギギギギギギッ!』
「あんまり……俺を舐めんなよ!」
『ギギ!?』
地面に這いつくばりながら右手を上げたリクは、己にある、唯一の魔法に手を伸ばす。
「絆――」
かつて誰かに使ったことがある気がする甘い匂いを嗅ぎながら、リクは黄色に輝く光を女の子に託した――
魔法【絆】
対象一人の力を増幅させる――
◎$♪×△¥●&?#$! ◎$♪×△¥●&?#$!
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