空腹とツインテール
「腹減った死ぬ……」
メインストリート――
商店街の出入口にある巨大な噴水の前に座っていたリクは、絶望的な空腹に襲われていた。
「終わった、ダメだ、終わった」
ぐぅとなり続けるお腹を摩ったリクは、もう何も食べないで二日経つじゃんと、最後に食べたカビの生えたイモを思い出す。
まともな食生活を送らずに来たリクにとっては当たり前の食事だが、普通の人が食べたら即お腹を壊す代物だ。
「はぁ、なんか良い事ねぇかなぁ」
そう嘆息を吐きながら、ベンチの背もたれに寄りかかった時だった――
甲高い声と憤怒の声が街に響き渡る。
「あわわ! ごめんなさいごめんなさいー!!」
「待てぇぇ! 国家転覆で逮捕するー!!!」
「ごごごごめんなさいってぇぇぇ!!」
「なんだありゃ」
それは丁度商店街がずらりと並んだ一本道。
超絶大きな胸を揺らすワインレッドの赤髪をツインテールにした女の子は、ギルド職員によって派遣された冒険者に追いかけられていた。
「いやでっか!!!」
ボインというかもうバインの域に到達したその胸に釘付けになりながらも、リクはその身のこなしに魅せられた。
「ふっ!」
「あ! あいつまた屋根に!」
それは冒険者でもなかなか到達できないであろう身体能力。一瞬で加速し、街の人をかわしながら屋根に跳躍。今のリクが何かやろうとしてもずっこけて終わりだろう。
そんな異常なハーフエルフの女の子は、その小さく尖った耳を真っ赤にしながらぴょんぴょんと屋根を飛び越えていく。
「す、すげぇぇぇ!!」
あっという間に小さくなっていく女の子を見て目を輝かせるリク。
そしてそのすぐ目の前を、ちくしょう! すばしっこい奴め! と頭に血を昇らせたビーストの冒険者が、どけどけ! と住人を掻き分けながら住宅街へと消えていく中、リクはある決断をしていた。
「あの人捕まえて金にしよう!」
最低である。
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「くっそ、どこに行きやがった! 俺の金!!」
約一時間走り続けたリクはまだ諦めていなかった。
路地裏に飛び降りた辺りから完全に見失っていたのだが、まだいるはずだと住宅街を駆け抜ける。
「くそぉ、もう少し足が速ければ!」
人並みの速度しか出せないリクにとってそれは無謀な事、
ただ、
「まだ諦めねぇぞ!!」
その化け物じみた体力は誰にも負けない取り柄だった。
剣術を教えてくれる人もおらず、何もかも一人でやってきたリクが毎日欠かさずしていたもの、それは、
走る事――
「俺の底上げされた体力舐めんなよ!!」
相変わらずピカピカ光る防具と共に、まだまだぁぁ! と足を動かしたリクは最早疲れを知らないイノシシそのものだった――
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