新米冒険者
オオクボリク十八歳――
彼は今日、初めてダンジョンに潜ります。
「き、緊張してきたぁぁぁ!!」
何もかも新品の防具に身を包むリクは、自分が見つけたダンジョンの前でワタワタと右往左往する。
「大丈夫だ! やってやるじぇ冒険者! これで貧乏生活かりゃ脱却してやる!!」
全財産を叩いて買った短剣をガタガタと震える手で装備したリクは、目の前にある巨大な扉を前に唾を飲む。
「くそ……仲間の1人や2人作るんだった……」
ここは大都市カーリディアの人知れない地下。
カーリディアには元々、東の塔と言われるダンジョンがあるのだが、ここは違う、というか分からない。
それは数日前の話、リクが普段寝床にしている今は全く使われなくなった酒屋の地下、そこで魔法詠唱の練習をしていた時――
リクの最大の武器である緊張すると滑舌が悪くなるという力で、詠唱をいつも通り噛んだ瞬間、目の前で謎の光が発生、気づけばダンジョンの扉が目の前にあったのだ……。
「てか本当にダンジョンにゃんだよな……東の塔と扉の形似てるけどにゃんか違うような……」
リクは黒く禍々しい模様が描かれた扉をコツンと叩き、首を傾げながらも、いや、もう行こう……! と覚悟を決める。
「大丈夫。俺は沢山訓練しねぇきた。うん、大丈夫……大丈夫じゃよな!?」
ちなみにリクが仲間を集めなかった理由、それは、
金目の物独り占め出来ないじゃん。
という、死ぬほどダンジョンを舐めた理由だった――
「よし! にょう決めた! 行く! さぁ扉よ、開きたたたたたまえ!!!」
ビビっても仕方ない! と空いた左手で扉を押したリクは、うおおおおと力強く押し続ける。
が、
「いや、あっかねぇぇぇぇ!!!」
めちゃくちゃ重かった――
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「……誰かサポーターをやってくれる人はいませんかぁ……。誰かぁ――」
冒険者ギルド――
性別、年齢、種族、多種多様な冒険者が訪れるその場所で、リクは涙ながらに仲間集めを始めていた――
「よお同胞! そのサポーター請け負ってもいいが、報酬はなんぼなんだい?」
「ゼロです」
「てめぇぶち殺すぞ!!!」
「ひいいいいいいっ!!」
そんな哀れなリクの前に現れた大剣を背負ったドワーフの男は、リクの訳の分からない返答に、舐めてんのかッ! と怒鳴りつけ、プンプン怒りながら他の依頼者の元へ行ってしまう。
「……だって防具とこの剣に全財産使っちゃったんですもん!!」
払いたくても払えねぇんだよ! と嘆くリクは、半ば諦めながらもまだまだ声を出す。
「誰かァァァァァァッ!!!」
そんな恥を知らない大声に周りの冒険者がビクッと肩を震わせる中、リクは改めてギルドの中を見回し、言葉をこぼす、
「それにしてもホントすごいなここ……」
さすが大都市のギルドと言ったところか、ギルドの中は白をベースとした壁に大理石の床、綺麗なギルドマネージャーに受付嬢、二階には有名鍛冶師の鍛冶屋にアイテム屋、どれをとっても抜け目のない豪華な施設。
もう何度も修羅場をくぐり抜けてそうな冒険者とは打って変わって、真新しい防具に身を包んだリクは浮きまくりだ。
「見てあの子、可愛いー。新人ちゃんでちゅかー?」
「辞めなよ、可哀想だよ」
「えー、でも見てあれ、どう見てもあの防具レプリカでしょ、まじウケるんですけど、ぷぷ」
「え、それは教えてあげないと……」
遠くの方でそんなやり取りをするヒューマンの女性二人に、リクは耳まで赤く染めあげながら、お前レプリカなの!? と自分の胸当てに話しかける。
「あ、あのぉ、その防具って……わざと付けているんです……よね?」
「~~~~~~~~~~っ!」
そうリクを心配するように声をかけてきた黒髪ショートヘアのヒューマンに、え、あ、はい! もちろん! と声を上ずらせたリクは、わざわざありがとうごにゃいますー、失礼きますー! と全速力でギルドを後にした――
「何処かで見たことあるような……」
今も隣で大爆笑している仲間とは裏腹に、黒髪の女性は心配そうにリクの背中を見つめ続けた。
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