⑦周囲【実咲のクラスメイト・菜摘視点】
昼休みはそれなりに長い。
校則的には違反でも、誰かしらお菓子を持ってくる。それを皆で回すのはよくあることで、先生も黙認している。
女三人集まれば、『姦しい』。
そして私だけでなく皆、大抵恋バナが大好きだ。
「随分仲良くなったよね~」
「……まあ、あれだけ一緒にいりゃ多少は」
最近の話題は実咲に集中する。
実咲に告白し、フラれても尚健気に頑張る一年生のワンコくん……依田 輝くんのことだ。
「つーか毎日進捗を聞かれても、変わるわけないだろ」
実咲はそれに塩対応だけど、しつこく聞かれても仕方ない。
あんな可愛いワンコくんが放課後毎日毎日忠犬ばりに待っていれば、そりゃ気になって当然ってモンでしょ。
「いやいやいつ何が起こるかなんてわかんないからね!」
「ふたりが付き合ったら私バルバロッサ大佐とアルフレッドくんの衣装作ろうっと!」
「なにそのイカレた発想? 着ないからな……」
「ほほう……『付き合わない』とは言わないあたり、脈アリ!!」
「…………!?」
なんだかんだ言うけど、実咲も満更じゃないのでは……と思う。
なので皆、時折からかいつつも、生暖かい目で見守っているところ。
──ダダダダダダダダッ
「──先輩!」
そこに騒々しい音を立て、男子が入ってきた。
上履きの色から一年生と判明。
女クラなので男子が来ると目立つ。
目立つ以上に、女の園であるここに来るのは同学年である三年生男子にもハードルが高いというのに……なかなかの猛者だ。
つーか『先輩』って。
全員先輩だろ。
「麻生先輩!!」
予想通りワンコくん絡みだが、その様子は尋常ではない。
私を含め、ユルい感じで成り行きを見ていた皆もそれに気付き、場の空気が変わる。
「輝が倒れてッ……今保健室に!」
「!! ……みさっ」
──『実咲』と私が名前を呼ぶ前に、彼女は既に走り出していた。
「……流石、運動神経バツグン~」
つーか、もう絆されてんじゃん?
「あれは付き合うのも時間の問題……」
皆、思うところは私と一緒の模様。
「──ヤバ! 私急いで衣装つくらなきゃ!」
「ふふ……リアル・アル×バルも時間の問題ね! 負けないわ倉田さん!」
ウチの学校に漫研やそれに近い部活はなく、その代わり美術部にヲタが集まっている。
『美術』と称し、部費を使いコスプレ衣装を作るのはあるあるだ。
しかし……なんだか争っているようなのが若干気になる。
「なになに~?」
詳細を聞くと、どうやら『仮スパ』をワンコくんに貸したという一年生の貴腐人・倉田さんは『バル×アル派』らしい。
腐沼に落ちた者にとって、攻めと受けの位置関係は超重要。
次のイベントでどちらが売れるかの勝負をしているそうだ。
こいつら……ふたりを利用する気満々だな?
「……まあ、私は逆カプ(※攻めと受けの逆転)でもリバ有(※攻めと受けを固定しないこと)でも大丈夫なんで問題ないけどね♡」
私はそう微笑み、薄い本とコスプレ衣装の制作を応援する。
創作にかける情熱……素晴らしい。
『アル×バル』本も『バル×アル』本も、どちらも買おうじゃないか。
「菜摘って……本当、立派なヲタになったよね~」
「ふっ……そんなに褒めるなよ」
私は机の上の菓子をひとつ摘み、ジョ〇ョ立ちを決めた。
「褒めてないよ」
「……恐ろしい子ッ!」
私はジョ〇ョ立ちのまま、いずれ恋人になる保健室のふたりの為に時が止まるよう祈った。
『ザ・ワールド!!』
使い方としては違うと思うが、そんなのは些細な問題である。単なるノリだ。