⑥周囲【輝のクラスメイト・倉田視点】
「倉田さん!」
休み時間になると、依田くんは私の席に『仮スパ』バルバロッサ大佐攻略のヒントを聞きに来るようになった。
手にはメモ。真剣そのものだ。
一度攻略本を貸そうかと勧めたが「自力で仲良くならないと意味無いから! ヒントだけで!!」と頑な。
そんなところにキュンキュンする。
ひたむきで一生懸命……明るくて誰にでも優しい彼は皆の人気者。
見た目はスラリとした、爽やかイケメン。
なにもかもが似ている。
──そう、『秘密の第三王子・アルフレッド』くんに!!
第三王子であるアルフレッド。
彼は身の安全の為に幼少期に儚くなったことにされ、物心つく前に王家の馬の飼育役の息子として育てられることとなった。
素直で人懐っこく育った彼にはツンデレ王太子も腹黒第二王子もデロ甘で……『アルフレッド総受け本』は『仮スパ』BL界隈ではメジャー。
なにしろ彼は、自身の秘密を知りショックを受けたあとで、「すこしでも王子……いや、兄様達のお役に立ちたいです!」と仕官を願い出るという天使のような子。ついでに動物にもやたら好かれる。
そりゃ愛でるわ~。
愛でずにはおれぬわ~。
だが仕官は許されず……密かに森で稽古に励むという健気さ……ッ!(力説)
そんな彼が尊敬して止まない相手が、生真面目で無口でどちゃクソ強い、バルバロッサ大佐である。
アルフレッド総受けもアリだが、『バルバロッサ大佐×アルフレッド』こそ、私の推しカプ……
第三章突入前の回想エピソードムービーでの、アルフレッドくんの大佐に向けた台詞が堪らない。
『ようやく僕を、一人前の男として認めてくださるんですね!?』
全腐女子があれを恋愛的な意味と捉えている。
その全腐女子の中のひとりこそ私である。
そんな貴腐人たる私が、大佐に憧れているという麻生先輩を知らないわけが無い。
麻生先輩……その存在は私に『女体化萌え』という新たな性癖を開眼させた。
アリだ。うん、全然アリ。
その上心の中で密かに『リアル・アルフレッドくん』と呼んでいた依田くんが先輩を好きだと言い出した……なんたる運命ッ!!
それは私の秘めたる更なるポテンシャル(※腐の)を目覚めさせつつあった。
有り体に言うと、二次創作である。
そして湧き上がる欲望……
(どうにかふたりにコスプレをさせられないかしら……)
思い付いた──『リアル・女体化バルとリアル・アルが、バル×アル本を売る計画』。
ふたりなら見た目的にも確実にクオリティが高く、キャラも理解している。
……これは売れる。
「……倉田さん?」
「──ハッ!!」
そんなことを考えていると、純粋に心配そうな依田くんの瞳。
時間を取らせたと申し訳なさそうに謝罪し、なにかあるなら自分も聞くと優しく言う。
「いやごめんちょっとぼうっとしてただけだから!! 続けて続けて!」
「そう……?」
なんかこう、罪悪感が凄い。
(やっぱりやめとこう……)
……でも売り子はともかくコスプレはちょっと見たいな~。
なんかいい方法ないかな~。
……攻略のヒントの代わりにお願いしてみようかな~?
そんなことを考えていた私に、チャンスが舞い込んだ。
「──そうじゃないだろ輝!」
クラスの男子達が、依田くんの行動に異を唱えたのだ。
「全然先輩と進展してないじゃん!」
「そうだ! ゲームなんて攻略本でサッサとクリアしちゃえよ!! 相談するならもっと別の……」
「何を言う!!」
依田くんはキリッとした顔でこう宣言した。
「僕は自力で大佐と仲良くなる!!」
「既に目的変わってない!?」
ご褒美腐発言……じゃなくて。
(これは……いい流れ!)
思わず私の眼鏡も光るところ。
……輝だけに。ナンチャッテ。
「大体お前、ゲーキャラを参考に先輩と仲良くなる予定じゃなかったのかよ?!」
キタ━(゜∀゜)━( ゜∀)━( ゜)━( )━!!!
大チャンス!!
「それは名案だけど駄目よ!!」
「えっ」
「倉田さん?!」
「名案なの!?」
そして私の萌主張が始まる。
普通民を味方につけたいので、極力控え目に、且つわかりやすく説明を心掛ける。
「アイデアはいいと思うんだけど、依田くんって大佐っぽくないし……そういうの、ゲーム好きは嫌うから。 先輩はこのゲーム自体好きだから、中でも依田くんにもっとピッタリのキャラを選んだ方が良いと思うの!」
普通女子を装ったバリ腐の私の意見に、男子達は「なるほど~」「流石倉田さん!」と納得してくれた。
肝心の依田くんはと言うと……
「僕に……ピッタリのキャラ……」
自分自身だからか、直ぐにはイメージできていない様子。
……こんなにも似ているのに。
(アルフレッドくん!)
(アルフレッドくん!!)
私の後方で腐仲間達が期待に心踊らせているのを、背中にひしひしと感じる。
──まずはこれにかこつけて依田くんのアルフレッドコス。
きっと……いや、絶対似合う。
加えてアルフレッドの告白台詞で迫れば、流石の先輩もイチコロよ!
(そして告白ついでに先輩にバルバロッサ大佐コスのお願いも……)
「倉田さんが言うならそうなんだろうけど」
「そんなキャラいるの?」
「いるよ!!」
「──そうか! 大佐に憧れる……」
キタワァ━━━━(n'∀')η━━━━━!!!!
『今はまだ頼りないガキかもしれない……でも、僕……強くなるから!!』
私と腐仲間達の脳内に過る、アルフレッドの名台詞。
(((そう、やっぱりアルフレッ)))
「……主人公!!?」
「「「え────────?!」」」
確かに間違ってないけど!!
ヒロインって結局自分だからね!!!!
訂正をしようとしたが、何故か男子達は依田くんの発言に納得し、乗っかった。
「なるほど……確かに先輩はヒーローっぽく、お前の方がヒロインっぽいな」
「ああ、助けられてるしな」
「つーかヒロインってなにすんの?」
最早入っていけない感じに。
(まあでもヒロイン……女装子……)
「……それはそれでアリじゃない?」
「あ、私もちょっとそれ同意」
私達はそこで落ち着き、一旦男子達を静観することにした。
「ヒロインって言ったらやっぱりピンチじゃないの?」
「誰か不良のフリして輝に絡んでみるとか……」
「体育倉庫に閉じ込めるとかどう?」
チープではあるが悪くない発案……
だが、そもそも『自分で頑張りたい』依田くんである。
「いや、気持ちは嬉しいけど……」
余計な手を出されたくない彼は、皆に気を使ったやんわりとしたお断りの言葉を述べつつ、男子達の方に歩み寄ろうと席を立つ。
「──あ……」
立ちくらみか、少しよろけた依田くんは、机の足に蹴つまづき
──バターンッ!!
「「「輝!」」」
「「「依田くん!?」」」
思いっ切り倒れた。