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⑤理由【輝視点】


先輩に好きになった理由を聞かれた!


(えっ、なんでなんで?!)


先輩の意図がわからず、期待と不安に胸が激しく高鳴る──


──と同時に、何故か僕の脳内に『仮スパ』主人公(ヒロイン)の口調で書かれたゲーム画面の台詞コマンドが浮かんだ。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

【ヒカル】

先輩に『好きになった理由』を聞かれたわ!


→ここは素直に答えなきゃ!

恥ずかしいから誤魔化しちゃおう。

なんでそんなこと聞くのかしら……

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


しかし僕はゲームキャラではない。


「あああの、」


僕はしどろもどろになりながら、リュックの中を漁った。

すぐ出てくる筈なのに、出すのに苦労したそれは──


「……ハンカチ?」

「それ……ッ、先輩がくれたヤツです!」




告白の1ヶ月程前のこと。

移動教室の帰りに、筆箱を忘れたことに気付いた僕は、友人にそれを告げて階段を駆け上がった。

しかし、一番上の段で足を滑らせてしまい、あわや真っ逆さま……というところで、誰かに腕を前に引かれた。


「──へぶっ!?」


そのまま顔面を強打し鼻血が出たが、おかげで後頭部強打の危機は回避……

お礼を言おうと顔を上げると、そこには


「あー……悪い。 だが、階段落ちよりはマシだろ?」


そう言いながらハンカチを僕に差し出す女性。

心臓が、ドクン……と大きく鳴ったことを今でも覚えている。


「──」


時が止まったかのように視線は釘付けになり、身動きできない僕。

鼻に手を当てている僕の手と、鼻の隙間にハンカチを差し込むと、その人は『返さなくていいから』とだけ言い残し……名も告げず、颯爽と去っていった──


それが先輩だった。


そのカッコ良さと優しさ。

我に返った時、僕の胸には初めて聴く音が鳴り響いていた。


ハンカチからはフワッとした柔らかな匂いがし、慌ててこれ以上血が付かないようにポケットにしまった。

とてもじゃないが、勿体なくて使えない。

それからは、お守り代わりにいつも持ち歩いている。




など、気が付いたら僕はめっちゃ語っていた。


「1ヶ月経っても先輩のことばかり考えていた僕は『これは間違いなく恋だ!』と確信し、早速告白して今に至…………先輩?」


ふと見ると、先輩はなんだか遠い目をしている。

そして、こう言った。


「スマン、多少は覚えているが……正直あんまし覚えてない」

「えっ」


僕にはヒーローであり天使に見えた先輩。

だがその先輩(ご本人)にとっては大した事でもないらしく、『鼻血って久々に見たからちょっとは覚えてる』程度でしかなかった様子。


「つーか、君は……少女漫画かなにかのヒロインなのか?」

「ええっ!」

「いや~……お姫様抱っこで保健室に運んだりできなくて、なんか……逆にゴメンな?」

「ええええっ?!」


何故かヒロイン扱い……いやこの場合『呼ばわり』の方が正しいかもしれない。

──ヒロイン呼ばわりされる僕。


先輩は小さくため息を吐きながら「なんてベタなんだ……」と呟いていたが……


『ベタ』ってなんだろう。謎だ。




ゲームの方はと言うと、バルバロッサ大佐は相変わらず塩対応……完全に行き詰まっていた。


『お前にそんなことをしている余裕はない筈だ……』


「ああん! また断られたぁッ!! ううっ、ワタシのなにが悪いというの……」


大佐の気持ちがわからない。

しかし先輩からアドバイスは既に聞いてしまった。何度も聞いて『コイツわかんねぇヤツだなぁ~……』とか呆れられたくはない。


(そうだ、ここは倉田さんにアドバイスを聞いてみようか……)




そう思った僕は翌日、さっそく倉田さんにアドバイスを求めてみた。

ゲーム状況に加えて、先輩からのアドバイスも説明すると、倉田さんは物凄く納得した様子で頷く。


「あ~流石は先輩、上手いこと言うなぁ」

「えっ、倉田さんすぐわかったの?」

「まぁね!」


倉田さんは眼鏡を上げながら、不敵に微笑む。


「ふふふ……先輩に則したかたちで言うならねぇ……大佐はやることをやらない人は、相手にしてくれないんだよ」

「──……あっ」


お断りの台詞はずっと『お前にそんなことをしている余裕はない筈だ……』だ。


「もしかして……『バルバロッサ大佐の好感度を上げるには、他の人からのスキルも一定値獲得しなければダメ』ってこと?!」

「そうそう!」


バルバロッサ大佐は非常に真面目な方なのだ。

自分が教えていることだけではなく、他のこともちゃんと学んでいなければ共に遊びなど行かない……多分そういうことなのだろう。


先輩のアドバイスは的確だった。

自分で答えを導き出せなかったことが悔しい。


「依田くん、恋は時に視野を狭くさせるモノよ……」

「倉田さん……」


ちょっと落ち込む僕に、倉田さんが励ましの言葉を送ってくれた。そして、それは段々と勢いを増す。


「これから頑張ればいいじゃない! ゲームも……リアルも」

「倉田さん……!」


「私貴腐人だけど女体化(にょた)も全然イケるしリアル・バル×アル誘い受けとかめっちゃ萌える!! ……超応援してるから!!」

「ありがとう倉田さん!!」


申し訳ないことに、一部早口で何を言ってくれたのかがよくわからなかったが……

応援してくれていることだけはわかった。嬉しい。


「僕頑張るよ!」

「今日も先輩を待って帰るの?」

「うん、勿論!」


笑顔でそう答えると、「想像するだけで(たっと)い……」と呟かれた。


『たっとい』ってなんだろう。謎だ。




皆、難しい言葉を沢山知っている。

考えてみれば『ヲタク』って『専門家ではないのに、なにかにとても詳しい人』だもんなぁ……


ヲタクって凄い。

これがクールジャパンだろうか。(違)


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― 新着の感想 ―
[一言] 「女体化」にょたっていうのか! 初めて知った!! やるときゃやる男じゃないと相手にしてくれないわけですね。 いや〜衣田くんガンガレ〜〜〜〜〜〜〜〜ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
[一言] ぶるうちいず先生「倉田さん!!(固い握手)」 からのたっといキターーー!!!!(大歓喜) マジでたっといぜ( ˘ω˘ )
[一言]  うん……傍観者からすると、とても魅力的な見世物かもしれない。  パンピーには、何言ってるかわかんないよね。  あの使い方の時に「たっとい」って読むの、知らなかった…。ずっと「とうとい」だと…
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