⑤理由【輝視点】
先輩に好きになった理由を聞かれた!
(えっ、なんでなんで?!)
先輩の意図がわからず、期待と不安に胸が激しく高鳴る──
──と同時に、何故か僕の脳内に『仮スパ』主人公の口調で書かれたゲーム画面の台詞コマンドが浮かんだ。
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【ヒカル】
先輩に『好きになった理由』を聞かれたわ!
→ここは素直に答えなきゃ!
恥ずかしいから誤魔化しちゃおう。
なんでそんなこと聞くのかしら……
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しかし僕はゲームキャラではない。
「あああの、」
僕はしどろもどろになりながら、リュックの中を漁った。
すぐ出てくる筈なのに、出すのに苦労したそれは──
「……ハンカチ?」
「それ……ッ、先輩がくれたヤツです!」
告白の1ヶ月程前のこと。
移動教室の帰りに、筆箱を忘れたことに気付いた僕は、友人にそれを告げて階段を駆け上がった。
しかし、一番上の段で足を滑らせてしまい、あわや真っ逆さま……というところで、誰かに腕を前に引かれた。
「──へぶっ!?」
そのまま顔面を強打し鼻血が出たが、おかげで後頭部強打の危機は回避……
お礼を言おうと顔を上げると、そこには
「あー……悪い。 だが、階段落ちよりはマシだろ?」
そう言いながらハンカチを僕に差し出す女性。
心臓が、ドクン……と大きく鳴ったことを今でも覚えている。
「──」
時が止まったかのように視線は釘付けになり、身動きできない僕。
鼻に手を当てている僕の手と、鼻の隙間にハンカチを差し込むと、その人は『返さなくていいから』とだけ言い残し……名も告げず、颯爽と去っていった──
それが先輩だった。
そのカッコ良さと優しさ。
我に返った時、僕の胸には初めて聴く音が鳴り響いていた。
ハンカチからはフワッとした柔らかな匂いがし、慌ててこれ以上血が付かないようにポケットにしまった。
とてもじゃないが、勿体なくて使えない。
それからは、お守り代わりにいつも持ち歩いている。
など、気が付いたら僕はめっちゃ語っていた。
「1ヶ月経っても先輩のことばかり考えていた僕は『これは間違いなく恋だ!』と確信し、早速告白して今に至…………先輩?」
ふと見ると、先輩はなんだか遠い目をしている。
そして、こう言った。
「スマン、多少は覚えているが……正直あんまし覚えてない」
「えっ」
僕にはヒーローであり天使に見えた先輩。
だがその先輩にとっては大した事でもないらしく、『鼻血って久々に見たからちょっとは覚えてる』程度でしかなかった様子。
「つーか、君は……少女漫画かなにかのヒロインなのか?」
「ええっ!」
「いや~……お姫様抱っこで保健室に運んだりできなくて、なんか……逆にゴメンな?」
「ええええっ?!」
何故かヒロイン扱い……いやこの場合『呼ばわり』の方が正しいかもしれない。
──ヒロイン呼ばわりされる僕。
先輩は小さくため息を吐きながら「なんてベタなんだ……」と呟いていたが……
『ベタ』ってなんだろう。謎だ。
ゲームの方はと言うと、バルバロッサ大佐は相変わらず塩対応……完全に行き詰まっていた。
『お前にそんなことをしている余裕はない筈だ……』
「ああん! また断られたぁッ!! ううっ、ワタシのなにが悪いというの……」
大佐の気持ちがわからない。
しかし先輩からアドバイスは既に聞いてしまった。何度も聞いて『コイツわかんねぇヤツだなぁ~……』とか呆れられたくはない。
(そうだ、ここは倉田さんにアドバイスを聞いてみようか……)
そう思った僕は翌日、さっそく倉田さんにアドバイスを求めてみた。
ゲーム状況に加えて、先輩からのアドバイスも説明すると、倉田さんは物凄く納得した様子で頷く。
「あ~流石は先輩、上手いこと言うなぁ」
「えっ、倉田さんすぐわかったの?」
「まぁね!」
倉田さんは眼鏡を上げながら、不敵に微笑む。
「ふふふ……先輩に則したかたちで言うならねぇ……大佐はやることをやらない人は、相手にしてくれないんだよ」
「──……あっ」
お断りの台詞はずっと『お前にそんなことをしている余裕はない筈だ……』だ。
「もしかして……『バルバロッサ大佐の好感度を上げるには、他の人からのスキルも一定値獲得しなければダメ』ってこと?!」
「そうそう!」
バルバロッサ大佐は非常に真面目な方なのだ。
自分が教えていることだけではなく、他のこともちゃんと学んでいなければ共に遊びなど行かない……多分そういうことなのだろう。
先輩のアドバイスは的確だった。
自分で答えを導き出せなかったことが悔しい。
「依田くん、恋は時に視野を狭くさせるモノよ……」
「倉田さん……」
ちょっと落ち込む僕に、倉田さんが励ましの言葉を送ってくれた。そして、それは段々と勢いを増す。
「これから頑張ればいいじゃない! ゲームも……リアルも」
「倉田さん……!」
「私貴腐人だけど女体化も全然イケるしリアル・バル×アル誘い受けとかめっちゃ萌える!! ……超応援してるから!!」
「ありがとう倉田さん!!」
申し訳ないことに、一部早口で何を言ってくれたのかがよくわからなかったが……
応援してくれていることだけはわかった。嬉しい。
「僕頑張るよ!」
「今日も先輩を待って帰るの?」
「うん、勿論!」
笑顔でそう答えると、「想像するだけで尊い……」と呟かれた。
『たっとい』ってなんだろう。謎だ。
皆、難しい言葉を沢山知っている。
考えてみれば『ヲタク』って『専門家ではないのに、なにかにとても詳しい人』だもんなぁ……
ヲタクって凄い。
これがクールジャパンだろうか。(違)