④興味【実咲視点】
「今日も待ってんでしょ? ワンコ属性後輩ちゃん♡」
補講明け。
クラスメイトの陽キャ、菜摘が絡んできた。
ウチのクラスは女クラで、三年間ずっと同じ面子なせいか、非常に仲が良い。
中学の頃は『ヲタ・陰キャは排除』みたいな空気があり、陽キャが嫌いだったが……それも私が嫌っていた奴等と同様に、一方的なカテゴライズに過ぎない。
結局は、個人なのだ。
高校がそのことに気付ける環境だったのは、とても運が良かったと言える。
菜摘を筆頭にしたクラスの陽キャ女子達は知らないゲームや漫画に興味津々で、それはマウントをとろうなどといった類のものではなかった。
そこから生まれし化学反応。
ある子はアニメ曲でダンスを踊る有名YouTuberとなり、ある子は沼に落ちて腐女子になり、またある子には……三次元に彼氏が出来た。
「可愛いよね~あの子♡ クラスの皆応援してるんだから!」
菜摘はいい子ではあるが、所謂恋バナが矢鱈と好きなのが欠点。そして──
「それにあの子『仮スパ』秘密の第三王子、『アルフレッドくん』に似てるじゃん! もう付き合っちゃいなよ~♡ 女体化バルバロッサ大佐×アルフレッド! そりゃ薄い本も厚くなるわ!!」
「……やめろ」
──立派なヲタとして開花し、その知識を容赦なく現実の会話に混ぜてくるのが更なる欠点である。
隠語が隠語として成立していない。陽キャはヲタだろうと、やはり陽キャなのだ。
「先輩ッ!」
昇降口で待ち構え、こちらに気付くや否や駆け寄ってきた輝を見て、菜摘が噴き出す。
ワンコ属性……っていうか犬だろ。
その動きは、まさに犬そのもの。
これには私も笑いを堪えるのに必死だ。
「あっ、お友達と帰られるのですか?」
菜摘は笑いながら「ん~ん、私チャリだし~」と首を横に振ると、輝の肩を軽く叩いてから手をヒラヒラさせた。
「じゃ、またねぇ。 『このことは他言無用で、ネ〇フのワンコくん♡』」
「え?? なんですか?」
「……いや、気にしなくていい」
菜摘は本当に立派なヲタとなった。
……なんて恐ろしい子ッ!
「ところで君……待ってる間、なにしてんの?」
「あ……図書室で勉強してます」
何故か恥ずかしそうに、彼はそう言ってはにかむ。
「あのっ……先輩は『憧れている人に相応しくなる為努力してる』って聞きました! それって凄くカッコイイじゃないですか! だからその、僕も……」
最後の方、なんかうにゃうにゃ言っていて聞き取れなくなったが、照れ方が可愛らしい。
……確かにアルフレッドっぽい。
(っつーか別にそういう理由でもないような……いや、近いことは近いか)
私が努力しているのは、ジョギング中に話したこと以外にも確かに理由はある。
それは中学の頃の環境に起因する。
私は、私の好きなものを、馬鹿にしてくる輩が許せなかった。
私は好きなものの為に、馬鹿共よりも明確に上である必要があった。
成績も運動能力も自分より劣っている輩が私の好きなものを馬鹿にしたところで、『馬鹿には理解できない』とわかりやすく一蹴できる。
今は前髪を伸ばして顔を隠しているが、当時は見た目も持ち物も気にした。
くだらない輩のくだらない価値基準でも勝利してやりたかったから。
(言ってしまえば暗い情熱なわけだが……)
……彼の目はキラキラしている。
菜摘のこともあり、私は既に理解していた。
周囲の考えやイメージに依らない、自分で判断することのできる人間は、いる。
──まあ、それも彼の勝手な思い込みなのかもしれないけれど。
「…………」
私はそれが少し……ほんの少しだけ、気になった。
「輝……君は」
「はい?」
「なんで私が好きなんだ?」