⑩秘密【実咲視点】
晴天──程よく冷たい朝の空気。
『おはよう』の挨拶も抜きに、開口一番輝はこう言った。
「……フラれました……バルバロッサ大佐に……」
「そーだろうな」
涙目。からの、悲痛な叫び。
「あんなに仲良くなったのに!! どうしてェ~?!! ワタシ超傷付きましたァァァ!!」
ちょっとオネエっぽくなっているのは『主人公』への自己投影か。
うん、やりこんでいるなぁ。
えらいえらい。(棒)
曰く、『お前は何もわかっていない……』と言われたらしい。
その台詞は他のキャラの信頼度が低く、他キャラの回想エピソードを見ていない証拠である。
スキルゲージと好感度から信頼度は上がるが、おそらく彼は「気持ちはバルバロッサ大佐だけだから!」とか宣いつつスキルの方ばかりを上げていたのだろう。
好感度が規定値上がらないと回想エピソードが発生しないことも知らずに。
他キャラの場合はいくつか『絶対に見なければならない回想エピソード』が見れれば成功する場合もあるが、バルバロッサ大佐はひとつでも落とすと駄目だ。
彼への告白イベントが発生しても、必ず失敗する。
「大佐はああ見えて情に厚い方だ。 他攻略対象の苦しみを知ろうともせず、大佐と幸せになれると思うなよ?」
「ぐぅっ……『好感度アップ♡』といういかにも恋愛ちっくな軽い響きに惑わされていた……!」
凹みながらも輝は「でも流石大佐! 僕もっと皆とも仲良くなります!!」と決意を新たにしていた。
(めげないなぁ……)
ふと保健室でのことが思い出された。
『ところでなにを書こうとしてたんですか?』
『……やっぱり『バカ』とか? ですか?』
(……【S】だよ)
答えなかった答えが小さく過る。
──『頬に【S】と書く』
それは、バルバロッサ大佐・恋愛エンドのひとつ。
普段から大佐は様々なところで評価点を容赦なく付けてくるが、Aより上は絶対付けない。
大佐との恋愛イベントを全てクリアし、(中略)すると『潜入』というバルバロッサ大佐とのスパイミッションが起こる。
ラストで気を失った主人公の頬に、大佐は普段は付けない最高評価点である『S』とこっそり書いてくれるのだ。
『潜入』をクリア後、発生する告白イベントで告白すると成功する。
難易度は高いが、それでもバルバロッサ大佐攻略では、一番難易度の低いエンディングだ。
(まあ……あの時「『S』って書こうとした」……って言ったところで、輝じゃ気付かないだろうけど)
なにしろバルバロッサ大佐エンドの難しさもあるが、彼はゲームが下手だ。
「そもそも二人称『お前』は、大佐からレディとして認められていない」
「えっ?!」
大佐の二人称は相手を認めるに従って変化する。『お前→君→貴女』だ。
まだ『お前』の時点で大分酷い……そりゃフラれるわ。
「君、第二王子とのダンスイベントを断っただろう」
「だって……初めての公式ダンスは大佐と踊りたかったんだもの!」
……しかも、断った理由がこれである。
ゲーム下手以前の問題。
ヲタもビックリの自己投影っぷり。
そこは割り切れよ。
頬の落書きの真実は、秘密にしておく。
輝が気付くにしても、まだ当分先のことになるだろう。
──今はまだ、このままで。
ご高覧いただきありがとうございました!
三次元彼氏~ヲタの先輩に告白したら『二次元に嫁がいるから無理』と断られたので、二次元嫁に近付く為に頑張ります!~
※二次元嫁に近付く
→ちょっと違う意味になりました。(笑)