①告白【輝視点】
★基本的に話の重複はせず、交互に視点を変更しながら物語は進んでいきます。
バナー制作:黒森 冬炎様
その日の昼休み。
僕は衝動のままに廊下を走った。
目的はただひとつ。
──バーンッ!
「誰かッ……!」
全力で走ったせいで息が切れている。
次の言葉を出せないまま、勢いよく開けた教室の扉の先では黒板に、僕の告白が成功するか否か──どちらに賭けたかの人数をカウントする『正』の字が書かれていた。
──だが、そんなこと気にする僕ではない!
息を整えると、その場にいたクラスメイト全員に尋ねる。
「『仮初の姫SPY~貴方のお役に立ちますわ!~』
……ってゲーム、持ってる人ッ!?」
話は数分前に遡る。
「先輩ッ! 好きです!! 付き合ってください!!」
──という、僕のやや暑苦しい普遍的な告白は、
「悪いが、私には二次元に嫁がいるので無理だ」
──という、先輩のやや斜め上の返事をもって、2秒で断られた。
しかし僕は諦めなかった。
「ならば先輩の嫁を教えてください!!」と真摯に迫った(※若干の矛盾)結果、先輩は渋々教えてくれた。
それこそが乙女ゲーム『仮初の姫SPY~貴方のお役に立ちますわ!~』の中の攻略対象『バルバロッサ大佐』。その人──!!
これは実際にプレイし、彼の魅力を知るしかない……!
僕はそう決意していた。
僕……依田 輝は高校一年にして初めて恋に落ちた。
その相手である麻生 実咲先輩は、成績優秀で運動神経抜群の、小柄な美人……との噂。
何故噂かと言うと、目元まで前髪を伸ばして顔を隠しているからだ。リアルの男に言い寄られるのが嫌で、と話に聞いた。
だが顔の美醜など些細な問題である……というか、前髪が長かろうが丸坊主だろうが先輩は美しい。間違いない。(※惚れた欲目)
そんなパーフェクト・ヒューマンの麻生先輩。彼女は『やり込み系ゲーヲタ』だそう。
中でも数年前、その業界でそれなりにヒットしたらしいコンシューマー乙女ゲーム、『仮スパ(略称)』。
これに魂を捧げたらしい。
『仮スパ』は主人公の平民女子が、某国の本当は存在しない末姫としてスパイ活動をすることになり、その為に攻略対象から教育(ミニゲーム等)を受けながらスキルと好感度を上げていくストーリー分岐型乙女ゲームだ。
──と、ゲームを貸してくれる予定のクラスメイト、倉田さんが言っていた。
そこで武術指南をしてくれるのが『バルバロッサ大佐』。
スマホで検索し、画像を見たが確かにカッコイイ。
所謂クールキャラだ。
曰く、『バルバロッサ大佐に相応しい女である為』に先輩は己を磨いているという。
だから文武両道なのだろう。
憧れの人に恥じない自分でありたい──やはり先輩は素敵だ。
僕も見習いたい……いや、見習うべき。
先輩が毎朝早朝にジョギングをしているという情報を手にした僕は、放課後下駄箱で先輩を待ち伏せした。
「せせせせ先輩! あのっ……」
「……なんだ」
素っ気ない返事だが、特に嫌悪されている感じではない。
めちゃくちゃ噛んでしまって恥ずかしいが、先輩に時間を割いていただいているのだ。恥ずかしがってモジモジしている場合ではない。
「毎朝走っているって聞きました! ごっ……ご一緒してよろしいでしょうか?!」
恥ずかしさと緊張で、マトモに先輩が見れない。
フラれたばかりなのに『しつこい』とか『キモい』とか思われてないだろうか。超心配。
「……構わんが、待ったりしないぞ? 5時だし」
先輩は少し驚いた様子だったけれど、幸い引いた、というわけでもなさそうで。
最終的には『好きにしろ』と言われた。
口調は厳しいが、優しい。好き。
「よ~し! 頑張るぞぉ!!」
何を頑張るって、先ずはゲームである。
先輩の理想である二次元嫁『バルバロッサ大佐』がどんな御仁か知らねば話にならない。
倉田さんと待ち合わせた場所に行き、ゲームを借りた僕は、せめてものお礼としてコンビニで購入したAmazonギフト券(¥500)を無理矢理握らせて、家にダッシュした。
倉田さんも『先輩とは違うタイプのヲタ』だそうだ。
少額ではあるが、それでも好きだという『薄い本』なら買えるかもしれない。
『厚い本』は無理にしても。
(※『薄い本』とは『同人誌』を指す隠語だが、輝は理解していない模様。ちなみに倉田さんは腐女子である。)
2022.11.21
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