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アフロディーテが残した汚点

 鰐と河馬を対戦させたら、どのような決着になるのか、と言われれば、確実にわかることは、近くにいる人間は危ないということである。

  それと同じように、誰が考えても危ない状況に立たされていることが分かるような現状にいるのが紛れもないこの僕だった。

 では、現状を説明しよう。

 簡潔に言えば、

 僕は今、死体になっている。

 死体になっているのに意識があるのか、という人間もいるだろうから詳しく説明しよう。

 僕は今天井を見つめている、見知った天井である。僕の家の木の天井だ。

 ただ、どうしてか僕はこれより進めないのである。どんな十字キーでも動かせないいバグのような様になっている。

 これを私は死体と総称することにしたのだ。

 お前、それは死体じゃないだろう、と誹る輩もいるかもしれないが、20年は生きてきた中で初めての経験なのだ、惑溺して判断を謬ってもおかしくはないだろう。

 むしろこれ程冷静で入れること自体がすごいのだと、誉れだと思って欲しい。

 さて、寝返りを打とう。

 打てない。

 それはそうだ。

 僕としたことが、なぜ動けないのに寝返りを打とうとしたのだろうか。

 背中が痒いな、掻くか。

 搔けない。

 それはそうだ。

 僕としたことが、なぜ動けないのに背中を掻こうとしたのだろうか。

 水が飲みたいな、飲むか。

 飲めない。

 それはそうだ。

 いや、いつまで続けるんだ僕は。

 動けないと前述しているのに、文化的な生活を求めようとしている。

 今気づいたが、僕生産的な生活をしていないな、水を飲もうとか、背中を掻こうだとか。もっと株価の動向をチェックするだとか、金融の勉強を使用だとか生産的なことをー

 いや、いかん。僕はなぜ動けない状態で自己肯定感を失っているのだろう。よくないぞ。

 でも、こんな惨憺たる場所から逃げることなんてできるのか?僕は碌でも無い人生を送っているというのに、そんなセンセーショナルな考えが思い浮かぶのか?

 いや、いかん。僕はなぜ動けない状態でエフェカシーを失っているのだろう。よくないぞ。

 あぁこのまま死んで行くのだろうか、いやでも、僕はそこまで正しく清く美しく麗しく生きてはいないため、動いていたとしても末路は同じだったのかもしれない。

 そもそも、僕はこうして12時間はたった頃だとは思うが訪問者の一人もいない。

 人望がないのだ、圧倒的に。

 逆にいえば、人望がないというところで僕の右に出る者はいないだろう。そもそも右に隙間が空いていないのである。

 これがコペルニクス的転回だ。

 いや、この場合コペルニク的転回と言った方が正しいだろうか。

 こんな悲しいことを言っても同情してくれる人はいないのである。そもそも、誰も僕を知ることがないため、同情する権利を持っている人間がいないのだ。

 いや、知る権利はあるのに知ろうとしていないのもその人間な訳だが。

 昔、『かわいそうなぞう』という本を読んだことがある。端的に言えば、動物園の象が殺処分されるからかわいそうだという話だ。

 でもこれは、かわいそうだと思えるところがわかりやすく目に見えているだけで、檻に入れられている時点で可哀想な象だろう。

 それとも、餌を毎回与えてやっているのだから快適な暮らしをしているなどと奢り、傲慢な考えで可哀想じゃないと思っているのだろうか。

 そんな道理が通りはしない。

 僕だって同じである。健康で文化的な最低限度の生活を送っているかもしれないが、だからといって可哀想ではない、だとか、どうでもいい、だとかそういう話ではない。

 なのに、同情されないのである。

 剰え、僕は死体になってしまった。

 実は、動けないと言っていた私の現状はこう語っているうちに変わっているのである。

 僕は今幽体離脱をしているのだ。きっと。

 なぜならば、僕が見えるからだ。

 僕の、愛されることのなかった顔や体躯がはっきりと見える。見知った天井からではなく、青天井からだ。

 はは、ついにお迎えが来てしまったようだ。僕はどこへ飛ばされるのだろう。煉獄か?辺獄か?地獄か?それとも極々一般に生々流転されるのか。

 幸せとかけまして僕の心と解きます、その心はどちらも満たされないものですと断言できるほどに悲しい人生だった僕はこの世で何も出来ずに路傍の石をやっていただけで亡くなるらしい。

 あとから聞いた話だと、僕は発見されるまで一年かかったようだ。しかも、発見された理由が家賃を滞納していたため、家を壊そうと鉄球を家にぶつけた時、僕の骨が粉々になったかららしい。最期まで散々な惨憺さである。

 春の夜の夢のごとくたけき者ですらない僕はこうして死んでいったのである。

 というところで目が醒めた。

 ここは見知らぬ天井だった。

 もしかすると、輪廻転生が始まったのかと思い諸手を見ると、とても小さかった。

 僕は嬰児になったのだ。

 僕はもしかして、今回なら新しい人生を歩めるのではないか、という期待と、また同じことが繰り返されるのではないかという苦しみで涙を流した、と思ったが当然まだお腹の中なのでただの羊水だったが、もし生まれていたら号泣していただろう。なぜ赤子があんなにうるさく泣くのかがわかった気がする。

「はー16歳で妊娠ですか」

「そうなんです。今この子ショックで喋られなくて、すみません」

「いえいえ、仕方ありませんよ。それで、その子はどうします?」

「堕胎させます。強姦してきた男の子供なんて産めさせるわけがありません。それはこの子も同じ気持ちです。ちゃんと家で何回も話し合いました」

「わかりました。では、生まれてきた赤ちゃんは処理させていただきます」

「ありがとうございます」

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